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大学・研究所にある論文を検索できる 「弱い紐帯との交流がキャリア・リフレクションに及ぼす影響」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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弱い紐帯との交流がキャリア・リフレクションに及ぼす影響

永野, 惣一 筑波大学

2021.07.29

概要

本研究では,自身の仕事に対する肯定的な意識や態度を向上させることを目的として,そのために重要な役割を果たすと議論されてきた自身のキャリアに対するリフレクションに焦点を当て,その具体的な内容と構造を明らかにするために現職従業員を対象とした研究を実施した。また,キャリア・リフレクションを促進する要因として,本研究では新たに弱い紐帯との交流に着目し,対面および SNS(Social Networking Service)上での弱い紐帯との交流がキャリア・リフレクションを促進するという仮説について,当該領域の先行研究に関する理論的検討を通して導出するとともに,以下に示す一連の実証的研究を行った。

まず,研究 1 では,現職従業員を対象に半構造化面接を行い,弱い紐帯との交流およびその交流を通して生じたキャリア・リフレクションの具体的な内容について探索的に検討した。聴き取り内容からキー・フレーズの抽出および分類を行った結果,弱い紐帯との交流から生じる自身のキャリアに関するリフレクションは,「現状に対する再評価」,「将来への展望」,「自分に対する気づき」,「職場外の関係の捉え直し」の 4 つのカテゴリに整理されることが示された。また,これらの結果より弱い紐帯との交流を介して,普段の生活の中では得られなかった新たな気づきを得て,自身のキャリアに対する深い省察が得られる可能性があることが明らかとなった。

研究 2 においては,研究 1 に基づいて,質問紙調査によりキャリア・リフレクションの内容・構造について検討を行った。因子分析を通して,キャリア・リフレクションは 4 つの内容に分類されることが示唆された。具体的には,第 1 に自分のこれまでの仕事内容や現在の職務を振り返るなかで,それらを肯定的に評価し捉え直す「自分の働き方への再評価」,第 2 に仕事以外の活動や人とのつながりについて,より重要なものとして捉え直す「仕事以外の活動の見直し」,第 3 にこれまでより積極的・自律的に仕事に取り組もうと捉え直す「仕事への自律性向上」,第 4 に相手との比較の中で自分の仕事振りについて危機感をもって捉え直す「仕事への危機意識喚起」として整理された。なお,これらは研究1で整理されたカテゴリと対応するものであるものと考えられる。また,このキャリア・リフレクションの分類について,別の研究における 2 つのデータを用いて分析した結果からは,交差妥当性が確認されるとともに,併存的妥当性および収束的妥当性についても確認された。

さらに,研究 2 では本研究における基礎的な仮説モデルとして,弱い紐帯との交流がキャリア・リフレクションを媒介して,ワーク・エンゲイジメントに影響するという影響過程を想定し,これを共分散構造分析により検討した。その結果,弱い紐帯との交流において,自身の仕事内容に関する話題や未来への期待に関する話題を交わすことで,自分の職務や仕事振り,これまでのキャリアについての肯定的な再評価がなされ,職業的自己効力感およびワーク・エンゲイジメントの促進に結びつくという影響過程が示された。一方で,仕事や生活における悩み事や嫌な出来事などのネガティブな内容について弱い紐帯との間で会話することは,仕事への危機意識の喚起を媒介して,職業的自己効力感およびワーク・エンゲイジメントを抑制することも明らかとなった。

研究 3 では研究 2 で検討されたモデルについて,その過程を詳細に検討するために,3 波に及ぶ縦断的調査を行った。そして,研究 2 で想定したモデルとは逆の影響過程としての,ワーク・エンゲイジメントが弱い紐帯との交流に影響を及ぼすという可能性についても考慮しつつ,弱い紐帯として挙げられた相手との関係性がどのような影響を及ぼすかを併せて検討するために,関連する変数を含めて総合的に分析を行った。その結果,研究 2 で示された影響過程が,縦断的データに基づく共分散構造分析の結果からも支持された。この結果に加えて,弱い紐帯として挙げられた相手との関係性については,相手への肯定的な認知がなされているほど,仕事に関する内容,未来の期待に関する内容,ネガティブな内容についての会話が促進されることが示され,結果としてキャリア・リフレクションも生じやすくなることが明らかとなった。なお,相手との付き合いの長さが長くなるほど,未来の期待に関する内容が抑制されることも明らかとなった。これらの結果より,弱い紐帯は,単に交流頻度が少ないということだけでなく,相手とのこれまでの関係性によって,キャリア・リフレクションの生じやすさに影響を及ぼす可能性が推察された。

以上,研究 3 までに示されてた,弱い紐帯との対面での交流がキャリア・リフレクション に影響を及ぼすという知見を拡張し,研究 4 以降では,昨今の SNS を介したコミュニケー ションの隆盛を背景としながら,SNS 上での弱い紐帯との交流に焦点を当てて検討を行った。まず,研究 4 では,SNS 上での弱い紐帯との交流に関する現状,およびそれらの交流を通し て生じたキャリア・リフレクションの諸相について,自由記述式のウェブ調査に基づいて探 索的に検討を行った。自由記述内容からキー・フレーズの抽出および分類を行った結果,SNS 上での弱い紐帯との交流の内容およびキャリア・リフレクションの内容について,研究 3 ま でにおいて検討された対面での交流における内容と概ね整合するものであることが確認さ れた。さらに,対面と SNS 上での交流頻度についても着目した分析を行い,対面ではたまに しか会わず,かつ,SNS 上でもたまにしか話さないという相手との関係の方が,これまでの 仕事やキャリアに関する話題がより多く交わされやすく,現在までの仕事の取り組みに対 して捉え直しが図られるキャリア・リフレクションがより多く生じやすいことが明らかと なった。その一方で,対面ではたまにしか会わないけれども,SNS 上ではよく話すという相 手との関係では,仕事の取り組みへの捉え直しが生じにくいという傾向も示された。以上の結果を踏まえると,弱い紐帯との交流がキャリア・リフレクションを介して,ワーク・エンゲイジメントを向上させるというプロセスは,SNS 上でも同様にみられる可能性が推察された。

また,研究 5 では SNS の投稿や閲覧そのものが,職務におけるストレスに対する捉え方(職務ストレスマインドセット)に一定の影響を及ぼす仮説について検討を行った。先行研究に基づき,SNS の投稿は,自己客観視や出来事や経験の肯定的な捉え直しを通して,職務ストレスに対するマインドセットが肯定的なものとなると想定して分析を行った。その結果,SNS の投稿頻度の多さは,職務ストレスへの肯定的なマインドセットの形成に結び付き,その上,精神的健康の向上にも寄与しており,先行知見に対応したものと考えられた。一方, SNS の閲覧頻度の多さは,肯定的な職務ストレスマインドセットの低減を媒介して,精神的健康の悪化にも結び付いていた。これは,社会的比較が行われる機会の増大により自身の職務などについても否定的に捉えられる可能性によるものと推察された。すなわち,SNS 上での投稿・閲覧行動は,職務ストレスマインドセットに相反する影響を及ぼすことが明らかとなった。

最後に研究 6 では,研究 4 と研究 5 の結果を踏まえながら,関連が想定される変数をいずれも投入しつつ,研究 2 および研究 3 で検討したような,弱い紐帯との交流がキャリア・リフレクションに及ぼす影響過程が SNS 上においても示されるかを検証する分析を行った。 3 波に及ぶ縦断的調査のデータに基づく共分散構造分析の結果からは,弱い紐帯との間で未来の期待に関する話題を交わすことが,自分の働き方への再評価を促進し,その上,ワーク・エンゲイジメントを高めるという対面による交流において示された過程が,SNS 上でも生じることが明らかとなった。また,研究 5 と同様に SNS の投稿行動それ自体が職務ストレスマインドセットに促進的な影響を及ぼしており,さらに,職務ストレスマインドセットが肯定的であるほど,弱い紐帯との間で未来の期待に関する内容が共有されやすく,そのためキャリア・リフレクションにも結び付きやすいことが示された。これは,職務上のストレスイベントそのものを成長の機会として捉えるという考え方を形成しうることに相当し,それゆえに未来についての事柄に関しても期待感を持ちながら話題として選択できるようになることが推察された。さらに,弱い紐帯として挙げられた相手の特徴については,相手への肯定的な認知があるほど,研究 3 における対面による交流と同様に,仕事に関する内容,未来の期待に関する内容,ネガティブな内容の会話が促進されることが示され,結果としてキャリア・リフレクションも生じやすくなることが明らかとなった。また,相手との付き合いの長さについては長いほど,上記内容の会話が抑制されており,対面の交流と同様の過程がみられることが明らかとなった。

総合考察においては,これまでに実施してきた一連の実証的研究の成果を総括しながら,対面および SNS 上での弱い紐帯との交流がキャリア・リフレクションを促進するという仮説が支持されたことについて議論した。また,その議論を踏まえて,新しいモデルを提唱しつつ,今後の研究への展望を加えた。

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