Developing and validating regression models for predicting household consumption for the health insurance in Cambodia

概要

［課程－２］
審査の結果の要旨
氏名 中村 治代
カンボジアでは、約 7 割の国民が医療保障を受けられず、約 3％の世帯が高額医療費の
自己負担を強いられている。同国でインフォーマルセクターを含むすべての世帯が支払い
能力に応じた保険料を負担して公的医療保険に加入する方法を探るため、8 年分の社会経
済調査（Cambodia Socio-Economic Survey）のデータを用いて回帰分析モデルを構築した。
そして、同モデルで予測した家計の消費額を基に 10 通りの方法で保険料を推計した上
で、その公平性、累進性をジニ係数、濃度指数、カクワニ指数で評価し、下記の結果を得
た。
1.

本研究では、社会経済調査のデータを、多様な解釈により一旦できる限り多くの

変数に加工し、関連性の高い変数のみを残すという方法を用いることで、より少ない変数
で、予測性の高い回帰モデルを構築できることを示唆した。また、シンプル且つ再現性の
高い線形回帰モデルが複雑なモデルと同等の精度で家計の消費額を予測できることを確認
した。
2.

上記の回帰モデルで予測した家計の消費額に基づいて推計した保険料は、実際の

消費額に基づく保険料より若干低い金額となった。また、その保険料は、大半の世帯にと
って支払い能力の 3 パーセント未満になることが示された。これらの結果から、回帰モデ
ルを用いて推計した保険料は家計にとって大きな負担にはなりにくいことが示唆された。
3.

本研究では、保険に加入する世帯が支払い能力に応じて保険料を負担する方法

（応能負担）と、世帯や個人が定額保険料を負担する方法（応益負担）を異なる割合で組
み合わせ、10 通りの世帯保険料を試算した。その結果、応能負担の割合が増えるほど、貧
困世帯への負担が軽減され、また政府の補助金額も減少することが示唆された。
4.

本研究では、現在のカンボジアで富の再分配は平等に行われておらず、医療費も

資力に対して公平な負担にはなっていないことが確認された。他方、少なくとも保険料の
80％を応能負担にすると医療費の負担が現状より公平になり、更に保険料の賦課を累進的
に行うと、富の再分配にも貢献できることが示唆された。
以上、本論文は、財源不足のため、多くの国民が必要とする医療を提供できていないカン

ボジアにおいて、既存の社会経済調査データを基に世帯の支払い能力を予測し、保険料を
応能負担することで、医療財源を拡大させると共にすべての国民を医療保険に加入させ、
国民の医療へのアクセスを改善することの可能性を示唆するものである。本研究は、カン
ボジアのみならず、他のアジア諸国のユニバーサルヘルスカバレッジに向けた一つの手が
かりともなり得る重要な貢献をなすと考えられる。
よって本論文は博士（保健学 ）の学位請求論文として合格と認められる。

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