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ポリシアル酸修飾された神経細胞接着分子の構造と新たな構造制御機構の解明

森, 愛理 名古屋大学

2021.07.14

概要

神経細胞接着分子 (NCAM) は神経細胞及び免疫細胞表面に局在し、NCAM はそれ同士のホモフィリックな相互作用を、あるいはその他の接着分子や受容体とヘテロフィリックな相互作用をして、神経機能の制御に深く関わっている。また、NCAM は脳において主要なポリシアル酸 (polySia) の担体タンパク質である。ポリシアル酸は酸性 9 炭糖であるシアル酸の重合体で、その重合度 (DP) は 8~400 に及ぶ。ポリシアル酸修飾は胎児脳で一過的に起こり、成人脳では神経新生が起こり高い可塑性が維持されている海馬、嗅球といった部位で起こる。脳内における polySia-NCAM の機能として、反接着機能がよく知られており、ポリシアル酸がもつ多数の負電荷と嵩高さで形成される大きな排除体積によって、polySia-NCAM は細胞同士の相互作用を負に制御している。この特性により、polySia-NCAM は神経の可塑性を生み、正常な神経回路の形成や神経発生を可能にすると考えられている。また、佐藤ちひろ博士の研究グループでは polySia-NCAM の機能として、分子保持機能を立証してきた。NCAM 上のポリシアル酸鎖が様々な神経生理活性分子と直接結合・保持することで、分子の局所的な細胞表面濃度や受容体提示を制御し、正常な神経活動を維持していると考えている。これらの機能を持つ NCAM 上のポリシアル酸の構造は、ポリシアル酸転移酵素 (polyST)である STX と PST によって制御されている。 STX と PST は単独でポリシアル酸の伸長が可能ではあるが、STX と PST が共存する場合では、相加的ではなく協調的に作用することも知られている。それぞれの polyST を欠損させたマウスの解析が行われており、STX 欠損マウスと PST 欠損マウスでは表現型が異なることが報告されている。しかしながら表現型が異なるメカニズムについては明らかにされていない。近年、様々な精神疾患と polySia-NCAM の不全との関係性が報告されている。例えば、統合失調症患者の脳では polySia 構造の異常が見られる。また、ゲノムワイドな解析によって統合失調症患者の STX には一塩基多型 (SNPs) があることが報告された。佐藤ちひろ博士の研究グループでは、オープンリーディングフレーム (ORF)内に一アミノ酸変異をもたらす STX (SNP-7) (E141K) の酵素活性が顕著に減少し、その酵素産物であるポリシアル酸の分子保持機能が弱まることを明らかにした。一方、双極性障害患者の脳では、前頭前野において、ポリシアル酸発現の増大が知られている。これらの研究から、ポリシアル酸は精神疾患への関与がが示唆されており、その量および構造は適切なレベルに制御されることが、正常な脳機能に重要であることが考えられる。しかし、その重要性が示唆されながらも、詳細な polySia-NCAM の構造とその構造制御機構に関しては未だ不明な点が多い。さらに、polySia-NCAM が持つ構造と polySia-NCAM の機能との関係性についても明らかにされていない。よって本研究では、発達段階における polySia-NCAM と polyST によって生合成された polySia-NCAM に着目し、その構造と機能の関係を明らかにすることを目的とした。また、その構造制御メカニズムを明らかにすることも目的とした。

まず、polySia-NCAM の構造的な特徴、すなわち質を評価する新たな方法として、 SDS-PAGE/Native-PAGE (S/N) MAP 法を樹立した (第 2 章)。S/N MAP 法は、抗ポリ シ ア ル 酸 抗 体 を 用 い た SDS-PAGE/western blotting (WB) 解 析 と Native-PAGE/WB 解析を用いて、簡便に polySia-NCAM の質を分類することができる。S/N MAP 法によって、胎児脳と成体脳における polySia-NCAM には質の違いが存在することが示唆されたため、具体的な構造の違いを明らかにするためにさらに解析を行ったところ、成体脳の polySia-NCAM には、胎児脳の polySia-NCAM には見いだされなかった、大きな負電荷に寄与する構造が存在していることが明らかになった。そこで次に、成体脳の polySia-NCAM がもつ負電荷の原因である構造を明らかにすることを目的とした (第 3 章)。細胞外の糖タンパク質に大きな負電荷を与える構造として、硫酸基が挙げられる。そこで硫酸化グリコサミノグリカンとその硫酸基転移酵素に着目したところ、ケラタン硫酸 (KS) に硫酸基を転移する酵素 KSGal6ST の遺伝子欠損マウスにおいて、有意なポリシアル酸構造の増加が見出された。この結果から、KSGal6ST は NCAM 上のポリシアル酸構造を減少させる機構に関与するという仮説を立て、培養細胞を用いて検証を行ったところ、確かにこの新しい構造制御機構の存在を立証することができた。次に、実際の生体脳において、KS 修飾が NCAM 上に存在するのか、免疫沈降法を用いて検証を行った (第 4 章)。その結果、従来、主なアイソフォームとして知られている NCAM-180, NCAM-140 の他に、新規のアイソフォームである NCAM-100 と NCAM-80 が見出された。長いポリシアル酸 (重合度 11以上) は NCAM-140 に存在しているが、短いポリシアル酸 ( 重合度 5-10) は NCAM-100 に伸長しており、さらに NCAM-100 には N 型糖鎖上に伸長する KS 鎖が存在していた。NCAM-80 にはポリシアル酸鎖は存在せず、O 型糖鎖上に KS 鎖が伸長していた。このような KS 鎖をもつ NCAM-100 と NCAM-80 は成体脳において発現が高く、KSGal6ST が出生後に発現が増加することと一致している。以上のことから、 KSGal6ST による新たな polySia-NCAM の構造制御が存在し、発達段階で変化する polySia-NCAM の構造制御において重要であることが示唆される。

さらに polyST によって制御された polySia-NCAM の詳細な構造の解析と機能の解析を行った (第 5 章と第 6 章)。この解析には、STX (WT) , PST, STX (SNP-7) , STX (WT) -PST および STX (SNP-7) -PST のそれぞれが生合成した polySia-NCAM を用いた。STX (WT) と PST のそれぞれが生合成した polySia-NCAM 構造には、ほとんど差がみられなかったが、シアル酸の結合様式が異なることが見出された。STX (WT) が生合成したポリシアル酸鎖は、α2,8-結合シアル酸に加え、α2,9-結合シアル酸が存在していた。一方、PST が生合成したポリシアル酸鎖は α2,8-結合シアル酸のみから構成されるが、NCAM 上の N 型糖鎖だけでなく、O 型糖鎖上にも存在する可能性が示された。一方、機能解析の結果、STX (WT) の生合成した polySia-NCAM は反接着機能と分子保持機能という異なる 2 つの機能を獲得しているのに対し、PST は分子保持機能のみを獲得していた。構造解析の結果を照らし合わせると、α 2,9-結合シアル酸の存在が排除体積に影響を与え、反接着機能の獲得に貢献していることが考えられる。また、STX (WT) と PST の生合成したポリシアル酸は、FGF2 と BDNF に対する結合の仕方が異なった。同じ分子保持機能でも、このように結合の仕方や嗜好性が異なるのは、シアル酸の結合様式や N 型糖鎖あるいは O 型糖鎖に存在するポリシアル酸鎖の 違い に寄 与す るの かも しれ ない 。 PST の生 合成 した ポリ シア ル酸 鎖 の み polySia-NCAM に対する結合が見出されたのも、これら構造の違いに起因すると考えられる。STX (WT) -PST は重合度 11-15 というある特定のポリシアル酸を生合成しやすいことが特徴であった。機能解析の結果、STX (WT) -PST の polySia-NCAM は、 STX (WT) または PST が生合成した単独発現系 polySia-NCAM よりも、FGF2, BDNFに対して低い分子結合性が見出された。しかしながら、polySia-NCAM に対する結合性は最も高いことが明らかになった。すなわち、STX (WT) と PST はお互いに干渉し合い、特定の機能を発揮できるように、適切な polySia-NCAM 構造を生合成することが示唆される。また、実際の生体では、発達段階や組織によって、STX と PST の発現量が異なるが、本研究で確立した方法論を適用することによって解析が可能であると考えられる。今後は、実際の生体内の polyST 発現と照らし合わせ、polyST の発現量比を変化させて得た polySia-NCAM の構造と機能を解析していくことで、生体で polySia-NCAM が持つ真の役割を明らかにしていきたいと考えている。また、STX (SNP-7) が生合成した polySia-NCAM には構造の劣化が見られ、polySia-NCAM が持つ分子保持機能および反接着機能も低下していた。さらに、STX (SNP-7) -PST のように STX (SNP-7) だけでなく PST が共に発現していても、polySia-NCAM の構造の劣化は免れなかった。機能についても、STX (WT) -PST で制御されていた適切なレベルの機能の破綻がみられた。これらの結果から、STX の生合成した polySia-NCAMが統合失調症の発症メカニズムに深く関与している可能性があることが示唆される。

以上、本研究では、まず polySia-NCAM の量と質の精緻な制御機構に polyST だけでなく、硫酸化酵素 KSGal6ST が関 与することを初めて見出した。次 に 、 polySia-NCAM の質の変化によって、その機能が制御されることも明らかにすることができた。

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