The post-operative pathological prognostic parameters of clear cell renal cell carcinoma in pT1a cases
概要
【緒言】
近年、小径腎細胞癌(Renal cell carcinoma: RCC)の患者数、特にpT1a症例数が増加している。その患者のほとんどは無症候性であり、超音波検査、コンピューター断層撮影(CTスキャン)、磁気共鳴画像(MRI)検査などにより早期に診断される。一般的にpT1a RCCの患者は緩徐な臨床経過をたどり、予後良好とされているため、アクティブサーベイランスも治療選択肢として推奨されている。しかし、一部のpT1a RCC患者では、遠隔転移をきたし、予後不良なものも存在する。淡明細胞型腎細胞癌(Clear cell RCC: ccRCC)は、RCCにおいて最も多いサブタイプであり、特にpT1a ccRCCの症例では、正確な予後を予測することが重要であると考えられる。また、RCCの病理学的予後因子は、腫瘍径の大きなものを含めて解析されていることが多く、pT1aに限定した予後因子の解析は十分に行われていない。
【目的】
・pT1a ccRCC患者の病理学的予後因子を明らかにする。
・新しく提案した浸潤増殖様式(Growth pattern)についての評価を行う。
【対象および方法】
(臨床的および病理学的評価について)
1982年5月から2007年3月までに名古屋大学病院および5つの関連施設(名古屋第二赤十字病院、社会保険中京病院、豊橋市民病院、小牧市民病院、岡崎市民病院)において手術を施行したpT1a ccRCC患者303例のプレパラートを集め、臨床情報を伏せた状態で同一の病理医(名古屋第二赤十字病院病理部都築豊徳)による病理学的な再評価を行った。これらの中で、術前転移のない293例のpT1a ccRCC患者について無病生存率(Disease-free survival: DFS)および癌特異的生存率(Cancer-specific survival: CSS)について臨床病理学的因子の解析を行った。
293例全例において術後補助療法は未施行であり、病理学的ステージは、2010年AJCC/UICC分類に従って再評価を行った。臨床病理学的因子として、患者の年齢、腫瘍の大きさ(最大径)、核異型度(Fuhrman grade)、リンパ管浸潤(Lymph-vascular invasion: LVI)の有無、腫瘍壊死(Necrosis)の有無、および浸潤増殖様式(Growth pattern: expansive or infiltrative)、繊維性被膜(Fibrous capsule)の有無、瘢痕(Scar)の有無、血種(Hemorrhage)の有無について検討を行った。
新しく提案した浸潤増殖様式(Growth pattern)の定義をFigure1に示す。写真はExpansiveパターンとInfiltrativeパターンの代表的な形態的特徴を示している。Expansiveパターンでは腫瘍との境界が明瞭であり、腫瘍内に正常な腎組織は無いが(a)、Infiltrativeパターンでは癌細胞は正常な腎組織に浸潤している(b)。(c)はInfiltrativeパターンの特徴的な像であるが、正常な糸球体が腫瘍に囲まれて存在している。
(統計分析について)
フォローアップでは、手術後5年間は少なくとも半年ごとにCTスキャンまたはMRIが施行され、その後は毎年行われた。主要評価項目は、CTスキャンまたはMRIで確認された手術から局所再発または遠隔転移までの時間として定義されるDFS、副次評価項目は、癌または疾患関連の合併症に起因する手術から死亡までの時間として定義されるCSSとした。生存曲線は、カプラン・マイヤー法によって推定され、ログランク検定によって比較した。Cox比例ハザード回帰を使用して多変量解析を行い、独立した予後因子を選択するためにStepwiseモデルを使用した。0.05以下のp値を統計的に有意とした。統計解析は、JMPver.7(SAS Institute Inc、Cary、NC、USA)により行った。
【結果】
術前転移のない293例のpT1a ccRCC症例では、男女比は4.4: 1で、患者の年齢は21歳~85歳(中央値: 59歳)、フォローアップ期間は1〜265か月(中央値: 62か月)であった。患側は右側: 165例、左側: 127例、1例が両側性であった。手術は243例で根治的腎摘除術、50例で腎部分切除術が施行された。術後25例の患者(8.5%)で遠隔転移を示した(骨: 11例、肺: 10例、肝臓: 3例、リンパ節: 2例、副腎: 1例、対側腎: 1例)。5年および10年のDFSは、それぞれ92.3%(95%CI: 0.888–0.958)および84.6%(95%CI: 0.764–0.916)であった。5年および10年のCSSは、それぞれ97.6%(95%CI: 0.954–0.998)および93.6%(95%CI: 0.892–0.980)であった。カプラン・マイヤー法で計算された単変量解析では、Figure 2に示すようにFuhrman grade(grade 1+2 vs.grade3+4)、LVI、Growth patternおよびNecrosisは、DFSとCSSの両方で予後不良因子であると考えられた(P<0.0001)。多変量解析では、Fuhrman grade(grade 1+2 vs. grade 3+4)(P=0.0048、オッズ比: 1.532、95%CI: 1.139–2.061)、Growth pattern(P=0.0275、オッズ比: 6.768、95%CI: 1.236–37.061)、およびNecrosis(P=0.0188、オッズ比: 6.682、95%CI: 1.371–32.572)がDFSで統計的に有意差を認めた。CSSにおいても、Fuhrman grade(P=0.0189、オッズ比: 2.336、95%CI: 1.151–4.743)およびGrowth pattern(P=0.0016、オッズ比: 82.098、95%CI: 5.310–1269.408)で統計学的に有意差を認めた。
【結論】
Fuhrman grade、Necrosis、およびGrowth patternは、pT1a ccRCCの独立した予後因子であると考えられた。これらの病理学的因子がccRCCで確認された場合、pT1a症例においても、注意深いフォローアップが必要であると考えられる。また、Growth patternは、ccRCCの新しい予後予測因子であると考えられ、その有効性については、さらなる研究が必要である。