疾患治療を目的としたピロール-イミダゾールポリアミドの開発

概要

令和 ４年度

京都大学化学研究所 スーパーコンピュータシステム 利用報告書
疾患治療を目的としたピロール‐イミダゾールポリアミドの開発

Development of pyrrole-imidazole polyamides for the treatment of diseases
京都大学大学院 理学研究科 化学専攻 生物化学分科

廣瀬優希

研究成果概要
ピロール-イミダゾールポリアミド (PIP)は二本鎖 DNA に塩基配列特異的に結合する分子
であり、その高い結合能と配列特異性を活かして遺伝子発現制御スイッチや蛍光プローブ、
抗がん剤としての応用を目指した研究が進められている。中でも環状 PIP（cPIP）は高い結合
能や配列特異性を持つことが知られており、当研究室では最近ハンチントン病や筋強直性ジ
ストロフィ―I 型などの原因となる CAG/CTG 反復配列に対して高い結合能・特異性を持つ
cPIP を開発した。1 今年度は Discovery Studio を用いたエネルギー最小化や分子動力学シミ
ュレーションを利用し、この CAG/CTG 反復配列標的 cPIP と DNA との結合について(1) DNA
ヘアピン構造に対する配列特異性が生じる要因の解明と(2) DNA 上でのオリゴマー化による
活性の向上の検討を行った。
(1) に関して、CAG/CTG 反復配列のような DNA 反復配列はミスマッチ塩基対を含むヘア
ピン構造を形成することが知られており、このヘアピン構造の形成は疾患の発生や進行とかか
わっていると考えられている。これまでの研究において我々が開発した cPIP がそのようなミスマ
ッチ塩基対を含む二本鎖 DNA にも結合することや、ミスマッチ塩基対の種類によって結合能
が大きく異なることが分かっていた。今回、ミスマッチ塩基対を含む DNA 配列と cPIP との複合
体のエネルギー最小化を行った結果、これまでの実験で cPIP との結合が弱いことが分かって
いた配列ではミスマッチ部位と cPIP との間に立体障害が生じていることが示唆された。この結
果は共同研究先での研究結果と合わせて現在論文投稿中である。
(2) に関して、反復配列に結合した cPIP が Click 反応によってオリゴマー化 2 することで反
復配列に対する結合能・選択性を高められることを期待した。反復配列と cPIP との複合体のエ
ネルギー最小化構造から、Click 反応を起こすアジド・アルキンと PIP をつなぐ最適なリンカー
長を見積もった。今後は実際にアジド・アルキンを導入した cPIP を合成しオリゴマー化の反応
効率を調べていく予定である。
参考文献
1. Y. Hirose, T. Ohno, S. Asamitsu, K. Hashiya, T. Bando, H. Sugiyama, ChemBioChem 2022,
23, e202100533.
2. A. T. Poulin-Kerstien, P. B. Dervan, J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 15811. ...