地方都市在住の高齢者における社会活動への不参加に関連する要因:富山県認知症高齢者実態調査の結果から
概要
【目的】
社会活動には、高齢者の健康維持やQOLの向上に重要な役割がある。日本では、健康寿命の延伸や介護予防の観点から、高齢者の社会活動への参加が推進されてきた。社会活動の参加には社会経済的要因との関連が指摘されているが、個々の社会活動と社会経済的要因との関連については明確にされていない。本研究は、地方都市在住の高齢者における社会活動への不参加に関連する要因について、社会活動の種類別(仕事、町内会活動、趣味の会、老人クラブ)に検討することを目的とした。
【研究方法】
対象者は、富山県認知症高齢者調査の対象者より選出した。2014 年 6~8 月、富山県に居住する 65 歳以上の高齢者から 0.5%で無作為抽出した 1,537 名である。そのうち同意の得られた1,303 名(同意率 84.8%)に対して調査が行われた。本研究では、自宅で生活していない 121名、社会活動に関する回答がない 76 名、歩行ができない 102 名、解析に用いる項目に欠損値がある 57 名を除外し、947 名を分析対象とした。
調査方法は、市町村等の保健師等が調査対象者宅等を訪問し、本人及び家族等から聞き取り調査を行った。調査内容は、基本属性、世帯構成、社会経済的要因(教育歴・職歴)、生活状況(移動範囲・聴力・視力・通院・飲酒・喫煙)、精神状態(認知機能・精神的自覚症状)、社会活動(収入のある仕事・町内会活動・趣味の会・老人クラブ)の過去半年間の参加状況について質問した。
分析方法は、対象者の概要については、単純集計およびχ2 検定を用いて性差を評価した。男女別に各社会活動参加の有無を従属変数、その他の項目を独立変数としたポアソン回帰分析を行った。各独立変数の社会活動に参加していないことに対する有病割合比(Prevalence Ratio:以下 PR)と 95%信頼区間(Confidence Interval:以下 CI)を算出した。社会活動には重複参加がみられるため従属変数以外の社会活動を調整因子として強制投入した。多重共線性の有無を判断するため、使用した全変数間における Kendall の相関係数を確認した結果、男性では- 0.22~0.24、女性では-0.16~0.33 であり、各変数間の相関が弱く、多重共線性の存在は否定的であった。本研究では、有意水準は両側検定において 5%とした。統計ソフトは、IBM SPSS version23 を用いた。
本研究は、富山大学の倫理審査委員会の承認を得て実施した。(臨研 27-71、承認年月日 2015 年 9 月 16 日)
【研究結果】
対象者は、男性426名(平均年齢73.9±6.5歳)、女性521名(平均年齢74.8±7.0歳)であった。社会活動への参加状況は、「収入のある仕事」に就いた者は全体の29.1%(男性37.1%、女性22.6%)、「町内会活動」に参加した者は42.2%(男性52.8%、女性33.6%)、「趣味の会」に参加した者は24.3%(男性20.6%、女性27.4%)、「老人クラブ」に参加した者は27.8%(男性26.5%、女性28.8%)であった。
「収入のある仕事」は、男女ともに高年齢(男性 75 歳以上 PR 1.15、女性 70 歳以上 PR 1.11)で無就業が多く、男性では通院治療中(PR 1.09)と改訂長谷川式簡易知能評価スケール(以下、 HDS-R) 21-25 点(PR 1.09)と 20 点以下(PR 1.12)の無就業が多く、女性では飲酒者(PR 0.93)の無就業が少なかった。
「町内会活動」は、男女ともに高年齢(男性 70 歳以上 PR 1.12、女性 80 歳以上 PR 1.11)で不参加が多く、男性では肉体労働のみの職歴(PR 1.12)と HDS-R 20 点以下(PR 1.16)の不参加が多く、女性では独居(PR 0.92)の不参加が少なかった。
「趣味の会」は、男女ともに肉体労働のみの職歴(男性 PR 1.05、女性 PR 1.08)の不参加が多く、男性では 9 年以下の教育歴(PR 1.05)、女性では独居(PR 1.07)の不参加が多かった。年齢および認知機能の低下との関連はみられなかった。
「老人クラブ」は、男女ともに高年齢(男性 75 歳以上 PR 0.89、女性 70 歳以上 PR 0.93)と飲酒者(男性 PR 0.91、女性 PR 0.89)の不参加が少なく、男性では喫煙者(PR 1.06)と精神的自覚症状あり(PR 1.09)、女性では HDS-R 20 点以下(PR 1.13)の不参加が多かった。
【考察】
特に社会経済的要因と関連がみられた社会活動は、男女の趣味の会と男性の町内会 活動であった。趣味の会への不参加では、男女ともに肉体労働のみの職歴をもつ者が多く、男性では、教育歴が9年以下の者の不参加が多かった。また、男性の町内会活動は、肉体労働のみの職歴をもつ者の不参加が多かった。これらの社会活動は、社会経済的要因により参加しにくい状況や参加できない状況に陥りやすく、参加への支障や不利益が生じやすいのではないかと考えられる。
【総括】
地方都市在住の高齢者における社会活動は、社会活動の種類により不参加の関連要因が異なっていた。特に男女の趣味の会および男性の町内会活動の不参加には、肉体労働のみの職歴と低学歴の社会経済的要因が関連しており、これらの社会経済的要因が、高齢者が活動に参加する際の支障や不利益にならないような対策を検討することが必要である。これらの地方都市在住の高齢者の特徴を踏まえた対策を検討することの重要性が示唆された。