キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)におけるBH3-only protein、sayonaraの発見
概要
⽣物は常に環境からのストレスに晒されており、ストレスを感知した細胞はストレ
ス応答を開始する必要がある。アポトーシスはストレス応答の代表例であり、その機
構は海綿動物から哺乳類まで広く保存されている。
1986 年の線⾍におけるカスパーゼ CED-3 の発⾒を発端として、アポトーシスの分
⼦機構に対する研究は⽬覚ましく進んだ。中でも 1995 年に同定された Bad を⽪切り
に、BH3-only タンパク質はアポトーシスを開始する必須のストレスセンサーとして
その重要性が広く認識されてきた。
キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)においても、アポトーシスの経
路の⼤部分は進化的に保存されている。IAP(Inhibitor of apoptosis)経路の発⾒など、
ショウジョウバエを⽤いた研究は線⾍、哺乳類と共にアポトーシス研究に⼤きく貢献
してきた。その⼀⽅で、線⾍や哺乳類でアポトーシス制御に必須である BH3-only タ
ンパク質が、ショウジョウバエにおいては約 20 年以上も発⾒されていなかった。
そこで本研究では、ショウジョウバエにおける BH3-only タンパク質の探索を試み
た。既知の BH3-only タンパク質を⽤いた in silico 解析を⾏なった結果、ヒト BIK と
類似性を⽰すショウジョウバエの遺伝⼦ CG14044 を発⾒し、これを sayonara(synr)
と名付けた。
Synr は BH3-only タンパク質の機能に必須である BH3 モチーフをもち、
BH3 モチーフ依存的にカスパーゼの活性化を伴うアポトーシスを誘導した。またシ
ョウジョウバエの BCL-2 ファミリータンパク質である Buffy や Debcl と遺伝学的、
⽣化学的に相互作⽤していた。Synr は p53 の下流や、飢餓ストレスに対する腸上⽪
でのアポトーシス制御で機能しており、内在的にも細胞死を制御していることが⽰唆
された。
さらに、Synr 下流においてアポトーシス経路に加え、オートファジー経路も活性化
されていることを発⾒した。オートファジー経路は⼀般的にアポトーシス経路を抑制
すると認識されているが、Synr の下流におけるオートファジー経路の抑制は、カスパ
ーゼの活性化、それに伴う細胞死を抑制した。また Synr の下流において、アポトー
シス経路、オートファジー経路は共依存的に互いに活性化し合い、両経路間に正のフ
ィードバックループが存在することも明らかになった。アポトーシス経路、オートフ
ァジー経路が互いに促進的に作⽤する例も知られているが、この正のフィードバック
ループについては報告されておらず、両経路間の相互作⽤に関する新たな知⾒となる。
本研究は私達の知る限りショウジョウバエ初の BH3-only タンパク質同定の報告で
ある。さらに、アポトーシス経路、オートファジー経路の相互作⽤についても新たな
可能性を⽰した。 ...