Genetic abnormalities in a large cohort of Coffin–Siris syndrome patients
概要
1. 序論
Coffin-Siris 症候群(CSS、MIM#135900)は、粗な顔貌、発達/知的障害、第 5 指および爪の形成不全を特徴とする先天性疾患である。(Coffin and Siris, 1970)CSS の病的バリアントはBAF(BRG1- associated factor)クロマチンリモデリング複合体をコードする遺伝子に同定されている。これまでにBAF 複合体に関連する9 つの遺伝子(ARID1A、ARID1B、 ARID2、SMARCA4、SMARCB1、SMARCE1、SOX11、PHF6、DPF2)が原因遺伝子として同定され、病的バリアントを持つ患者は 150 人以上が報告されている。(Bögershausen and Wollnik, 2018)当教室ではすでに 71 人の CSS 患者を対象とした遺伝学的解析において 39 人が病的バリアントを持っていたことを報告している。(Tsurusaki et al., 2014)それ以降、182 人のCSS 患者を追加募集し、これらの 182 人と以前の報告で病的バリアントをもっていないとされた 32 人の患者に対して、一塩基バリアント、短い挿入/欠失、コピー数異常を対象とした包括的な遺伝的解析を行った。
2. 実験材料と方法
臨床的に CSS と診断された CSS 患者をあらたに 182 例募集し、以前の報告で病的バリア ントが同定されなかった 32 例と合わせ 214 例を解析の対象とした。患者及び両親から末梢 血または唾液を回収し、標準的な手法で DNA を抽出し、全エクソーム解析を行った。全エ クソーム解析で得られたデータを用い、短い挿入/欠失を含む一塩基バリアント(Single Nucleotide Variant、SNV)とコピー数異常(Copy Number Variation、CNV)を包括的に 評価し、病的バリアントを検索した。SNV の確認は PCR を行いサンガー法で配列を確認 した。CNV の確認は定量PCR を行い該当箇所の重複/欠失を確認した。SMARCB1 のバリ アントのうち特異な変化を持つものは患者リンパ芽球様細胞株(Lymphoblastoid Cell Line、 LCL)を用いてmRNA を抽出し、逆転写PCR(RT-PCR)を行いサンガー法で配列の確認 を行った。また、公共の健常人集団データベースであるgnomAD から非病的バリアントを収集し、エクソンごと(または 100 塩基対ごと)にその集積率を計算した。
3. 結果
新規解析群 182 例中、他疾患の原因遺伝子を同定した 51 例を除いた 131 例中に、CSS の原因遺伝子に 73 個の病的バリアントを同定した。再解析群 32 例中、他疾患の原因遺伝子を同定した 6 例を除く 26 例中に、CSS の原因遺伝子に 5 個のバリアントを同定した。原因遺伝子別には ARID1B が最も多く 48 例に病的バリアントを同定し、以下多い順に SMARCB1 に 8 例、SMARCA4 に 7 例、ARID1A に 6 例、SOX11 に 4 例、SMARCE1 に 1 例、PHF6 に 1 例を同定した。さらに、SMARCA2 を含む領域の CNV を 3 つ同定した。 SNV は 71 例、CNV は 7 例に同定した。SMARCB1、SMARCA4、SMARCE1 の病的バリアントは機能ドメイン上に集中しており、特に SMARCB1 においては高度に集積を認めた。特異なバリアントとして SMARCB1 に truncating variant を 1 つ、部分的なゲノム欠失を 1 つ同定した。いずれの特異なバリアントも、RT-PCR 法で異常な mRNA がナンセンス変異依存mRNA 分解機構(nonsense mediated decay:NMD)を受けないことを確認した。
4. 考察
本研究では全体として 78 例に病的バリアントを同定した。新規解析群 131 例に対する同定 率は 55.7%であり、これは他グループも含めたこれまでの報告(54.9~71%)と同様になっ た。(Santen et al., 2013; Tsurusaki et al., 2014; Wieczorek et al., 2013)これまでの複数の 報告と同様、最も多く病的バリアントが同定されたのは ARID1B 遺伝子であり、同定され たバリアントに対する割合は約 61.5%(48/78)であった。病的バリアントの特徴としては ARID1B や ARID1A にみられたものがミスセンス変異やナンセンス変異、スプライスサイ トの変異や小さな塩基挿入/欠失および大きなコピー数多型など多様であったことに比して、 SMARCA4、SMARCB1 そして SMARCE1 にみられた病的バリアントはそのタンパク質の 全長が保持されたままのものが多かった。1 アミノ酸の欠失のほかはすべて機能ドメイン内 に存在するミスセンスバリアントであり、タンパク質内での機能ドメインの機能変化が表 現型に起こしうる影響の大きさを際立たせた。SMARCB1 に見られた特異な 2 つのバリア ントは RT-PCR において NMD を回避することが確認されたが、野生型とは長さの異なる タンパク質となり、機能変化につながることが予測された。SMARCB1 におけるtruncating variant と遺伝子の一部を含む variant としては初めての報告となった。今後は RNA シー クエンスや全ゲノムシークエンスなどの他の方法を導入することで未だ遺伝的に解決して いないCSS 患者の解決に貢献する可能性がある。