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大学・研究所にある論文を検索できる 「ApcMin/+ マウスの腸管腫瘍に対する大建中湯の効果について」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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ApcMin/+ マウスの腸管腫瘍に対する大建中湯の効果について

Kong, Lingling 神戸大学

2021.03.25

概要

大腸癌は、肺がんと乳がんについで罹患者数が 3 番目に多い癌であり、死亡原因として 2 番目に多い。近年、早期発見、外科治療、化学療法などの治療戦略の改善により生存率が改善している。しかし、これらの治療法は、患者の身体的、精神的、経済的な生活の質に影響を及ぼし、しばしば深刻な副作用を引き起こす。したがって、より安全で効果的な新規治療法が常に探求されている状況である。更に、発症を抑制するような予防的治療法が開発されれば、より有益であると考えられる。

腸内細菌叢とその代謝産物を含めた腸内環境がヒトの健康に深いかかわりがあることが近年の研究から明らかとなってきている。食事(食の西洋化など)が要因として関わるとされている肥満、糖尿病、大腸癌などの病気の発症において、摂取した食物による腸内細菌叢の構成変化が関与することを示唆する研究成果も多数報告されている。また、大腸癌は、良性ポリープである腺腫性病変が成長し発生する adenoma- carcinoma sequence という発生経路が知られており、径が 5mm 以上の腺腫において癌細胞を含む確立が上昇するというデータがある。これらのことから、腸内環境を変化させることで腺腫性病変の成長抑制ができれば、癌のリスクを低減させることができる可能性が考えられる。

大建中湯(TU-100)は、腸管運動の調整作用があり、日本では便秘の治療に広く処方されている漢方薬である。これまでの研究では、TU-100 の成分が腸内細菌叢の構成を変化させることが報告されている。つまり、TU-100 によって腸内環境が変化して、腸管腫瘍の成長に影響を及ぼす可能性があることを示唆する。もしそのような作用があるのであれば、便秘治療のみならず、大腸癌の発症抑制として予防的に使用することも可能であると考えられる。そこで本研究では、腸管腫瘍モデルである ApcMin/+マウスを使用し、TU-100 が腸内環境を変化させるか、また、腫瘍成長を変化させるか検討することとした。

マウスの離乳後 6 週齢からコントロール食群とコントロール食に TU-100 2%を混和した食餌を 9 週間与え、15 週齢において糞便回収、腸管腫瘍数の解析、組織の回収をおこなった。まず、TU-100 が腸内環境に影響を及ぼすか検討する目的で 16SrRNA遺伝子シークエンスを次世代シークエンサーにて腸内細菌叢を網羅的に解析した。主座標分析において、TU-100 を与えた群では、コントロール食群と明らかに異なるクラスターを形成することが分かり、TU-100 が腸内細菌叢構成に影響を及ぼすことが示された。腸内環境が生体に影響を及ばす媒介物として、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が重要であることが知られているため、TU-100 により、糞便中の短鎖脂肪酸量が変化するかも検討した。しかし、我々の検討からは、酢酸、酪酸、プロピオン酸という代表的な短鎖脂肪酸において TU-100 を与えた群とコントロール食群とで有意な差を認めなかった。更に、腸管組織から mRNA を抽出し、腸管腫瘍の成長に関わるとされるアミノ酸トランスポーターやシクロオキシゲナーゼ 2 の発現、また、炎症性サイトカインの発現レベルを定量 PCR にて解析したが、検討範囲内で両群間に差は認められなかった。15 週齢での腸管腫瘍について、数と径について詳細に解析をおこなったが、小腸、大腸ともに 2 群間で差はみとめられなかった。以上のことから、我々の実験系においては、TU-100は腸内細菌叢を変化させるが、短鎖脂肪酸量や組織レベルでの炎症プロファイル等には明らかな差は認められず、腫瘍成長を抑制、または、促進させることは観察されなかった。

過去の論文から、TU-100 投与により、腸内細菌叢と腸内容物に含まれる短鎖脂肪酸量の変化や、腸炎モデルを使用した研究において免疫細胞からのTNFα産生の抑制作用があり腸炎レベルを低減する作用があると報告とされている。更に、興味深いのは、発癌性物質である azoxymethane を使用したAOM大腸癌モデルや、本研究と同じApcMin/+マウスを使用した研究にて、腫瘍数を減少させるという報告があり、我々の結果と異なるものであった。この既報告においては、マウス株として BALB/c が使用され、コントロール食は AIN76A が与えられていた。本研究では C57BL6 マウス株を使用しており、遺伝子背景が異なる動物を使用している。更に、食餌は CE2 とやはり異なるものを使用しており、既報告と本研究と結果が反駁する理由として挙げられる。更に重要な点として、既報告では解析週齢が 24 週と本研究よりも長期飼育後であったにもかかわらず腫瘍の数が 40 個程度である一方、本研究では 15 週齢で 70 個程度が認められていた。腫瘍成長において TU-100 以外の食餌内容や遺伝子背景などの条件が結果に大きく影響しているものと考えられた。TU-100 により腸内細菌叢が変化するという既報告においても、本研究結果と詳細に比較すると、本研究で認めた変化(プレボテラ属、バクテロイデス属、およびリケネラ科の AF12 属の相対的な存在量に有意な増加)とは結果が全く一致していなかった。これらのことは、遺伝子背景、食餌、更に、おそらくは、個体が元々有している菌種の違いにより、TU-100 投与が疾病に対して一貫した効果が得られるとは限らないことを示す結果と考えられた。

本研究から、TU-100 は腸内細菌叢へ変化を及ぼすことが可能であるが、代謝産物などの他の腸内環境因子への作用は乏しいことが示唆された。腫瘍成長には明らかな影響を認めなかったが、腫瘍への影響を結論付けるには、食餌内容の変更など異なる条件設定にて更に詳細な検討と研究データの蓄積が必要と考えられた。

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