リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「癌細胞の形質におけるα2,8-シアル酸転移酵素の機能解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

癌細胞の形質におけるα2,8-シアル酸転移酵素の機能解明

荒木, 映莉乃 名古屋大学

2022.07.07

概要

細胞の表面は、タンパク質や脂質に結合した糖鎖に厚く覆われており、細胞が癌化すると糖鎖構造が変化する。細胞の癌化にともなう糖鎖構造の変化として、タンパク質に結合した N 型糖鎖や O 型糖鎖は高分岐化すること、脂質に結合した糖鎖は短くなること、シアル酸をもつ糖鎖が全体的に増加することが知られている。糖鎖構造の変化は、細胞間の相互作用、細胞膜の流動性や細胞内へのシグナル伝達経路に影響を及ぼし、細胞の増殖異常や癌の転移に関与する。特に、酸性糖のシアル酸は、癌細胞の増殖、浸潤や転移、炎症の促進等の癌の悪性形質と深く関わっている。シアル酸は糖鎖の非還元末端に存在しており、多くがモノシアル酸(monoSia)として存在するが、 monoSia にさらにシアル酸が付加し、オリゴ・ポリシアル酸(oligo/polySia)として存在することもある。シアル酸量の調節は、シアル酸を付加するシアル酸転移酵素と、シアル酸を除去するシアリダーゼによって主に行われおり、癌細胞におけるシアル酸の増大は、シアル酸転移酵素の活性によるものと考えられる。シアル酸転移酵素には、 monoSia を生合成する酵素群(ST3Gal、ST6Gal 及び ST6GalNAc)と、シアル酸上にシアル酸を転移し、oligo/polySia を生合成するα 2,8-シアル酸転移酵素(ST8Sia)がある。 monoSia 構造を生合成するシアル酸転移酵素と癌との関係については、多くの報告がある一方で、癌細胞の増殖や転移に関する、oligo/polySia 構造に関する報告は少なく、シアル酸転移酵素の違いによる、癌細胞の形質の違いは、ほとんど解析されていない。そこで 本研究 では 、複 合糖質 のシ アル酸 上にα 2,8 結合でシ アル 酸を転 移し 、 oligo/polySia 構造を生合成する、St8sia ファミリーと癌の関係に着目した。

はじめに、全 6 種類のα 2,8-シアル酸転移酵素(St8sia1-6)の悪性形質に与える影響を明らかにするために、St8sia1-5 が発現していないことが知られおり、転移や浸潤の研究において、癌細胞のモデルとしてよく用いられる B16 マウスメラノーマ細胞に St8sia1-6 をそれぞれ過剰発現させ、安定発現株を樹立し、細胞の増殖能、細胞の浸潤能、足場非依存的増殖能及び遺伝子変化を解析した(第 2 章)。B16 マウスメラノーマ細胞におけるα 2,8-シアル酸転移酵素 St8sia1-6 の安定発現株に関して、癌細胞の 3 つの形質( 増殖能、浸潤能、足場非的増殖能) を解析した。細胞の増殖能は、St8sia1 、 St8sia4、St8sia6 の発現により増大した。細胞の浸潤能は、St8sia1、St8sia2、St8sia4、 St8sia6 の発現により増大した。足場非依存的増殖能は、St8sia4 あるいは St8sia6 の発現より増大した。これらの結果から、α 2,8-シアル酸転移酵素の中でも特に St8sia4及び St8sia6 の発現が癌細胞の悪性形質を増大させることが明らかになった。St8sia2と St8sia4 の 2 種類のポリシアル酸転移酵素により polySia は生合成されるが、癌細胞の形質において、St8sia4 の発現がより多くの癌細胞の形質の悪性化に寄与していた。また一方で、浸潤能においては、St8sia2 と St8sia4 の発現により共通して増大していた。

そこで、St8sia2 及び St8sia4 が癌細胞の形質に対してどのように機能的差違を生じさせるのか、ポリシアル酸転移酵素(polyST)とその産物である polySia に着目し、そのメカニズムの解明を行った(第 3 章)。まず、B16 マウスメラノーマ細胞において St8sia2 あるいは St8sia4 の発現により、どのような糖鎖構造の変化を引き起こすか解析した。その結果、両酵素共に細胞表面に polySia を発現させ、polySia は糖脂質上ではなく、タンパク質の主に polySia を合成していることが判明した。タンパク質上の polySia はα 2,6-Sia 上である可能性が高く、polyST の発現により、シアル酸量が増大した。また、Neu5Gc が癌細胞の悪性化に寄与している可能性については、シアル酸の 99%が Neu5Ac であり、Neu5Gc の総量に占める割合はごく僅かであり量的変化もなかったことから、その寄与はないと考えられる。また、St8sia4 は O 型糖鎖上に polySia を合成している可能性が示唆された。さらに、いずれも主な担体タンパク質は NCAM であったことから、polySia-NCAM あるいは polyST の酵素自体が癌細胞の形質の変化に寄与している可能性が考えられた。そこで次に、polySia 特異的に切断する酵素(endoN)による消化の有無における癌細胞形質(増殖能、浸潤能、足場非的増殖能)の解析を行うことで、polySia 依存的な形質変化のメカニズムの解明を試みた。遊走能については、B16 マウスメラノーマ細胞においては polyST による遊走能に変化はなかった。細胞の増殖能においては、St8sia2 では変化なかったが、St8sia4 では endoN 処理の有無に関わらず、細胞増殖速度が増大した。そこで、St8sia4 の増殖速度の増大は polySia 非依存的であり、St8sia4 自体の持つ未知機能によるものである可能性が高いため、St8sia4 の不活性酵素を発現させて細胞増殖能を解析した。その結果、St8sia4 により合成され、endoN で切断されうる構造で、抗体でも検出不可能な oligoSia 構造が増殖能の増大に寄与する可能性が示唆された。浸潤能については、 polyST で共通して、polySia 依存的に浸潤能が増大し、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性化が関与することが示唆された。足場非依存的増殖能に関しては、 St8sia4 で polySia 依存的に増大した。さらにモノクローン化した St8sia4 発現細胞の解析結果から、癌細胞上の polySia が大過剰というよりも最適発現量であることの重要性が示唆された。また、遺伝子のレベルでも、St8sia2 と比較して St8sia4 は癌関連遺伝子の発現が増大していた。

さらに、機能未知であり、糖脂質末端にジシアル酸を転移し、複雑なガングリオシドを生合成するシアル酸転移酵素 St8sia5-S,-M,-L の局在と特性の解析を行った(第 4章) 。シアル酸転移酵素は、 ゴルジ体に局在すると考えられてきたが、 St8sia5-M, St8sia5-S は ER に局在していることが新たに判明した。また、St8sia5 の部分配列欠失変異体を作出して調べた結果、Stem 領域に局在制御に重要な 12 アミノ酸配列を特定した。また、St8sia5-L は GD3 の取り込みが増大することが判明した。一方、細胞増殖には変化がないこともわかった。

以上の結果から、α 2,8-シアル酸転移酵素のなかでも、特に癌形質に関与する酵素やそのメカニズムが明らかになった。今後、これらの遺伝子や酵素、その産物を制御することが可能になれば、癌における新たな早期診断・治療に役立つと考えられる。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る