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書き出し

覚せい剤依存症におけるエピジェネティッククロック解析

竹村, 幸洋 神戸大学

2023.04.19

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

Epigenetic clock analysis in methamphetamine
dependence

竹村, 幸洋
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-04-19

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
乙第3430号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100485861
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(論文博士関係)

学位論文の内容要旨

Epigenetic clock analysis in methamphetamine dependence

覚せい剤依存症におけるエピジェネティッククロック解析

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻


神 医 学

(指導教員:菱本明豊教授)




幸 洋

[はじめに]
メタンフェタミン(MA)は違法薬物であり深刻な公衆衛生、社会問題、神経変性変化を
引き起こしている。MA を含むアンフェタミン系覚せい剤は、世界中で大麻に次いで最もよ
く使用されている違法薬物であり、MA の使用は国際的な公衆衛生問題である。MA 依存症
患者の死亡率は他の薬物(コカイン、アルコール、大麻など)使用者よりも高く、MA 依存
症の標準化死亡率 (SMR)は 4~6 である。そこで私たちは MA 依存症患者では生物学的
老化が加速しているという仮説を立てた。
近年、老化の研究において DNA メチル化(DNAm)などのエピジェネティックな変化と
老化との関連が注目されている。ゲノム全体の DNAm プロファイルに基づいていくつかの
「エピジェネティッククロック」が確立し、DNAm に基づく生物学的年齢(DNAm 年齢)
を算出することが可能となっている。よく研究に用いられている 5 つの DNAm 年齢
(HorvathAge、HannumAge、SkinBloodAge、PhenoAge、GrimAge)は、それぞれ固有
の CpG 部位に基づいており、開発に使用した DNAm データの種類や組織サンプルが異な
ることから、生物学的老化における異なった側面を捉えていると考えられている。また
GrimAge の構成要素である DNAm に基づく 7 つの血漿蛋白と喫煙量も年齢予測因子とし
て報告されているものである。
テロメアは染色体の末端に位置する繰り返し塩基配列であり、加齢に伴い短縮するため
テロメア長も生物学的老化のバイオマーカーとして研究されている。さらに、DNAm に基
づくテロメア長(DNAmTL)を算出する方法も確立している。
MA 依存症患者は一般集団に比べて死亡率が高い。また MA 依存症患者の脳試料を用い
たゲノムワイドの DNAm 解析により、神経変性に関連する遺伝子のメチル化の差異が確認
されている。これらの知見は MA 使用が生物学的老化へ影響している可能性を示唆してい
る。
本研究では、MA 依存症患者と健常対照者の末梢血試料から得られた DNA を用いて、ゲ
ノムワイドの DNAm プロファイルを測定し、5 つの DNAm 年齢と DNAmTL、および
GrimAge の構成要素を算出し、患者群と健常対照群で比較検討した。
[対象および方法]
(対象)
MA 依存症患者 24 名(男性 19 名、女性 5 名)と年齢と性別が一致した健常対照者 24 名。
(DNAm 年齢の解析)
末梢血試料から DNA を抽出し、Illumina Infinium HumanMethylationEPIC BeadChip
を用いてゲノムワイドの DNAm プロファイルを測定した。さらに DNAm 年齢 online
calculator((https://horvath.genetics.ucla.edu/html/dnamage/))を用いて、5 つの DNAm
年齢(HorvathAge、HannumAge、SkinBloodAge、PhenoAge、GrimAge)と DNAmTL
を算出し、予測される値との差(AgeAccelHorvath、AgeAccelHannum、AgeAccelSkinBlood、

AgeAccelPheno、AgeAccelGrim、および DNAmTLadjAge)について MA 依存症者群と健
常対照群で比較検討した。
さらに、GrimAge 成分である 7 つの DNAm に基づく年齢関連血漿蛋白(adrenomedullin
[ADM]、beta-2-microglobulin [B2M]、cystatin C、growth differentiation factor-15 [GDF15] 、 leptin 、 plasminogen activation inhibitor-1 [PAI-1] 、 tissue inhibitor of
metalloproteinases-1 [TIMP-1])および DNAm に基づく喫煙量(DNAmethylation-based
smoking pack-years: DNAmPACKYRS)についても算出し、MA 依存者群と健常対象群で
比較検討した。
(統計解析)
2 群間の連続変数は Mann-Whitney U 検定で、3 群以上は Kruskal-Wallis 検定(ポス
トホックテスト;Steel-Dwass 多重比較検定)で解析した。カテゴリー変数は χ2-test また
は Fisher's exact test を用いて解析した。連続変数の相関は Spearman 相関解析を用いた。
さらに重回帰分析により年齢、性別、body mass index(BMI)
、DNAmPACKYRS といっ
た老化と関連する交絡因子の影響を補正した。
[結果]
MA 依存症患者群では健常対照群に比べ、AgeAccelPheno (p = 0.009)と AgeAccelGrim
(p < 0.001) が有意に高かった。重回帰分析で交絡因子を補正したところ、AgeAccelPheno
、DNAmTLAdjAge(p = 0.038)と MA 依存症と有意な関連を認めた。
(p = 0.014)
AgeAccelGrim については、DNAmPACKYRS を含めた重回帰分析では有意な関連を認
めなかった。しかし DNAmPACKYRS 自体が GrimAge の構成要素であることから、
DNAmPACKYRS を除く交絡因子で解析したところ、MA 依存症と有意な関連を認めた(p
< 0.001)

GrimAge の構成要素については、DNAmB2M が交絡因子を補正しても MA 依存症と有意

な関連を認めた(p = 0.025)
喫煙については、MA 依存症患者ではほとんどが現在の喫煙者(24 名中 22 名)であるこ
とから、DNAmPACKYRS と喫煙歴との関係を解析した。その結果、喫煙歴のない健常対
照者では予想通り有意な低値を示したが、喫煙歴のない MA 依存症患者であっても、現在
の喫煙者と同程度の高値を示す傾向が観察された。
[考察]
我々の研究では、MA 依存症患者群において健常対照者群よりもエピジェネティックな老
化が加速している可能性が示唆された。交絡因子を補正後において、AgeAccelPheno の
AgeAccelGrim の加速、DNAmTladjAge の減少、DNAmB2M の増加が MA 依存症と有意
に関連していた。

PhenoAge と GrimAge は死亡までの時間や様々な健康問題の発生率を予測することに
関して他の DNAm 年齢より優れていることが報告されている。MA 依存症患者の死亡率は
一般集団の死亡率よりもかなり高いことが知られている。我々の研究から、MA 依存症は生
物学的老化と関連しており、AgeAccelPheno および AgeAccelGrim は MA 依存症患者の生
物学的加齢と健康リスクの評価に有用であることが示唆された。
DNAmPACKYRS は GrimAge の構成要素の一つである。MA 依存症患者のうち、喫煙
経験のない患者の DNAmPACKYRS は、
調査時に喫煙していた患者と同様の傾向を示した。
MA 使用が喫煙歴とは別個に DNAmPACKYRS の増加と関連している可能性があり、MA
使用と喫煙には DNAm の変化について、
共通のメカニズムが存在する可能性が示唆された。
TL は生物学的老化を評価するために広く使用されているバイオマーカーである。TL 短
縮は MA 依存患者で見られ、MA 使用期間が長いほど TL は短くなることが報告されてい
る。我々の研究では、交絡因子調整後の DNAmTLadjAge の低下と MA 依存症が有意に関
連していたことから、先行研究と一致する結果であった。
DNAmB2M について、MA 依存症患者群において有意な高値を認めた。B2M は神経毒
性があり神経新生に悪影響を及ぼし認知機能の低下や精神病の発症につながることが報告
されている。MA 使用が B2M 濃度を上昇させ、精神症状の発現に関連する可能性が示唆さ
れた。その病態機序の解明にはさらなる研究が必要である。
本研究にはいくつかの限界がある。第一に、サンプル数が比較的少なく、また末梢血由来
のサンプルデータしか使用していない。第二に、我々は DNAm に基づく血漿蛋白を解析し
たが、これらは DNAm プロファイルに基づいて予測されたものであり、実際の測定値を用
いて同様の結果が得られるかの検証が必要である。第三に、我々は DNAm への影響が報告
されている教育、幼少期の虐待、身体活動、食事などに関する情報を得られていない。
今回の研究で、我々は MA 依存症患者の DNAm 年齢、DNAm に基づく血漿蛋白につい
て調査した。その結果、AgeAccelPheno の増加、AgeAccelGrim の増加、DNAmTLadjAge
の減少、DNAmB2M の増加について、MA 依存症と有意な関連を認めた。これにより MA
使用による生物学的老化の加速と、年齢と関連する特定の DNAm が変化している可能性が
示唆された。これらの知見により、MA 依存症の病態生理や身体的影響の解明に寄与するこ
とが考えられた。

神戸大学大学院医学(
系)
研究科(論文博士)


論文題目



審 査の 結 果の 要 旨

第 2180号





受 付 番号



竹村

幸洋

l
覚せい剤依存症における エピ ジェネ ティックク ロック解析

Ti
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Ep
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g
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主 査
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審査委員

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丁」長喜ヌ鱈こ
仄釘村}

揺一
少茂灯


要旨は 1,000字∼ 2
, 000字程度)

【目的 】
メタンフェタミン (
MA
)は違法薬物であり深刻な公衆衛生、社会問題、神経変性変化を引き起こし
ている。M Aを含むアンフェタミン系覚せい剤は、世界中で大麻に次いで最もよく使用されている違
法薬物であり、 M Aの使用は国際的な公衆衛生問題である。M A依存症患者の死亡率は他の薬物
(コカイン、アルコール、大麻など)使用者よりも喬く、 M A依存症の標準化死亡率 (
SMR)は 4 6
である。そこで私たちは M A依存症患者では生物学的老化が加速しているという仮説を立てた。

M A依存症患者は一般集団に比べて死亡率が高い。また M A依存症患者の脳試料を用 いたゲ
ノムワイドの DNAメチル化 (
DNAm)解析により 、神経変性に関連する遺伝子のメチル化の差異が
確認されている。これらの知見は M A使用が生物学的老化へ影響している可能性を示唆している。
本研究では、M A依存症患者と健常対照者の末梢血試料から得られた DNAを用いて、ゲノムワ
イドの DNAmプロファイルを測定し、 5 つの DNAm年齢と DNAmテロメア長 (
TL)、および
Gr
i
mA
geの構成要素を算出し、患者群と健常対照群で比較検討した。

方法】
(対象)

M A依存症患者 24名(男性 19名、女性 5名)と年齢と性別が一致した健常対照者 24名。
(
DNAm年齢の解析)
末梢血試料から DNAを抽出し、 I
l
l
u
m
i
naIn
f
ini
umHumanM
e
t
hyl
a
t
i
onEPICBeadCh
i
pを
用いてゲノムワイドの DNAmプロファイルを測定した。さらに DNAm年齢 o
n
l
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nec
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ps
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u
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i
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ml/dnama
ge
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)を用いて、 5 つ の DNAm 年 齢
(Horva
t
hA
ge、HannumA
ge
、Sk
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nB
l
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od
.
A
ge
、PhenoA
ge
、Gr
i
mA
ge
)と DNAmTLを算出し、
AccelHorva
t
h、AgeAcc
e
lHann
um、Age
A
c
c
e
lSk
i
nBlood、
予 測 さ れ る 値 と の 差 (Age
Age
A
c
c
elPheno、Age
A
c
c
e
lGr
i
m、および DNAmT
Lad
j
Age
)について M A依存症者群と健常対
照群で比較検言寸した。
i
mA
ge成分である 7つの DNAm に基づく年齢関連血漿蛋白 (
a
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e
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u
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さらに、 Gr

[ADM]、be
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a-2-m
i
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B2M]、c
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[
GDF-15]、l
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s
1[
T
I
MP-1]
)および DNA
m に基づく喫煙 量 (DNA
me
t
hyl
a
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i
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n
b
a
se
d
smok
i
ngpa
c
k
-yea
r
s
:DNAmPACKYRS)についても算出し、 M A依存者群と健常対象群で比較
検討した。


結果 】

M A依存症患者群では健常対照群に比べ、 Ag
e
AccelPh
e
no(
p= 0
.
0
0
9
)とAg
e
A
c
c
e
l
G
r
i
m
(
p<0
.
0
0
1)が有意に高かった。重回帰分析で交絡因子を補正したところ、 Ag
eAcc
e
lPh
e
no(
p=
0
.
0
1
4)、DNAmTLAd
j
Ag
e
(
p =0
.
0
3
8)とM A依存症が有意な関連を認めた。 Ag
e
A
c
c
e
lGr
i
m
については、 DNAmPACKYRS を含めた重回帰分析では有意な関連を認めなかった。しかし
DNAmPACKYRS自体が Gr
i
mA
g
eの構成要素であることから、 DNAmPACKYRSを除く交絡
因子で解析したところ、 M A依存症と有意な関連を認めた(p<0
.
0
0
1
)。
Gr
i
mA
geの構成要素については、 DNAmB2Mが交絡因子を補正しても M A依存症と有意
な関連を認めた(p=0
.
0
2
5
)。
喫煙については、 M A依存症患者ではほとんどが現在の喫煙者 (
24名中 22名)であることか

、 DNAmPACKYRSと喫煙歴との関係を解析した。その結果、喫煙歴のない健常対照者では
予想通り有意な低値を示したが、喫煙歴のない M A依存症患者であっても、現在の喫煙者と同
程度の高値を示す傾向が観察された。

結論 】
今回の研究で、我々は M A依存症患者の DNAm年齢、 DNAmに基づく血漿蛋白について
調査した。その結果、Ag
eAccelPh
e
noの増加、 Ag
eAcc
e
lGr
i
m の増加、 DNAmTLad
j
Ag
eの減

、 DNAmB2Mの増加について、 M A依存症と有意な関連を認めた。これにより M A使用によ
る生物学的老化の加速と 、年齢と関連する特定の DNAmが変化している可能性が示唆された。
これらの知見により、 M A依存症の病態生理や身体的影響の解明に寄与することが考えられた。
以上、本研究は 、 覚せい剤使用による生物学的老化の加速と、年齢と関連する特定の DNAメ
チル化が変化している可能性を明らかにしたものであり、覚せい剤依存症の病態生理や身体的
影蓉を理解する上で重要な貢献をしたものとして価値ある集積であると認める。よって、本研究者
は、博士(医学)の学位を得る資格があると認める。

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