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大学・研究所にある論文を検索できる 「アルキニルDNAを主体とする新規人工核酸塩基部位の開発と対応するRNAへの展開」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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アルキニルDNAを主体とする新規人工核酸塩基部位の開発と対応するRNAへの展開

黒崎 史大 富山大学

2020.03.24

概要

核酸やタンパク質などの生体高分子は、 非常に類似した化学構造をもつ繰り返し単位 ( モノマーユニット) が連なった構造となっている 。生体高分 子の高次構造や機能は、 このモノマーユニットの僅かな化学構造の違いにより緻密に制 御されている。例えば、核酸では核酸塩基や糖骨格の違いが、タンパク質ではアミノ酸残基の側鎖の違いがそれにあたる。 したがって天然分子を模倣して類似の人工分子を創成する際、 分子レベルでの化学構造の微妙な違いが、 その高次構造や機能に大きな影響を及ぼしうる。

申請者の所属する研究室では、天然 DNA に類似した物理・化学的特徴をもつ DNA 類似体 ( 人工 DNA) として 、「 アルキニルDNA」を以前から開発してきた。上段での「 分子レベルでの化学構造の微妙な違いが、 その高次構造や機能に大きな影響を及ぼしうる」 ことを踏まえ、 核酸塩基部位や糖骨格の化学的改変を通じて、 アルキニル DNA に新たな高次構造形成能や機能を付与できるのではないかと考えた。この発想のもと本学位論文では、アルキニル DNA を主体とする新規人工核酸塩基部位の開発、 ならびに対応する人工 RNA の構築を検討した。第一章では、互変異性化により自己相補的となる核酸塩基として、アミノピリミジノン骨格を有する Xp* を開発した。 これにより、 三文字や五文字といった奇数の遺伝文字での DNA 類似体を創成することが可能となる。 第二章では、水素結合パターンを天然の A/ T 対と同じにする目的で、 新たなアデニンアナログとしてアミノピリジン骨格を有する Py A* を開発した 。Py A* のホモオリゴマーは、チミンアナログである T* のホモオリゴマーと二重鎖のみを形成した。第三章では、人工 DNA 中の糖骨格をアルキニルデオキシリボースからアルキニル リボースへと改変した。 アルキニルリボース型の Py A* および T* から構成されるアルキニル RNA は、相補的な塩基配列を持つ天然 DNA・RNA、さらにはアルキニル DNA・RNA とも二重鎖を形成した。アルキニル RNA は、特に天然 DNAと極めて強く相互作用した。 以下、 これらの結果を詳述する。

第一章 2- Amino- 3H- pyrimidin- 4- one 骨格を用いた自己相補的な人工核酸塩基の開発 1 )
天然 DNA では 、異 なる2 種類の核酸塩基が相補的な水素結合により塩基対を形成している。これまでに報告されている人工 DNA においても、そのほとんどが異なる2 種類の人工核酸塩基が塩基対を形成する。 2分子の同一な人工塩基が塩基対を形成する人工 DNA としては、金属イオ ンとの錯形成を駆動力とした例のみであり、 水素結合でこれを達成した例はこれまでにない。 申請者が所属する研究室では、 2 -amino-3 H -pyrimidin-4 - one が互変異性を介して自己相補的に二量体を形成することを既に報告している。そこで、 本骨格を新たな人工核酸 塩基 Xp * として採用し、 自己相補的なヌクレオシドを設計した ( 図 1)。 既知化合物であるアルキニルデオキシリボース誘導体 1 と塩基部位のヨウ化物 2 を薗頭カップリングにより連結し 、続く ホスホロアミダイト化により 、X p* のホスホロアミダイト体 4 を合成した ( 図 2)。 固相合成法により Xp * を一塩基導入した回文配列 d( A 8 Xp*T 8 ) を合成し、 その融解温度 ( Tm 値) を測定した ( 表 1)。 なお括弧の前の" d" は DNA 型であることを意味し、 核酸塩基記号の後ろの下付き数字は連続したヌクレオチドの残基数を示す。d( A 8 Xp*T 8 ) は同鎖長の天然 DNA 二重鎖 5ʹ-d(A9T8) / 3ʹ-d(T9A8) よりやや低い T m 値を示したものの、天然の一塩基ミスマッチ回文配列 5ʹ-d(A8GT8) より高い T m 値を示した。以上の結果から、Xp* は天 然二重鎖中において自己相補的な塩基対形成が可能であることが示唆された。

第二章 2-Aminopyridine を核酸塩基として用いた新規アデニンアナログの開発 2)
アデニンアナログとして以前に報告した A* (2 -aminopyrimidine) のホモオリ ゴマーは、相補的なチミンアナログである T* のホモオリゴマーと、二重鎖を経ず一挙に三重鎖を形成した ( 図 3a) 。天然 の DNA では、特殊 な条件下でしか見られないこの高次構造の形成を抑制すべく、 既に D* (2, 4 - diaminopyrimidine) を新たなアデニンアナログとして開発している。A* 塩基の水素結合様式に対する対称性を崩せば、 二重鎖と三重鎖を段階的に形成する と考えたためである ( 図 3b)。実際、D* ホモオリゴマーは T* ホモオリゴマーと2 段階で多重鎖を形成したが、 三重鎖が天然 DNA の三重鎖と比較して熱的に安定であることがわかっ た。さらに、 Watson- Crick 面での塩基対が三点の水素結合により形成されるた め、二重 鎖での熱安定性も天然 DNA と比較して高くなった 。そこで 本研究では、天然 A-T 塩基対と水素結合パターンが等しく、 かつ二重鎖のみを特異的に形成する新たなアデニンアナログとして、2 -aminopyridine ( Py A*) を選択した ( 図 3c)。

アルキニルデオキシリボース 1 と、P y A* のハロゲン化体 6 を薗頭カップリングに付し 、続く ホスホロアミダイト化により DNA 固相合成に供しうる 8 を得た ( 図 4)。 まず、 天然塩基配列中に一か所のみ Py A* を導入したキメラ型配列 9 を作成した ( 表 2)。 9 の天然鎖部位と相補的かつ 9 の Py A* に対して T* が対合するキメラ型配列 10 との T m 値は 51.0 °C であった( entry 4) 。同 鎖長の天然 DNA 二重鎖 11 •12 と比してやや低い値を示したものの( T m = 55. 5 °C、 entry 5)、 同鎖長の一塩基ミスマッチ二重鎖 12 •13 より 4 °C 高かった ( T m = 47.0 °C、 entry 6)。 さらに、9 の Py A* に対して、天然 T、A、G、C が対合する天然配列 12 および 14- 16 との T m 値を比較した ( 表 3、 entry 7 -10)。 Py A* に対してプリン塩基が対合する配列が比較的高い T m 値を示し、天然核酸塩基が Py A* 塩基と対合する場合は疎水性相互作用が対形成の駆動力として優位になることが示唆された。 一方で、 Py A*に対する位置に、 人工核酸塩基である T*、 Py A*、 A*、 G*、 C* を挿入した配列 10 および 17- 20 と 9 との T m 値の比較においては、水 素結合様式が合う entry4 の 9 •10 が最も高い Tm 値を示した ( entry 4 および 11– 14)。

次に、 Py A* ホモオリゴマーの d( Py A*) n (n = 16、 20 、 24) と、 対応する鎖長の T* ホモオリゴマーとの二重鎖 21•22 、23• 24 、25•26 の T m 値を調査した。表 3 の entry 15-17 に示すように T m 値はいずれも単一であり、 鎖長が長くなるほど T m値は高くなる傾向が見られた ( 図 5a と 5 c)。さらに、これらの人工 DNA 二重鎖について円二色性 ( CD) スペクトルの温度依存性を追跡したところ 、溶液温度 を下げるにつれてコットン効果が増強した ( 図 5b)。 この変化は可逆的であり、 昇温した場合には CD のコットン効果は元の値まで弱まった。 さらに d( Py A*) 20 に対する d( T*) 20 の滴定実験より、 d( Py A*) 20 に対して d( T*) 20 を等量加えたところで CD の変化は飽和し、Py A* と T* は 1: 1 で会合することが判明した ( 図 6)。また二重鎖を形成した時の CD のコットン効果は、 長波長側から正負の順番であり、 これは天然の DNA 二重鎖の場合と一致する。 以上の結果から Py A* ホモオリゴマーと T* ホモオリゴマーは、 DNA と類似する二重鎖構造を形成していることが示唆された。

第三章 アルキニル RNA の開発と物性評価
第二章で開発したアルキニルヌクレオチドが構築する高次構造体は、 天然 DNA と非常によく似た特性を示した。この結果を受け、申請者はアルキニルヌクレオチドに遺伝情報担体としての機能を付与しようと考えたが、 アルキニルヌクレオチドが遺伝情報担体として機能するには RNA 型のアルキニルヌクレオチドの開発が不可欠である。そこで、 第二章で述べた Py A* や T* の糖骨格をアルキニルリボースへと改変したアルキニル RNA の開発を行った。アルキニルリボース誘導体と人工核酸塩基のハロゲン化体を薗頭カップリングにより連結した後、 常法に従いホスホロアミダイト化を行うことで、 RNA 型のアデニンアナログ r Py A* とチミンアナログ r T* のホスホロアミダイト体を調製した。これらのホスホロアミダイト体を固相合成法に適用し、 目的とするアルキニル RNAのホモオリゴマーr( T*) 16 と r( Py A*) 16 を得た。 なお、 括弧の前の" r" は RNA 型であることを示す。

得られたアルキニル RNA について 、天然 DNA および天然 RNA との会合能を調査した結果、 アルキニル RNA は、 天然 DNA と極めて強固に会合することがわかった。 アルキニル RNA と天然 DNA との高い親和性は、 詳細については調査中であるが、糖骨格のコンフォメーション ( パッカリング) に起因していると予想している。 さらに、 r( T*) 16 と相補的なアルキニル DNA d( Py A*) 16 およびアルキニル RNA r( Py A*) 16 との相互作用を評価したところ 、い ずれの場合においても二重鎖を形成することが示唆された。

本研究では 、核酸 塩基および糖骨格を化学的に改変し 、新 規な人工 DNA と人工 RNA を開発した。第一章では、これまでに報告の無かった、水素結合による自己相補的な DNA 類似体の開発に成功した。第二章では、二重鎖のみを選択的に構築するアデニンアナログの開発に成功した。 第三章では、 糖骨格をアルキニルデオキシリボースからアルキニルリボースに変更することでアルキニル RNA を創出した。 このアルキニル RNA は、天然 DNA と強固に結合する特徴を活かすことで、 アンチジーン医薬品や核酸検出技術への応用が期待される。

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参考文献

1) Kurosaki, F.; Chiba, J.; Inouye, M. Heterocycles , 2018 , 97, 1149 – 1156.

2) Kurosaki, F.; Chiba, J.; Oda, Y.; Hino, A.; Inouye, M. J. Org. Chem., 2020, 85, 2666−2671.

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