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書き出し

脊椎動物におけるシアル酸の結合様式多様性の生物学的意義の解明

大本, 敬之 名古屋大学

2023.05.26

概要



報告番号

















論文題目

脊椎動物におけるシアル酸の結合様式多様性の
生物学的意義の解明



大本



敬之

論 文 内 容 の 要 旨
シ ア ル 酸 (Sia)は 細 胞 表 面 の 糖 タ ン パ ク 質 や 糖 脂 質 上 の 糖 鎖 の 最 末 端 に 存 在 す る 酸
性 9 炭糖で、受精、発生、免疫、神経活動など様々な生命現象において、細胞認識や
細胞接着などの重要な機能を果たしている。また、シアル酸生合成系の酵素の欠損細
胞は生存可能であるが、それらの欠損マウスおよびメダカが胎仔および幼魚において
致死となることから、シアル酸は脊椎動物の胚発生における必須単糖であることが知
られている。また、このことはシアル酸の機能探求を個体レベルで行うことの重要性
も示している。シアル酸の特徴の 1 つとして、結合様式多様性をもつことが挙げられ
る 。 シ ア ル 酸 は 稀 に α2,8 ま た は α2,9 結 合 オ リ ゴ /ポ リ シ ア ル 酸 鎖 と し て 存 在 す る こ と
も あ る が 、通 常 は 糖 鎖 末 端 の ガ ラ ク ト ー ス (Gal) 残 基 上 に 1 残 基 の み α2,3 ま た は α2,6
結合で存在している。この結合様式の違いは、ウイルス感染における宿主特異的な棲
み分けや、免疫系における免疫細胞特異的な自己非自己認識機構に関与することが知
られており、これらの事例ではシアル酸結合様式の多様性が重要であることは明らか
で あ る 。一 方 、近 年 、細 胞 接 着 分 子 β1-イ ン テ グ リ ン 上 の Siaα2,6Gal の 存 在 が 培 養 細 胞
の細胞接着性や細胞運動性を変化させるという報告があるが、この現象において、
Siaα2,6Gal そ の も の が 必 要 で あ る の か Siaα2,3Gal で も 代 替 で き る の か は 不 明 で あ る 。
そ の 解 答 は 、 例 え ば 、 個 体 レ ベ ル で Siaα2,6Gal 残 基 を Siaα2,3Gal 残 基 へ と 変 換 し て 表
現型の変化の有無を調べることによって得られるであろうが、そのような研究は皆無
である。そこで本研究では、シアル酸結合様式の多様性が本質的に重要であるのか否
かを明らかにする方法論の開発と、胚発生におけるシアル酸の結合様式多様性の意義
を 解 明 す る こ と を 目 的 と し て 、 発 生 学 の 優 れ た モ デ ル 脊 椎 動 物 で あ る メ ダ カ (Oryzias
latipes) を 用 い て 取 り 組 ん だ 。
ま ず 、 メ ダ カ 初 期 発 生 に お い て α2,6 と α2,3 結 合 の ど ち ら が 重 要 な の か を 探 索 す る
た め に 、 Siaα2,6Gal 認 識 レ ク チ ン で あ る SNA と Siaα2,3Gal 認 識 レ ク チ ン で あ る MAA

を 受 精 膜 の 内 側 で 胚 を 取 り 囲 む 囲 卵 腔 中 に 注 入 し た 。そ の 結 果 、SNA を 注 入 し た 時 の
み 、SNA 濃 度 依 存 的 に 胚 体 形 成 前 に 致 死 も し く は 異 常 な 胚 体 形 成 を 示 し た 。こ れ よ り 、
Siaα2,3Gal で は な く 、 Siaα2,6Gal が メ ダ カ 初 期 発 生 に お い て 重 要 な 役 割 を 果 た し て い
る こ と が 示 唆 さ れ た 。 そ こ で 、 メ ダ カ 初 期 発 生 に お け る Siaα2,6Gal の 生 物 学 的 役 割 を
解 明 す る た め に 、 遺 伝 子 編 集 技 術 CRISPR/Cas 9 法 を 用 い て 、 β-ガ ラ ク ト シ ド α2,6-シ
ア ル 酸 転 移 酵 素 ST6Gal I と ST6Gal II の ノ ッ ク ア ウ ト (KO)メ ダ カ を 作 出 し 、 そ の 表
現 型 を 解 析 し た 。 ST6Gal I-KO メ ダ カ は 受 精 後 7 日 目 に お い て 重 篤 な 心 臓 異 常 を 示 し 、
孵 化 後 10 日 以 内 に す べ て 致 死 と な る の に 対 し て 、 ST6Gal II-KO メ ダ カ は 特 に 異 常 を
示さず、成魚まで生存し、継代維持が可能であるという表現型の違いが観察された。
ま た 、 定 量 PCR に よ り 、 ST6Gal I と II の 発 生 段 階 及 び 臓 器 特 異 的 発 現 を 解 析 し た 。
孵化前後までのすべての発生段階及び成体におけるすべての臓器で両者がともに発現
し て い る こ と が 分 か っ た 。さ ら に 、SNA レ ク チ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ に よ り 、孵 化 直 後 に
お け る 両 者 の Siaα2,6Gal エ ピ ト ー プ の 発 現 解 析 を 行 っ た と こ ろ 、 興 味 深 い こ と に 、 致
死 と な る ST6Gal I-KO メ ダ カ で は 、 野 生 型 メ ダ カ と 同 等 に Siaα2,6Gal エ ピ ト ー プ が 存
在 す る の に 対 し て 、 ST6Gal II-KO メ ダ カ で は 、 そ の ほ と ん ど が 消 失 し た 。 ま た 、 N 型
糖 鎖 を 切 断 す る 酵 素 で あ る ペ プ チ ド N-グ リ カ ナ ー ゼ 処 理 を 行 っ た 結 果 、メ ダ カ 胚 お よ
び 幼 魚 に お い て は ほ と ん ど の Siaα2,6Gal エ ピ ト ー プ が N 型 糖 鎖 上 に 存 在 す る こ と が 確
認 さ れ た 。 こ れ ま で の 結 果 か ら 、 メ ダ カ の 致 死 性 に は ST6Gal II が 生 合 成 す る 多 く の
Siaα2,6Gal エ ピ ト ー プ が 重 要 で は な く 、 N 型 糖 鎖 上 の ST6Gal I が 部 位 特 異 的 に 生 合 成
す る Siaα2,6Gal エ ピ ト ー プ が 重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。
次 に 、 ST6Gal I-KO メ ダ カ で 心 臓 の 異 常 が 生 じ る 分 子 メ カ ニ ズ ム の 解 明 を 目 指 し た 。
ST6Gal II-KO メ ダ カ に お い て Siaα2,6Gal エ ピ ト ー プ を も つ タ ン パ ク 質 は 、ST6Gal I が
付 加 す る α2,6-Sia 残 基 を も つ タ ン パ ク 質 で あ る と 考 え ら れ る 。そ こ で ST6Gal II-KO メ
ダ カ の 心 臓 タ ン パ ク 質 に つ い て 、 液 体 ク ロ マ ト グ ラ フ ィ ー -質 量 分 析 (LC-MS) 解 析 を
行 い 、 マ ン ノ ー ス 受 容 体 C タ イ プ 1 (MRC1) と ス タ ビ リ ン 2 (STAB2)を 同 定 し た 。 そ
の う ち 量 的 に 多 い MRC1 に つ い て 、 メ ダ カ 初 期 発 生 に お け る 役 割 を 解 析 し た 。 MRC1
の モ ル フ ォ リ ノ オ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ド を 用 い た 遺 伝 子 ノ ッ ク ダ ウ ン (KD)メ ダ カ を 作 出
し 、 そ の 表 現 型 を 解 析 し た と こ ろ 、 約 半 数 の MRC1-KD メ ダ カ が ST6Gal I-KO メ ダ カ
と 同 様 の 心 臓 異 常 を 示 し た 。 さ ら に 、 MRC1 の 全 長 及 び N 型 糖 鎖 付 加 部 位 欠 損 変 異 体
の mRNA を 用 い た レ ス キ ュ ー 実 験 を 行 っ た 結 果 、メ ダ カ の 心 臓 発 生 に は 、 MRC1 上 の
特 定 部 位 の N 型 糖 鎖 に お い て ST6Gal I が 生 合 成 す る Siaα2,6Gal エ ピ ト ー プ が 重 要 で
あることが初めて示された。
最後に、メダカの心臓発生におけるシアル酸の結合様式多様性の意義の解明を目指
し た 。 そ の た め に 、 ST6Gal I-KO メ ダ カ の 重 篤 な 心 臓 異 常 が α2,6-シ ア ル 酸 転 移 酵 素
ST6Gal I と II 及 び β-ガ ラ ク ト シ ド α2,3-シ ア ル 酸 転 移 酵 素 ST3Gal の 強 制 発 現 に よ っ
て レ ス キ ュ ー さ れ る か 否 か を 調 べ た 。 そ の 結 果 、 ST6Gal I だ け で な く 、 N 型 糖 鎖 上 に
Siaα2,6Gal ま た は Siaα2,3Gal を 付 加 す る 活 性 が 高 い ST6Gal II 及 び ST3Gal IV の 強 制 発
現によりレスキューされた。以上の結果から、メダカの心臓の発生にはシアル酸の結

合 様 式 は 関 係 な く 、特 定 部 位 の N 型 糖 鎖 上 の シ ア ル 酸 付 加 が 重 要 で あ る こ と が 初 め て
示された。
以上をまとめると、本研究では、個体レベルでのシアル酸の結合様式多様性の意義
を解明する方法論として、特定のシアル酸転移酵素遺伝子のノックアウトメダカを作
出し、その表現型の異常が種々のシアル酸転移酵素遺伝子の強制発現によって レスキ
ューされるか否かを調べる方法を開発した。その結果、 個体レベルでの胚発生におけ
るシアル酸の結合様式多様性の意義の一端を初めて明らかにすることができた。

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