High prevalence of SMARCB1 constitutional abnormalities including mosaicism in malignant rhabdoid tumors
概要
1. 序論
悪性ラブドイド腫瘍 (Malignant rhabdoid tumor, MRT)は主に 2 歳未満の中枢神経や腎臓に発生する稀な悪性腫瘍である. 腫瘍の多くは SMARCB1 遺伝子の両アレルでの変異や欠失により, SMARCB1 蛋白の機能喪失をきたしていることが報告されている (Versteege et al., 1998) (Reisman et al., 2009). 近年, 小児悪性腫瘍において, 腫瘍細胞にみられる遺伝子異常が生殖細胞系列の異常に由来しうることが報告され, 発症に遺伝的な背景が関与しうることが認識されるようになった. 実際に, MRT の約 30%が生殖細胞系列の片アレルに SMARCB1 遺伝子異常があり, 遺伝的な背景と関連して発症するラブドイド腫瘍素因症候群 (Rhabdoid tumor predisposition syndrome, RTPS)として報告されている (Eaton et al., 2011).
また, SMARCB1 に限らないゲノム研究として, Acuna-Hidalgo et al. (2015) は集中的な遺伝子解析により, ある個体で新しく発生した遺伝子異常 (de novo 変異) とみられる中に,体細胞モザイク変異が 6.5%で認めることを報告し, 小児悪性腫瘍においても体細胞モザイクが存在する可能性を示唆した.
体細胞モザイクは低頻度の細胞割合で存在しうるために, 従来の方法では見逃されている可能性があると考えられる. そこで本研究では, MRT 発症の背景にある SMARCB1 遺伝子異常を体細胞モザイクも含めて検出し, MRT の病態における遺伝的な背景の関与を把握することを目的として検討を行った.
2. 実験材料と方法
2003 年から 2018 年に国立成育医療研究センター, 静岡県立こども病院, 聖マリアンナ医科大学病院で, SMARCB1 蛋白の発現欠失が免疫組織化学検査で確認され MRT と診断さ れた 0~18 歳の 22 名を対象とした. 腫瘍と生殖細胞系列の両方の検体が得られた 16 名を解析対象者とした. 16 名の原発巣の内訳は, 頭蓋内 8 名, 腎臓 1 名, その他の臓器 3 名, 複数臓器 4 名であった. 患者の血液もしくは非腫瘍組織および腫瘍から DNA を抽出し, 直接塩基配列決定法, Single nucleotide polymorphism (SNP)アレイ解析, droplet digital PCR (ddPCR)で SMARCB1 遺伝子の異常について集中的な解析を行った.
3. 結果
腫瘍の解析により, 全例で SMARCB1 遺伝子の両アレルに異常が確認できた. 生殖細胞系列の解析では, 体細胞モザイク 3 例を含む 8 例(50%)で, SMARCB1 遺伝子変異もしくは欠失が生殖細胞系列にも検出された. 全例, SMARCB1 蛋白の合成が中断されるナンセンス変異や欠失であった. 生殖細胞系列に異常をみとめた患者の年齢中央値は 5 か月 (範囲,最小値 0 か月~最大値 75 か月)で, 生殖細胞系列に異常を認めなかった患者の年齢中央値 23.5 か月 (範囲, 最小値 13 か月~最大値 154 か月)と比較して有意差を認めなかった. 体細胞モザイク 3 例のうち 2 例は SMARCB1 遺伝子の欠失が体細胞モザイクで検出され, 末梢血液中に SMARCB1 遺伝子の欠失がある細胞割合はそれぞれ 40%, 24%であった. また 1 例は SMARCB1 遺伝子変異が体細胞モザイクで検出され, 末梢血液中の SMARCB1 遺伝子変異をもつ細胞割合は 3.4%であった. また, 生殖細胞系列に SMARCB1 遺伝子異常を認めた 3 例では, 両親の末梢血液を使用して SMARCB1 遺伝子解析を行ったが, 全例で異常を認めなかった.
4. 考察
本研究では MRT 患者の 50%で生殖細胞系列の SMARCB1 遺伝子異常が検出された. 過去の報告と比較し RTPS の頻度が高いのは, ddPCR により低頻度の体細胞モザイクが新たに検出されたことが要因と考えられ, 従来の解析では生殖細胞系列の異常が見逃されていた可能性が示唆された. 低頻度の体細胞モザイクの存在を考慮すると, MRT 以外の小児がんにおいても cancer predisposition syndrome と同じ状態にある患者はさらに多く存在する可能性があり, 本研究を通して, 生殖細胞系列の遺伝子異常が小児がん発症の原因としてより関連性が高い可能性が示唆された.