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大学生の心配の制御困難性に対する注意バイアスの影響

富島, 大樹 筑波大学

2020.07.22

概要

本研究は,大学生の心配の制御困難性について注意バイアスの影響に注目して検討した。

第一部理論的検討
第1部の理論的検討において,第1章では大学生の心配の様相,第2章では臨床症状としての心配の様相,第3章では注意バイアスに焦点を当てた心配の制御困難性について,先行研究を概観した。

第1章では,大学生の心配の様相について,先行研究を概観した。第1節では本研究の対象である大学生は76.1%が就職をし,学生から社会人に立場が変わる移行期に属し,将来の仕事や人生について深く考える,心配が多くなる時期に当たることを指摘した。海外の研究(Davey et al., 1992など)から大学生が抱える心配の内容については居住地域や年代によって異なることが明らかとなり,さらに本邦では心配の内容研究が古く十分でない(根本ら,1984;杉浦ら,2005)ことに触れ,新たな心配の内容研究の必要性が議論された。

第2節では,大学生の心配に対しての評価であるメタ認知的信念の研究を取り上げた。大学生は心配に対して「問題解決に役立つ」「情動コントロールに役立つ」などの肯定的評価を下している一方で,「不安を掻き立てられる」「問題をさらに大きくする」などの否定的評価も同時に抱いていた。このような心配に対する相反する評価を持つ理由について,Beck & Clark(1997)による不安に関する統制的処理と自動的処理の概念を用いて説明した。その中で,心配に下される否定的評価は,心配の制御困難性との相関が大きく,特に意思に反して生じる自動的処理の影響が大きい可能性が議論された。

第3節では,心配のコントロール方略についての先行研究を概観した。その中で,既存のコントロール方略の尺度項目は,本研究の対象である大学生の体験を反映したものではないため,大学生のコントロール方略に対する新たな研究の必要性が指摘された。

第2章では,臨床症状としての心配の様相について先行研究を概観した。第1項では研究史として,1980年にDSM-Ⅲ(APA,1980)で心配が主症状の全般性不安障害が定義されたことをきっかけに臨床症状としての心配が盛んに研究され始めたことを紹介した(Borkovec et al. 1983など)。加えて,1993年に従来の認知療法(Becketal.,1985)では心配の制御困難性に対して50%しか十分な効果を示さないという研究から(Durham & Allan, 1993),心配の制御困難性に特有の認知行動モデルが開発される契機となったたことに触れた。

臨床症状としての心配の発生を説明する6つのモデルを取り上げた。その中で「病的心配の認知モデル(Hirsch & Mathews, 2012)」では,注意バイアスと解釈バイアスという心配に関連する自動的処理を扱っていた。本邦では,この2つの変数に着目した心配の制御困難性に関する研究が不十分であること,さらに,6つのモデルで取り上げている変数を包括的に検討した研究がないことにも触れ,心配が制御困難になる要因について自由記述調査などで抽出する必要性が議論された。

第3章では,注意バイアスに焦点を当てた心配の制御困難性について,先行研究を概観した。第1節では,注意は複数の情報源から特定の情報を選択する過程であること,注意の定位,注意の持続,注意の解放の3段階があること(袴田ら,2010)が指摘された。特に特定の情報に偏る注意バイアスが,心配の制御困難性に関わる可能性について指摘し,注意の定位の段階で生じる注意の促進のバイアスが望まない心配の侵入に関わり,注意の解放の段階で生じる注意の解放困難のバイアスが望まない心配を追い払うことの難しさと関わると論じた。

第2節では,心配の制御困難性と注意バイアスに関する先行研究を概観した。修正ストループ課題,ドット・プローブ課題,修正視覚探索課題によって測定された注意バイアスと心配の制御困難性との関連について検討した。その結果,心配の制御困難性に関連した注意バイアスを測定する際に,課題の種類,刺激の種類による有用性の違いが明らかになっていない点について指摘した。さらに,心配の制御困難性に関連する注意バイアス修正法の効果研究が十分に行われていないことも指摘した。

第4章では,先行研究の問題点として,本邦において大学生を対象とした1)心配の内容,2)コントロール方略,そして3)心配のコントロールを阻害する要因の調査が不十分であることが挙げられた。加えて,4)心配の制御困難性の性質を反映した方法で注意バイアス研究が行われていない点が指摘された。さらに5)心配に関連した注意バイアスを測定するのに適した認知課題と刺激を用いて注意バイアスを測定し,心配傾向との関連を検討されていない点が指摘され,最後に6)注意バイアス修正法の心配の制御困難性に対する効果が検討されていない点も指摘された。これらの問題を解決する本研究の目的が述べられた。

第二部実証的検討
大学生の心配の質的検討
第二部の実証的検討において,第5章では,大学生の心配について質的検討を行った。分析1の結果から,大学生の心配の内容は12個に分類された。分析2の結果からは,望まない心配に対する11種類のコントロール方略が得られ,さらに認知的回避,認知的対処,行動的回避,行動的対処の4つに大きくまとめられた。分析3の結果から,心配のコントロールを阻害する要因として,11種類抽出され,注意の要因,感情の要因,態度の要因,環境の要因の4つに大きくまとめられた。その中でも注意の要因の記述数が心配傾向の高群に有意に多く見られ,注意バイアスの影響があることがうかがわれた。

心配の制御困難性に関連する注意バイアスの測定方法の開発
第6章では心配の制御困難性に関連する注意バイアスの測定方法を開発した。研究2では,心配の制御困難性に関連した注意バイアス研究のメタ分析を行い,課題の種類として修正視覚探索課題,刺激の種類として言語刺激,刺激の内容は心配語を用いることが望ましいことが示された。研究3では,研究1のデータから本研究の対象である大学生の心配の内容を反映した心配語を作成した。研究4では,研究3で作成した心配語を用いた修正視覚探索課題を開発し,心配傾向との関連を検討した。その結果,心配傾向の高い者は,心配語に対してより早く反応する「注意の促進」のバイアスと,心配語から意識を追い払いにくい「注意の解放困難」のバイアスという2つの注意バイアスがより大きいことが示された。

心配の制御困難性に対する注意バイアス修正法の効果
第7章では,注意バイアス修正法の心配の制御困難性への効果を検討した。研究5分析1では,心配傾向の高い者(PSWQ>58)を対象に,修正視覚探索課題を用い実験群には注意バイアス修正法,比較群には注意コントロール訓練を行い,心配の制御困難性に対する効果を検討した。その結果,実験群と比較群に有意な差は見られなかった。ベースライン段階において心配傾向は高いものの注意バイアス得点が低い参加者が含まれたことがその要因と考えられた。

研究5分析2では,心配傾向の中程度以下の者(PSWQ<58)を対象に,注意バイアス修正法を行い,心配の制御困難性の増悪に対する予防的効果を検討した。しかし,期待された予防的効果は見られず,設定した課題の実施回数が少なく,また特定のストレッサ―を設定しなかったことが要因として考えられた。

第三部総合考察
本研究の意義
本研究の意義は以下の3点であると考えられる。1)大学生の心配の制御困難性について注意の要因への注目,2)心配の制御困難性に関連した注意バイアスを測定する方法の開発,そして3)注意バイアスに対する自助的な方法の開発である。

研究1では大学生の心配の制御困難性の要因として,自由記述調査の結果から注意の要因の重要性を示した。続く研究2,3,4では,心配の制御困難性に関連する注意バイアスを測定する修正視覚探索課題を開発した。その上で,注意バイアスが心配の制御困難性に関わっていることを示した。最後に研究5では注意バイアスに対する自助的な方法として注意バイアス修正法を開発し,効果の検討については今後の課題であることが示された。

本研究の限界と今後の課題
本研究の対象
本研究の対象は,心配傾向が高い健常大学生群であった。本研究から得られた知見を,ほかの年代や臨床群に適用することには慎重になる必要があるものと考えられる。

対象者の抱える問題の種類
また本研究は,心配の制御困難性に対する効果を検討するため,心配傾向が高い者を対象とした。本研究で用いた修正視覚探索課題による注意バイアス修正法は,同時に複数の気になることを持つ対象者に適用が望まれる方法である。問題に合った方法の選択を可能にする意味から,適用を拡大して研究することが望まれる。

研究方法の問題
本研究では,修正視覚探索課題による注意バイアス修正法を用いたが,視野角などは特に統制しなかった。修正視覚探索課題による注意バイアス研究では,注意バイアスが検出される研究と検出されない研究があり,その点において,課題画面の視野角が関わっている可能性がある。課題画面の視野角を統制するには,画面からの距離を統制できる装置を用いて研究を行うことが望ましいと考える。

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