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大学・研究所にある論文を検索できる 「入院中の統合失調症者の心の理論とワーキングメモリへの介入プログラムの開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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入院中の統合失調症者の心の理論とワーキングメモリへの介入プログラムの開発

佐藤, 美央 筑波大学

2020.07.21

概要

目的:
統合失調症者はその疾患により対人機能が障害されることが多く、対人交流からストレスを受けやすく、症状の再燃や再発入院の要因になることがある。対人交流が困難なことにより、統合失調症者は退院への自信が持てなくなることがある。退院を促進し、安定した地域生活を送るためには、対人機能を高めることが重要である。

対人機能には、他者の意図や性質を理解するための心の理論が関連していることが指摘されている。心の理論は視点取得(自分と他者では見えているものが異なることの理解)、メタ表象(他者の心の状態を表象する)、意図の推論(他者の発言の意味の理解)で構成され、統合失調症者はこれら 3 つの要素の認知にそれぞれ困難を抱えている。また、対人機能には短期記憶の一種であり、記憶と処理の 2 つの機能を果たしているワーキングメモリも関与している。ワーキングメモリは心の理論の機能の基盤となる機能である。

心の理論などの向上を目的とした既存の認知機能リハビリテーションは、集団を対象としており、しかも実施回数が多く、内容が複雑であることから、入院中の統合失調症者への適応が困難である。本研究では、精神科救急・急性期病棟に入院中の統合失調症者を対象として心の理論とワーキングメモリを高めることを目的とした介入プログラムを実施し、その有用性について検討した。

対象と方法:
精神科救急・急性期病棟に入院中の急性期症状のない統合失調症者 46 名を対象とした。介入プログラムは、1 セッション 30~40 分、週 1~2 回、全 5 回で構成した個別介入とし た。第 1 セッションでは、対人機能と心の理論とワーキングメモリについての説明を行っ た。第 2~4 セッションの導入部分でワーキングメモリへの介入としてトランプを使用して 神経衰弱ゲームを行った。さらに、第 2 セッションでは視点取得、第 3 セッションでは視 点取得とメタ表象、第 4~第 5 セッションでは他者の意図の推論に注目し、ワークブックを 使用した課題方略学習を行った。対象者背景として、服薬量、陽性・陰性症状評価尺度、主 要評価項目は、誤信念課題、ヒント課題、Trail Making Test Part B、逆唱、副次的評価項 目として Social Behavior Schedule、精神障害者社会生活評価尺度、成人用ソーシャルスキ ル尺度を使用し、介入プログラム前後に調査した。また、介入後にプログラムの構造と、プ ログラムに参加したことでの変化の自覚について構造化面接を行い、内容を集約した。なお、本研究は筑波大学医学医療系医の倫理委員会及び、研究対象施設の研究倫理委員会の承認 を得て実施した。

結果:
研究に参加した対象者のうち、最終分析対象は 36 名であった。二次誤信念課題、ヒント課題、Trail Making Test Part B、逆唱において、介入前後の比較で有意な改善が認められた。Social Behavior Schedule、精神障害者社会生活評価尺度においても有意な改善が認められた。ただし、12 名の服薬が変更され、陽性・陰性症状評価尺度においても改善が認められた。一次誤信念課題、成人用ソーシャルスキル評価尺度には変化を認めなかった。介入前の Trail Making Test Part B(TMT-B)の所要時間が健常者よりも短い群と長い群を比較すると、長い群の方が二次誤信念課題とヒント課題、TMT-B、逆唱の改善効果が高かった。研究対象者は、介入プログラムを実施したことによって、「他者の状況を理解するようになった」、「自分自身を客観視し、行動を変化させるようになった」などと自分自身の変化を自覚した回答が多く認められた。介入プログラムの実施回数や時間については概ね適切であると評価が得られたが、プログラム内容が困難で理解が難しかったことや、プログラムの目的や根拠の理解が得られなかった回答も認められた。

考察:
介入プログラムによって、心の理論とワーキングメモリの改善が認められた。心の理論の 3 要素に注目した課題方略学習により、他者の信念や意図について正しく認知する機能が高まったと考えられた。ワーキングメモリは、繰り返し学習の効果によって改善したことに加え、プログラムへの参加の動機付けを高めることにも寄与していた。ワーキングメモリが高まることで、集中力や処理能力が改善し、心の理論を高めることにも作用していたことが考えられた。しかし、精神症状についても改善しており、薬物療法や入院生活による影響を除外することができず、評価指標の改善にも影響した可能性が考えられた。

また、客観的な対人機能にも改善が認められた。主観的な評価は改善を認めなかったものの、自分自身の認知や行動の変化の自覚が得られていた。介入プログラムにおいて対人交流場面を扱い、第三者の視点に立って他者の考えを推測する過程を通して、他者や自分自身の客観視が促進されたと考えられた。また、介入プログラムの課題方略学習や繰り返し学習により自信を得て、介入プログラム以外の場面でのコミュニケーションへの積極性に繋がっていたと推察された。今後は、プログラム内容の理解を促進するために、言語的な表現を改善していくことの必要性が考えられた。

結論:
本研究は、精神科救急・急性期治療病棟に入院中の統合失調症者 36 名対人機能に関連する心の理論とワーキングメモリを高めることを目的とした個別プログラムを開発し、有用性を検証した結果、以下のことが明らかになった。
1. 介入プログラムにより、心の理論とワーキングメモリの機能が高められた。
2. 介入プログラムにより、客観的に社会機能と対人機能が改善した。
3. 介入プログラムにより、対象者から「他者の状況を理解するようになった」、「自分自身を客観視し、行動を変化させるようになった」などと実感が得られた。

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