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大学・研究所にある論文を検索できる 「オリゴ・ポリシアル酸構造の新奇な合成酵素および認識分子に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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オリゴ・ポリシアル酸構造の新奇な合成酵素および認識分子に関する研究

𠮷村, 淳 名古屋大学

2021.07.26

概要

我々の体は主にタンパク質・脂質・核酸でできているが、タンパク質と脂質には単糖と単糖が結合して連なった「糖鎖」が結合している場合がある。そのタンパク質や脂質に結合した糖鎖の多くが細胞表面に存在している。また、糖鎖修飾はタンパク質や脂質の性質を大きく変えることで、それらの生理機能の制御に重要な役割を果たしている。細胞表面に提示される糖鎖の構造は、糖鎖関連酵素群によって調節されている。生物や細胞の種類、細胞の状態が異なれば糖鎖の構造は千差万別である。すなわち、構造の多様性に富む糖鎖が細胞の種類や状態を反映した「細胞の顔」として、細胞の外部に情報を提示しているといえる。

シアル酸は 9 つの骨格炭素からなる酸性の単糖で、糖脂質及び糖タンパク質の糖鎖の非還元末端に存在する。その存在は、細菌からヒトに至るまで多くの生物種において知られ、糖鎖の構造多様性の一因を担っている。多くのシアル酸修飾糖鎖は 1 残基のシアル酸が末端に付加したモノシアル酸( monoSia)として存在している。しかし、 monoSia よりも少ない量で、更なるシアル酸による修飾を受けた糖鎖構造が存在している。それらシアル酸の重合体はジシアル酸( diSia)、重合度 3~7 のオリゴシアル酸( oligoSia) および重合度 8 以上のポリシアル酸( polySia) と様々な長さで存在し得る。その構造は、構成シアル酸の分子種、シアル酸残基間の結合様式( α2,4、α2,8、α2,9、 α2,8/9、α2,5Oglycolyl )および鎖長の違いによって高い多様性を有する。実際には、生物がシアル酸重合体を生合成するにはシアル酸転移酵素 STxSia が関与するため、取り得る構造には一定の制限があると考えられている。しかし、monoSia や diSia に比べて、oligo/polySia は分子が大きく、存在量が少ないこともあり解析が比較的困難であった。そのため、oligo/polySia の生物における存在意義には不明な点が多く残っている。本研究では oligo/polySia の生物学的意義の理解を深めることを目的として、 polySia 合成酵素( polyST) とシアル酸結合イムノグロブリン様レクチン( Siglec)に着目して以下の課題に取り組んだ。

まず、polyST について、無脊椎動物ウニの配偶子においては、α2,5Oglycolyl -、α2,8-および α2,9-polySia の存在が確認されている。ウニは単一種内で 3 種類のポリシアル酸が発現する唯一の例であり、oligo/polySia の構造多様性の意義を探求するのに適した生物である。ウニにおける STxSia のシアル酸転移反応を研究することは、生物におけるシアル酸の構造制御機構を理解する上で大きな意義がある。しかし、現在までにウニにおいて polyST の同定は全く行われていない。本研究では、ウニのゲノムデータベースより ST8Sia の候補となる遺伝子を探索し、分子遺伝学的なアプローチにより polyST 活性を解析した。BLAST 検索を含んだ探索により 28 のウニ ST8Sia 遺伝子が見出され、それらの遺伝子は系統樹解析により既知の脊椎動物 ST8Sia とは系譜の異なる遺伝子群を形成していることが判明した。次に、ウニの生殖巣から PCR によって 5 つの ST8Sia 候補遺伝子をクローニングした。哺乳類細胞に遺伝子を導入後、ウェスタンブロッティングやフローサイトメトリーによる polyST 活性測定行い、 spu5 が α2,8-polyNeu5Ac 合成活性を持つことを明らかにした。spu5 の変異体作出、糖鎖分解酵素処理、基質タンパク質との共発現によって polyST 活性を調べ、脊椎動物の既知 polyST とは異なる性質を持つ新奇な polyST であることを示した。

次に、Siglec について、免疫系の自己非自己の認識には糖鎖が重要な役割を果たす。シアル酸は後口動物において豊富に存在しており、シアル酸を糖鎖に持つか持たないかが、後口動物における自己非自己の認識において重要であると考えられている。また、糖鎖における非還元末端に位置するため、シアル酸は細胞の比較的遠位に存在することになり、糖鎖を介する細胞間相互作用において有利であると考えられている。 Siglec は主に免疫細胞に発現しており、シアル酸の認識を通して免疫を制御するレクチン型受容体である。Siglec のシアル酸結合特異性は複雑であり、その結合メカニズムは完全には明らかにされていない。ヒトで知られている 15 の Siglec 遺伝子の内、 Siglec-7 は主にナチュラルキラー( NK)細胞や単球上に発現しており、細胞外領域の Ig-like V-set ドメインとシアル酸含有リガンドとの結合を介して免疫を負に制御していると考えられている。Siglec-7 の結合特異性はいくつかの報告から α2,8-diSia 構造や分岐型 α2,6-シアル酸構造とされているが、佐藤ちひろ等のグループによる結合性解析より、重合度が 6 のヘキサシアル酸構造まで認識できることが示された。Siglec-7はシアル酸の重合体を認識することから、他の大多数の monoSia 認識性の Siglec と比べ結合特異性が特徴的である。近年、同じグループによって、Siglec-7 において新規の結合サイト( Site 2)に位置するアルギニン残基( R67)の存在が報告された。本研究では、Site 2 に存在する他のアルギニン残基の結合への関与を調べた。まず、アミノ酸配列や立体構造の in silico 解析を行い、R92 と R94 が Site 2 に存在し、多くの Siglec において保存されていることを見出した。特に、R94 はシアル酸への結合性がないとされている Siglec-XII を含めた全ての Siglec に保存されていた。続いて、生化学的な結合性解析を行って、R94 が Siglec-7 のシアル酸結合に必須であることを明らかにした。加えて、R92 は monoSia を含む糖鎖との結合に関与していることも明らかにした。以上の結果から、Siglec-7 が機能的な 2 つの結合サイトを通じてリガンドとの相互作用をしており、それぞれの結合サイトには必須のアルギニン残基が存在することを示すことができた。

また、Siglec-7 はシアル酸結合を介して自然免疫を負に制御することが知られているが、そのリガンドに関しては不明な点が多い。そこで、Siglec-7 の細胞表面への結合性が高い血球系がん細胞 K562 を用いて、そのリガンド担体タンパク質の同定を行った。抗体の Fc 領域と Siglec-7 融合タンパク質と強力な結合阻害剤 diSia-Dex を用いてリガンドを親和性精製し、質量分析、免疫沈降実験、近接ラベリング法を併用して、分子量 110 kDa のリガンド担体タンパク質として CD43 を同定した。また、K562と NK 細胞を用いた細胞障害実験により、CD43 と Siglec-7 の相互作用を介して NK細胞の活性が低下することを発見した。さらに、Siglec-7 が認識する CD43 上の糖鎖構造を修飾するシアル酸転移酵素として、ST8SIA6 と ST6GALNAC1 を同定した。以上の結果 から、 Siglec-7 は CD43 の O- 結合型糖鎖上 の α2,8-diSia および Siaα2-6GalNAc 構造を認識し、NK 細胞における細胞障害活性を抑制する機能があることを明らかにした。

oligo/polySia の構造多様性は物理化学的な性質への寄与に加えて、レクチンに対するリガンドの構造特異性を生み出す生化学的な性質への寄与も持ち合わせる。これらの性質は生命現象において、様々な影響をもたらす。本研究では、oligo/polySia の「生合成」と「認識」という 2 つの現象に着目して研究を行った。ウニの新奇 polyST の発見は、多様な polySia 構造が合成される触媒機構を明らかにするだけでなく、棘皮動物からヒトに至るまでの polySia の進化の過程をひも解くヒントを与えることになる。Siglec-7 における高度に保存された 2 番目の結合サイトの発見は、Siglec-7 の糖鎖認識機構を詳細に理解することにつながる。がん細胞における Siglec-7 のリガンド担体タンパク質およびリガンドの生合成を担うシアル酸転移酵素を同定し、NK 細胞上の Siglec-7 との相互作用の機能を明らかにした。これにより Siglec-7 の生体内における免疫制御機構の解明に向け一歩近付いたと考える。oligo/polySia の生合成をする spu5 と認識をする Siglec-7 の研究を通じて、現存の生物において oligo/polySia が使われている意義の一部を解明できたと信じる。

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