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大学・研究所にある論文を検索できる 「癌細胞におけるアポトーシス感受性制御機構の解明」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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癌細胞におけるアポトーシス感受性制御機構の解明

土田 芽衣 東北大学

2021.03.25

概要

【研究背景・⽬的】
プログラム細胞死の⼀つであるアポトーシスは不要・有害な細胞を⽣体から除去する機構であり、細胞増殖や分化と共に個体・⽣命の維持に必須の細胞応答である。アポトーシスの制御異常は、癌や⾃⼰免疫疾患など様々な疾患に深く関与することから、その誘導機構の分⼦レベルでの解析がこれまで盛んに⾏われ、現在、アポトーシス誘導機構の全貌が明らかにされつつある。しかし、抗癌剤治療の最⼤の障壁とされる「癌細胞のアポトーシス耐性獲得機構」など、アポトーシス誘導機構については解明すべき幾つかの課題が残されている。従って、これら課題を克服する⾜掛かりとなる「アポトーシスの感受性を調節・制御する分
⼦機構」の解明は重要な研究課題である。

抗癌剤シスプラチンは、癌細胞の DNA 鎖間に架橋を形成して DNA に損傷を与え、アポトーシスを誘導することにより抗腫瘍効果を発揮する薬剤である。シスプラチンは、現在も幅広い種類の癌を対象に使⽤されている優れた薬剤である⼀⽅、癌細胞のシスプラチンへの抵抗性獲得が治療上の問題となっている。私は、シスプラチンの感受性を規定する新規因⼦として TNF receptor-associated factor 2 (TRAF2 )を同定し、TRAF2 によるシスプラチン誘導性アポトーシスの制御機構の解明を⽬的として、研究を⾏なった。

⼀⽅で、Fas 誘導性アポトーシスは、種々の抗癌剤やキラーT 細胞によって誘導される代表的なアポトーシス経路である。デスレセプターの Fas は、Fas リガンドの結合により活性化して、ミトコンドリアを介する「内部経路」と、ミトコンドリアを介さない「外部経路」という、2 通りの経路によってアポトーシスを誘導する。外部経路はより効率的にアポトーシスを誘導できる経路であるが、癌細胞では外部経路が活性化されにくくなっている。このことは、癌細胞におけるアポトーシス耐性の⼀因と考えられているが、その実証例や外部経路の活性化因⼦はこれまで報告が無い。そこで、普遍的な細胞内情報伝達の⼿段であるキナーゼによるタンパク質リン酸化について、Fas 誘導性アポトーシスでの機能的役割がほとんど明らかにされていないことに着⽬し、Fas 誘導性アポトーシスにおいてキナーゼが外部経路の伝達を制御するマスター因⼦であると考え、アポトーシス感受性を決める責任キナーゼの新規探索および感受性制御の分⼦機構の全容解明を⽬的として研究に着⼿した。

【結果・考察】
1. TRAF2 によるシスプラチン誘導性アポトーシス制御機構の解明
TRAF2 は、酸化ストレスにより誘導されるアポトーシスを促進する⼀⽅で、TNF 受容体 により誘導されるアポトーシスを抑制する細胞運命制御因⼦である。しかし、代表的なアポトーシス誘導刺激である DNA 2. 傷ストレスによるアポトーシス誘導に対する TRAF2 の関与は不明であった。上述のように本研究ではシスプラチン誘導性アポトーシスに注⽬し、シスプラチンを DNA 損傷ストレス誘導剤として使⽤したところ、ヒト繊維⾁腫細胞株 HT1080 は TRAF2 ⽋3. により、シスプラチン誘導性アポトーシスへの抵抗性を獲得することが⽰された。シスプラチン誘導性アポトーシスは転写因⼦ p53 の活性化を介することが報告されているため、次にシスプラチンによる p53 活性化に対する TRAF2 の寄与を解析した。その結果、TRAF2 ⽋損によってシスプラチン処理依存的な p53 の活性化が抑制された。さらに、p53 を直接リン酸化して活性化するc-jun N-terminal kinase (JNK)の活性化が、TRAF2 ⽋損によって減弱した。以上から、シスプラチン処理時に TRAF2 は JNK の活性化促進により p53 の活性化を増強し、シスプラチン誘導性アポトーシスを促進することが明らかとなった (Tsuchida M. et al., J. Toxicol. Sci., 2020)。

2. STK11 による Fas 誘導性アポトーシス促進機構の解明
2-1. STK11 による外部経路の活性化を介した Fas 誘導性アポトーシス促進機構の解明
これまでに当研究室では、Fas 誘導性アポトーシスの感受性制御に寄与する責任キナーゼを探索するため、Fas を⾼発現させた HEK293T 細胞でのアポトーシスの減弱を指標として、キナーゼ特異的な siRNA ライブラリーを⽤いた RNAi スクリーニングを⾏い、アポトーシスを強く促進する複数のキナーゼを同定した。私は、その中の⼀つで、重要な癌抑制遺伝⼦として働き、細胞の増殖・エネルギー代謝に深く関わる STK11/LKB1 (Serine-threonine kinase 11 / Liver kinase B1)に焦点を絞り、解析を進めた。
Fas リガンドがその受容体である Fas に結合すると、受容体直下でシステインプロテアーゼであるカスパーゼ-8 が活性化し、BH3-interacting domain death agonist (BID)を切断することによってミトコンドリア外膜透過 (MOMP: Mitochondrial outer membrane permeabilization)を惹起し、内部経路によるアポトーシスが誘導される。BID は、カスパーゼ-8 がミトコンドリアへシグナルを伝達するのに必須の因⼦であるため、BID ⽋損によって Fas リガンド処置依存的な内部経路の活性化は完全に阻害される。STK11 の機能解析に汎⽤される細胞株である⼦宮頸癌細胞株 HeLa において、CRISPR/Cas9 システムを⽤いて BID ⽋損細胞を樹⽴し、Fas 誘導性アポトーシスに対する STK11 の関与を解析した結果、 STK11 による Fas 誘導性アポトーシスの促進が認められた。すなわち、STK11 が Fas 誘導性アポトーシスの外部経路を活性化することが明らかとなった。また、キナーゼ活性を⽋損した変異体 STK11 も野⽣型 STK11 と同程度のアポトーシス促進能を⽰したことから、STK11 はキナーゼ活性⾮依存的に外部経路を活性化することが判明した。次に、STK11 によるアポトーシス促進機構に迫るため、アポトーシス実⾏因⼦カスパーゼ-3 の強⼒に阻害する抗アポトーシス因⼦ X-linked inhibitor of apoptosis protein (XIAP)に着⽬した。BID ⽋損細胞において XIAP の⽋損により Fas 誘導性アポトーシスが亢進することから、STK11 は XIAP を抑制することで Fas 誘導性アポトーシスを促進する可能性を想定した。解析の結果、カスパーゼの活性化依存的に切断された STK11 の断⽚が、XIAP との結合を介して XIAP のプロテアソーム分解を促進することが明らかとなった (図 2)。

2-2. STK11 依存的なFas によるパータナトス誘導経路の発⾒
前項では、内部経路不全細胞において STK11 が Fas 誘導性アポトーシスを促進する機構を明らかにしたが、内部経路が正常に伝達される細胞 (BID 発現細胞) でも STK11 によるアポトーシス促進効果が認められた。興味深いことに、BID 発現細胞では XIAP の⽋損による Fas 誘導性アポトーシスの亢進はほとんど認められず、STK11 が XIAP 阻害とは異なるアポトーシス促進能を有することが⽰唆された。さらに、BID 発現細胞において、STK11は Fas リガンド処置依存的なカスパーゼの活性化に影響を与えず、BID の下流で誘導される MOMP に伴う、アポトーシス誘導因⼦の細胞質への放出にも影響を与えなかった。そこで、MOMP により細胞質へと放出される細胞死誘導因⼦ Apoptosis inducing factor 1 (AIF)に着⽬した。AIF は、カスパーゼ⾮依存的なアポトーシス様の細胞死、パータナトスを誘導する細胞死誘導因⼦である。パータナトスでは、細胞が DNA 障害などのストレスに晒されて DNA 修復因⼦の Poly-ADP ribose polymerase (PARP)が過剰に活性化すると、AIF はミトコンドリアから遊離し、ヌクレアーゼと共に核へ移⾏して DNA の断⽚化を進め、細胞死を誘導する。そこで、Fas リガンド処置時の AIF の局在変化を解析すると、興味深いことに、STK11 発現細胞においてFas リガンド処置時にPARP の酵素活性依存的なAIF の核移⾏が認められた。さらに STK11 発現細胞においてのみ、AIF の⽋によって Fas 誘導性アポトーシスが抑制された。また、キナーゼ活性を⽋損した変異体 STK11 も Fas リガンド処置依存的なAIF の核移⾏を促進することが⽰された。以上の結果から、内部経路が正常に伝達され、⼗分に MOMPが誘導される細胞では、STK11 はキナーゼ活性⾮依存的にFas 誘導性パータナトス経路を活性化することが明らかとなった (図 3)。

以上、本研究から、TRAF2 によるシスプラチン誘導性アポトーシス促進機構と、STK11によるキナーゼ活性⾮依存的な 2 通りの Fas 誘導性アポトーシス新規制御機構が明らかとなった。本研究成果により、TRAF2 の機能不全がシスプラチン抵抗性に寄与する可能性が初めて⽰され、各種癌に対するシスプラチンの治療効果を予測する新たなマーカーとして TRAF2 を利⽤できることが⽰唆された。また、STK11 は内部経路不全時には外部経路を活性化することでアポトーシスを促進し、内部経路が正常な場合には MOMP の下流でパータナトスを誘導することを⾒出し、Fas 誘導性アポトーシスの新規促進因⼦として STK11を同定した。本機構は正常なアポトーシス誘導経路に異常を⽣じた際の代替経路として機能することが想定され、新規癌治療戦略を構築する上での重要な分⼦基盤となることが期待される。

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