Prevalence of germline GATA2 and SAMD9/9L variants in paediatric haematological disorders with monosomy 7
概要
1. 序論
7番染色体の欠失(モノソミー7)もしくは7番染色体長腕の部分欠失は, 骨髄異形成症候群(MDS), 急性骨髄性白血病(AML), 若年性骨髄単球性白血病(JMML)などの骨髄性疾患に幅広く観察される染色体異常である.この染色体異常はほとんどの病型で予後不良因子とされ、造血幹細胞移植の適応となる.
近年の研究により生殖細胞系列におけるGATA2遺伝子の機能喪失型バリアントとSADM9, SAMD9L遺伝子の機能亢進型バリアントが, モノソミー7を伴う小児の造血器疾患の発症に関連していることが明らかにされた(Chen et al., 2016; Narumi et al., 2016; Wlodarski et al., 2016).一方でモノソミー7を伴う小児の造血器疾患の生殖細胞系列に, どのくらいの頻度でこれら遺伝子の病的バリアントが存在するかは明らかにされていない.また生殖細胞系列のGATA2, SAMD9/9L遺伝子の病的バリアントを持つ症例の臨床的特徴も十分には理解されていない.
今回我々はモノソミー7を伴う小児造血器疾患を対象に生殖細胞系列のGATA2とSAMD9/9Lの病的バリアントの頻度を解析し, その臨床的特徴を明らかにした.
2. 実験材料と方法
本後方視的研究では, 国立成育医療研究センターならびに本邦の11の研究協力施設において診断・治療を受けた症例の中で以下の基準全てを満たす症例を対象とした.
(1)小児期に7番染色体の完全もしくは部分欠失を伴う造血器疾患と診断された症例
(2)解析に利用可能なサンプルが残されていること
(3)研究協力に同意が得られていること
7番染色体の完全もしくは部分欠失は, 蛍光in situハイブリダイゼーションまたはG分染法によって同定されたものと定義した.
上記の基準を満たすMDS(N=10), AMLもしくは骨髄肉腫(N=9), JMML(N=3)とその他(N=3)の計25例を本研究の対象とした.
・GATA2の解析
GATA2のコーディング領域であるエクソン2からエクソン6と, 病的変異が知られているイントロン4をダイレクトシーケンス法により解析した。同定されたバリアントの一般人口におけるアレル頻度の評価には1000 Genomes Project databaseとHuman Genetic Variation Database(HGVD)とを用いた.病原性の評価には公共のデータベースNCBI Clin VarならびにLeiden Open Variation Databaseに登録されている情報と, American College of Medical Geneticsのガイドラインを用いた.
・SAMD9/9Lの解析
SAMD9/9Lのコーディング領域をディープシークエンス法により解析し, バリアントを抽出した。抽出されたバリアントから1000 Genomes Project databaseならびにHGVDを用いて希少バリアントを選出した。得られた希少バリアントが病的意義のある強い細胞増殖抑制能を示すかを評価するために, HEK293細胞にバリアントを導入しドキシサイクリン誘導系による機能解析を実施した.
3. 結果
GATA2の解析では7/25例で7つの病的バリアントを同定した.うち4つは新規トランケーション変異で, 残りの3つはNCBI Clin VarにPathogenicとして登録のある病的バリアントだった.
SAMD9/9Lの解析では, ディープシークエンス法により4/25例で4つの新規バリアントを同定した。機能解析の結果, それらのうち3つのバリアントが病的な細胞増殖抑制を示した.
上記の病的バリアント陽性者は相互排他的であり, 10/25例(=40%)の生殖細胞系列にいずれかの遺伝子の病的バリアントを同定した。これら10例の中でGATA2欠損症もしくはSAMD9/9L異常症の典型的症状を呈したのは1例のみであった.
4. 考察
本研究ではモノソミー7を伴う小児造血器疾患の背景にある生殖細胞系列のGATA2, SAMD9, SAMD9Lの病的バリアントの頻度を初めて報告した.モノソミー7を伴う小児造血器疾患の患者では, GATA2欠損症もしくはSAMD9/9L異常症の典型的な症状がなくとも, これら遺伝子の病的バリアントを考慮する必要がある.