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大学・研究所にある論文を検索できる 「非小細胞肺がん患者におけるオシメルチニブ有害事象とSTAT3, CYP3A5, ABCG2遺伝子多型との関連」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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書き出し

非小細胞肺がん患者におけるオシメルチニブ有害事象とSTAT3, CYP3A5, ABCG2遺伝子多型との関連

丹田, 雅明 神戸大学

2023.03.25

概要

Kobe University Repository : Kernel
PDF issue: 2024-05-02

Association of STAT3, CYP3A5, and ABCG2
Polymorphisms With Osimertinib-induced Adverse
Events in NSCLC Patients

丹田, 雅明
(Degree)
博士(医学)

(Date of Degree)
2023-03-25

(Resource Type)
doctoral thesis

(Report Number)
甲第8685号

(URL)
https://hdl.handle.net/20.500.14094/0100485869
※ 当コンテンツは神戸大学の学術成果です。無断複製・不正使用等を禁じます。著作権法で認められている範囲内で、適切にご利用ください。

(課程博士関係)

学位論文の内容要旨

Association of STAT3, CYP3A5, and ABCG2 Polymorphisms With
Osimertinib-induced Adverse Events in NSCLC Patients

非小細胞肺がん患者におけるオシメルチニブ有害事象と
STAT3, CYP3A5, ABCG2 遺伝子多型との関連

神戸大学大学院医学研究科医科学専攻
薬 剤 学
(指導教員: 矢野 育子 教授)

丹田

雅明

【背景・目的】
オシメルチニブは epidermal growth factor receptor (EGFR) 遺伝子変異陽性の非小細
胞肺がん (non-small cell lung cancer: NSCLC) のキードラッグの一つであるが,有害
事象のリスク因子に関する報告は少ない.オシメルチニブは,チトクローム P450
(CYP) 3A4/5 により活性代謝物 AZ5104 および AZ7550 に代謝され,それらの血中濃
度曲線下面積の合計はオシメルチニブの約 10%に相当する.また,オシメルチニブお
よび 2 種の活性代謝物は,薬物排出トランスポーターである乳癌耐性タンパク質
(breast cancer resistant protein: BCRP; 遺伝子名 ABCG2) の基質である.さらに,オシ
メルチニブ有害事象のうち皮疹,下痢,QT 延長の発現が,オシメルチニブの血中濃
度曲線下面積と関連することが報告されている.したがって,これら薬物代謝酵素や
トランスポーター機能の個体差は,オシメルチニブの薬物動態および有害事象の発
現に影響を与える可能性が考えられる.
Signal transducer and activator of transcription 3 (STAT3) は,種々のサイトカインに対
する細胞応答に関与するシグナル伝達因子であり,細胞増殖の恒常性を維持するとと
もに,がん細胞の転移や遊走にも中心的な役割を果たす.STAT3 の高活性状態は
NSCLC の組織切片や細胞株において観察され,NSCLC 細胞株においては STAT3 活性
を阻害すると細胞増殖が著しく抑制されることが知られている.さらに,STAT3 を構
成因子とする Janus kinase-STAT シグナル伝達経路は EGFR チロシンキナーゼ阻害の
代償性シグナル伝達経路であり,EGFR-チロシンキナーゼ阻害薬 (tyrosine kinase
inhibitor: TKI) の感受性と関連することが報告されている.また,STAT3 の遺伝子多型
は,マルチキナーゼ阻害薬による手足皮膚反応や口内炎,mammalian target of rapamycin
(mTOR) 阻害薬による間質性肺疾患,プラチナ系抗がん薬による全身毒性などの有害
事象の発現と関連することも報告されている.以上の知見から,STAT3 の遺伝子多型
は,オシメルチニブによる有害事象発現および有効性の予測因子となる可能性がある.
本研究では,オシメルチニブ治療を受けた NSCLC 患者において,上記の関連因子
のうち日本人において薬物動態や薬物反応性への影響が多数報告されている一塩基
多型 STAT3 -1697C>G,CYP3A5 6986A>G,ABCG2 421C>A とオシメルチニブによる有
害事象発現および有効性との関連を探索的に評価した.
【方法】
2018 年 9 月から 2021 年 10 月に神戸大学医学部附属病院および奈良県総合医療セ
ンターにおいてオシメルチニブ治療を受け,研究参加の書面での同意が得られた
EGFR 遺伝子変異陽性 NSCLC 患者を対象に,有害事象 (間質性肺疾患,ざ瘡様皮疹,
爪囲炎,下痢,口内炎,肝障害,腎障害,白血球減少,血小板減少) の発現状況,お
よび有効性の指標として無増悪生存期間,治療継続期間について,診療録を用いた後
方視的調査を行った.遺伝子多型は血液検査の残余検体を用いて real-time PCR 法によ

り解析し,遺伝子型ごとに有害事象発現率および有効性を比較した.
【結果】
両施設合わせた登録患者数は 85 名であった.観察した有害事象のうち,爪囲炎は
STAT3 -1697C>G 遺伝子型の CC 保有者:59% (10 名/17 名),CG 保有者:19% (8 名/42
名),GG 保有者:19% (5 名/26 名) で発現し,発現率と遺伝子型との関連が認められ
た (Cochran-Armitage test, p = 0.009).さらに,多重ロジスティック回帰分析の結果,
STAT3 -1697C>G の CC 保有者と女性であることがそれぞれ爪囲炎発現の独立したリ
スク因子として検出された (オッズ比 (OR) = 6.41, 95%信頼区間 (CI) = 1.94–21.20; OR
= 3.40, 95% CI = 1.03–11.22).
下痢の発現は,ABCG2 421C>A 遺伝子型の CC 保有者:53% (20 名/38 名),AC 保有
者:30% (12 名/40 名),AA 保有者:29% (2 名/7 名) であり,発現率に遺伝子型の影響
が認められたものの (p = 0.048),多重ロジスティック回帰分析の結果では下痢の発現
に対する有意な独立したリスク因子とはならなかった.
他の有害事象の発現および有効性指標である無増悪生存期間,治療継続期間と各多
型の遺伝子型の間に,有意な関連は認めなかった.
【考察】
本研究の結果,オシメルチニブ治療を受けた EGFR 遺伝子変異陽性 NSCLC 患者に
おいて,STAT3 -1697C>G の CC 保有者および女性であることが,爪囲炎発現のリスク
因子となる可能性が示された.
EGFR-TKI による爪囲炎の発現について,その詳細な機序は不明とされるが,爪周
囲組織の炎症とケラチノサイトの分化異常が関与する可能性が報告されている.表皮
基底層のケラチノサイトに発現する EGFR が阻害されることで,ケラチノサイトの増
殖が停止し,アポトーシスが誘導されるとともに,炎症性サイトカインおよびケモカ
インの放出が誘導される.一方,STAT3 は炎症性サイトカインの応答に関与するため,
ケラチノサイトにおける STAT3 発現量の違いが,EGFR チロシンキナーゼ阻害により
誘発される炎症性サイトカインに対する反応を変化させる要因となりうる.STAT3 1697C>G は STAT3 のプロモーター領域近傍に位置しており,遺伝子多型により STAT3
発現量に個体差が生じる可能性がある.したがって,STAT3 -1697C>G の CC 保有者に
おける爪囲炎の発現率の上昇は,STAT3 発現量の変化に伴う炎症反応の応答性に起因
する可能性がある.また,爪の脆さには性差があることが報告されている.爪の脆さ
は爪母の脂質含量に関係するが,加齢に伴い特に女性では脂質量が減少する傾向にあ
り,爪囲炎発現にも影響する可能性がある.
一方,下痢の発現に対して,ABCG2 421C>A の CC 保有は,多変量解析により有意
な独立したリスク因子とならなかった.BCRP は小腸上皮細胞の管腔側,肝実質細胞

の胆管側や腎尿細管上皮細胞の管腔側などに発現しており,薬物を生体外へ排出する
役割を担う.ABCG2 421C>A の A アレルは,BCRP の機能低下に関連していることか
ら,ABCG2 421C>A の AA 保有者ではオシメルチニブの全身曝露量が高値を示す可能
性が考えられ,CC 保有者で高い下痢発現傾向を示した本研究結果は想定される遺伝
子型の表現系と一致しない.また,BCRP は基質の腸管および胆管への排泄に関与す
るが,第二世代 EGFR-TKI であるアファチニブの薬物動態試験では,アファチニブ胆
汁排泄量の推算値と下痢の発現率に関連を認めないことが報告されており,EGFRTKI の腸管中滞留量と下痢の発現は関連しない可能性がある.さらに,EGFR-TKI に
よる下痢には,腸管上皮の EGFR 阻害に伴う粘膜萎縮,腸管運動の変化,腸管上皮ク
ロライドチャネルの活性化など,様々な薬力学的機序が提唱されていることから,オ
シメルチニブによる下痢の発現に薬物動態学的要因の寄与は低い可能性が考えられ
る.今後,下痢の発現と EGFR-TKI の薬物動態との関連について詳細な検討が必要で
ある.
本研究の限界として,探索的研究であり,サンプルサイズは一定期間内に登録可能
な患者数から決定した.したがって,各遺伝子型と種々の有害事象との関連を検出す
るための統計学的検出力は十分ではない.しかし,爪囲炎に対する事後解析の検出力
は 83.6%であったことから,一定の結論を導くことはできると考えられる.また,各
有害事象と STAT3 タンパク質発現量やオシメルチニブ血中濃度との関連は検討して
いないことや,一部の患者においてオシメルチニブ治療の終了前に観察を打ち切った
ため全ての治療経過を追跡できていないことは,重要な限界として考慮する必要があ
る.
【結論】
STAT3 -1697C>G の遺伝子型は,オシメルチニブによる爪囲炎の新規リスク因子で
あることが示された.本知見は,オシメルチニブによる爪囲炎の効果的な予測法・予
防法の検討に役立つ情報であり,有害事象の発現率を低下させることで患者 QOL の
向上と治療強度の維持に繋がると考える.

神戸大学大学院医学(
系)
研究科(博士課程)
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
受付番号

甲 第 3287号





I
丹田雅明

J
,
非小細胞肺がん患者におけるオシメルチニブ有害事象と STAT

論 文 題 目 ICYP
3
A
5
,ABCG2遺伝子多型との関連

Ti
t
l
eof

Di
s
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r
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on I
Assoc
i
a
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STAT3,CYP3A5
,andABCG2P
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nNSCLCPa
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審査委員

Exami
ner



Ch
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r
副 査

南博信
児玉

裕三

Vi
c
eexami
ner



Vi
ce-exam
i
ner

古屋敷

(要旨は 1, 00 0字∼ 2, 00 0字程度)

智之


背景 ・目的】
上皮成長因子受容体 (EGFR)遺伝子変異陽性の非小細胞肺がん (NSCLC) のキードラッグである
オシメルチニプは、チ トクローム P450(
CYP)3A4
/
5により活性代謝物 AZ5104および AZ7550に
代 謝 され、 これらは 、薬物排出トランスポータ ー である乳癌耐性タンパク質 (BCRP
;遺伝子名

ABCG
2
Jの基質となる 。オシメルチニブによる皮疹、下痢、 Q
T延長の発現が薬物曝露と関連する
ため 、こ れら薬物代謝酵素やトランスポーターの機能の個体差がオシメルチニブの有害事象の発現
と相 関すると予想される。一方 、STAT3 は種々のサイト カインに対する 細胞応答のシグナル伝達
因子であり、 Ja
nuski
naseSTATシグナル伝達経路は EGFRチロシンキナーゼ阻害 (
T
K
I
)の代償性
シグナル伝達経路となる 。 STAT3の遺伝子多型は、マルチキナーゼ阻害薬、mTOR阻害薬、プラ
チナ系抗がん薬の有害事象と関連するため 、オシメルチニプの有害事象および有効性の予測因子と
なる可能性がある。
本研究では、オシメルチニプ治療を受けた NSCLC患者にお いて、上記の関連因子の一塩基多型
と有害事象および有効性との関連を検討した。

対象 と方法】
オシメルチニプ治療を受け本研究参加の同意を書面で得た EGFR遺伝子変異陽性 NSCLC患者
を対象に、一塩基多型 STAT3•1
697C>G、 CYP3A56986A>G、ABCG2421
C>Aを血液検査の残
余検体を用いて r
e
a
l
-t
i
mePCR法により解析した。有害事象 (
間質性肺疾患、ざ痛様皮疹、爪囲炎 、
下痢、 口内炎 、肝障害、腎障害、白血球減少、血小板減少)および有効性(全生存期間 、無増悪生
存期間 、治療継続期 間)の情報を診療録から後方視的に調森し 、遺伝子型との関連を検討した。

結果】
登録症例数は 8
5名であった。有害事象のうち、爪囲炎は STAT31697C
>G遺伝子型の CC保有
者の 59%(
1
0
/1
7名)
、 CG保有者の 1
9%(
8
/
4
2名)
、 GG保有者の 1
9% (
5
/
2
6名)で発現し 、発現率
と遺伝子型との関連を認めた (
Cochran-Arm
i
ta
g
et
e
s
t
、p=0
.
0
0
9
)
。多重ロジステ ィック回帰分析
では、STAT31697C
>Gの CC保有者(
オッズ比 [OR
]=6
.
41、95%信頼区間 [
CI
]= 1
.9
4
-21
.2
0
)
と女性 (
OR=3.
40、95%CI=1
.0
3
-11
.2
2
)が爪囲炎の独立したリスク因子であった。

>A遺伝子型の CC保有者の 53%(
2
0
/
38名)
、AC保有者の 3
0
%(
1
2
/
40名)

下痢は、ABCG2421C
AA保有者の 29
%(
2
/
7名)で認め 、遺伝子型により発現率の差が認め られ た も の の (
p =0
.
0
48
)

多重ロジスティック回帰分析では有意な独立したリスク因子ではなかった。
他の有害事象および有効性指標(全生存期間、無増悪生存期間、治療継続期間)と各多型の遺伝
子型の間に有意な関連は認めなかった。

考察】
オシメルチニブ冶療を受けた EGFR遺伝子変異陽性 NSCLC患者で、STAT
31697C>Gの CC
保有者および女性が爪囲炎発現のリスク因子と なった。

EG
FR
TKI による爪囲炎の発現の詳細な機序は不明であるが、爪周 囲組織の炎症とケラチノサイ
トの分化異常が関与する可能性が報告されている。表皮基底層の ケラチ ノサイトに発現する EGFR

を阻害すると、ケラチノサイトの増殖が停止しアポトーシスが誘導されるとともに、炎症性サイト
カインおよびケモカインの放出が誘導される。 STAT3 は炎症性サイトカインの応答に関与するた
め、ケラチノサイトにおける STAT3発現量の違いが、 EGFRチロシンキナーゼ阻害により誘発さ
れる炎症性サイトカインに対する反応を変化させうる 。STAT3-l697C
>Gは STAT3のプロモータ
一領域近傍に位置しており、遺伝子多型により STAT
3発現最が変化し炎症反応の応答性が影響を
受ける可能性がある 。また、爪の脆さにぱ性差があることが報告されている 。爪の脆さは爪母の脂
質含贔に関係するが 、加齢に伴い特に女性では脂質量が減少する傾向にあり、爪囲炎発現にも影響
する可能性がある 。
一方、下痢の発現に対して、 ABCG2421C>Aの CC保有は、多変量解析では有意な独立したリ
スク因子ではなかった。BCRPは小腸上皮細胞の管腔側、肝細胞の胆管側や腎尿細管上皮細胞の管
腔側などに発現しており、薬物を生体外へ排出する 。ABCG242lC>Aは
、 BCRPの機能低下を来
たすため AA保有者ではオシメルチニブの全身曝露量が上昇し毒性が増強すると考えられる 。 CC
保有者で高い下痢発現傾向を示した本研究結果はこれと一致しない。腸管上皮の EGFRが阻害さ
れると粘膜萎縮を起こすが、 BCRPは基質を腸管および胆管へ排泄するが CC保有者では腸管内の
オシメルチニブおよび活性代謝物の濃度が上昇し下痢に寄与した可能性がある 。一方、 EG
FR-TKI
による下痢には様々な薬力学的機序が提唱されており、オシメルチニプによる下痢の発現に薬物動
態学的要因の寄与は低い可能性もある。
本研究は探索的研究であり、症例数が限定的であるため統計学的検出力は十分でなかった。また、

STAT3 タンパク質発現量やオシメルチニブおよび活性代謝物の薬物動態を検討していなかったこ
とや、オシメルチニブ冶療終了前に観察を打ち切った症例があったなど、後方視的研究の限界とし
て考慮する必要がある。

結 論】
本研究は STA
T3-1697C
>Gの遺伝子型がオシメルチニブによる爪囲炎のリスク因子であること
を新た示した。この知見はオシメルチニブによる爪囲炎の予測や予防法開発の基礎情報となりうる
ものであり、重要な貢献をした価値ある研究であると認める 。 よって、本研究者は 、博士(医学)
の学位を得る資格があると認める。

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