リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「職場におけるフィードバック環境の形成と効果に関する研究効果に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

職場におけるフィードバック環境の形成と効果に関する研究効果に関する研究

桃谷, 裕子 筑波大学

2022.11.22

概要

本論文は,企業における従業員のワーク・エンゲイジメントと定着の向上が求められる現状において,上司が行う部下への重要な支援の一つとされるフィードバック環境に焦点を当て,その効果と影響過程,形成要因を明らかにするものである。第Ⅰ部の理論的検討,第Ⅱ部の実証的検討,第Ⅲ部の総括の3部構成となっている。

 第Ⅰ部の理論的検討において,第1章では,日本における従業員のワーク・エンゲイジメント,定着(離職意図の低さ)を向上させるために,職場では上司からの日常的なフィードバックが重要視されつつも,フィードバックが部下によって上司の意図するように活かしきれていないという問題を指摘している。その問題の解決策の一つとして,近年,海外で注目されつつあるフィードバック環境に着目し,日本におけるその視点の必要性と有用性について述べている。良好なフィードバック環境が存在する場合,上司-部下間の日常的なフィードバックの提供や受容,探索,利用などが支持され頻繁に行われるということが明らかになっている。

 第2章では,フィードバック環境の概念と特徴を整理し,フィードバック環境が影響を与える要因に関する研究,フィードバック環境の形成を促進する要因に関する研究を概観した。その結果,次の4つの課題が明らかになった。それらは,a)フィードバック環境とフィードバック文化が混同されて用いられている,b)フィードバック環境には7つの側面があるが,それらが単一因子にまとめられて検討されている,c)フィードバック環境のアウトカムに対する影響過程において重要な役割を果たす要因であるにもかかわらず,信頼に着目した研究がほとんど認められない,d)フィードバック環境の形成要因に関する研究が不十分であることである。次の第3章では,これらの課題に対応した目的を設定した。

 第3章では,以上を踏まえ,職場における上司によるフィードバック環境に焦点を当て,日本人労働者を対象として,フィードバック環境がワーク・エンゲイジメント,離職意図を向上させるプロセス,およびフィードバック環境の形成を促進する要因を明らかにすることを目的として設定した。この目的を達成するために,次の4点を具体的な目的とした。それらは,①フィードバック環境を多面的に評価できるフィードバック環境尺度(Steelman et al., 2004)の日本語版の作成とその妥当性・信頼性の検証を行い,さらにデータの階層性の有無を確認する,②情緒的信頼と認知的信頼を別々に評価できる情緒的・認知的信頼尺度(McAllister, 1995)の日本語版の作成とその妥当性・信頼性の検証を行う,③フィードバック環境の7側面が,2つの信頼,2つの役割変数,ワーク・エンゲイジメント,離職意図に影響を及ぼすプロセスを検討する,④2次元のリーダーシップPM行動がフィードバック環境の7側面を形成することを確認し,さらにそれらの影響が2つの信頼,2つの役割変数,ワーク・エンゲイジメント,離職意図に影響を及ぼすプロセスについて検討することであった。

 第Ⅱ部の実証的検討は,第4章(研究1)から第8章(研究5)の5つの研究で構成されている。第4章(研究1)と第5章(研究2)では,フィードバック環境尺度の日本語版を作成し,その信頼性・妥当性の検証を行い,さらにデータの階層性の有無を検討した。第4章(研究1)では,国際的な基準であるISPORタスクフォースのガイドラインに準拠して日本語版を作成し,妥当性・信頼性の検証を行った。確認的因子分析により,因子的妥当性が検証され,FES-Jは原版と同様の7因子構造であることが確認された。7因子は高い内的整合性が示された。相関分析の結果から,収束的妥当性が確認された。続く第5章(研究2)では,チーム(上司1名と部下複数名の組合せ)で働いている部下のデータに基づき,7因子すべてのデザインイフェクトを算出し,データの階層性の有無を検討した。7因子すべてのデザインイフェクトが一定基準よりも小さい値であったことから,本研究のデータに階層性がないと判断した。さらに,第4章(研究1)と異なるデータによっても因子的妥当性と収束的妥当性を有することが確認された。以上より,FES-Jは一定の信頼性と妥当性を有し,日本の職場におけるフィードバック環境を適切に評価できる尺度であることが示されたといえる。これらの結果から,以降の研究では,フィードバック環境は7側面に分けて検討し,個人レベルの分析を適用することとした。

 第6章(研究3)では,情緒的・認知的信頼尺度日本語版の作成と信頼性・妥当性の検証を行った。日本語版の作成は,研究1と同様に,ISPORタスクフォースのガイドラインに準拠して実施した。確認的因子分析により,因子的妥当性が示され,原版同様の2因子構造が確認された。さらに,相関分析の結果,収束的妥当性が検証された。2因子ともに内的整合性は十分に高かった。以上より,本尺度は,一定の信頼性と妥当性が確保され,日本の職場において情緒的信頼と認知的信頼を別々に評価できる尺度であることが示されたといえる。したがって,以降の研究では,信頼を情緒的信頼と認知的信頼に分けて検討することとした。

 第7章(研究4)と第8章(研究5)では,第4章(研究1)から第6章(研究3)で作成し,信頼性・妥当性が検証された尺度を用い,仮説に基づきモデルを設定し検証した。第7章(研究4)では,フィードバック環境がワーク・エンゲイジメント,離職意図に及ぼす効果とその影響過程について検討した。その際,影響過程として,対人的側面のプロセスとタスク志向的側面のプロセスの2つに焦点を当てている。そして,前者の要因には情緒的信頼と認知的信頼の2つの信頼,後者の要因には役割明確さと役割葛藤の2つの役割変数を用いた。分析の結果,モデルはデータとの適合が良好であった。対人的側面のプロセスでは,フィードバック環境の7側面のうち,上司の信憑性,フィードバックの伝え方,好ましい点のフィードバック,上司の対応可能性の4側面が,情緒的信頼を高めることでワーク・エンゲイジメントを向上させ,また上司の信憑性とフィードバックの質の2側面が認知的信頼を高めることで離職意図を低減させた。一方,タスク志向的側面のプロセスでは,好ましくない点のフィードバックとフィードバック探索の促進の2側面が役割明確さを高めることでワーク・エンゲイジメントを向上させるとともに,離職意図を低減させた。上司の対応可能性は役割葛藤を減らして離職意図を低減させた。以上の結果から,上司への信頼が,フィードバック環境が効果をもたらす影響過程において,重要な役割を果たす要因であることが示唆された。さらに,本研究では,各プロセスの要因として,2つの信頼,2つの役割変数を導入したことにより,フィードバック環境の7側面それぞれのプロセスがより詳細に明らかにされた。

 第8章(研究5)では,第7章(研究4)の結果を踏まえ,フィードバック環境の7側面と形成要因としての2次元のリーダーシップPM行動との関連を検討し,さらに2次元のリーダーシップPM行動がフィードバック環境を形成し,そのフィードバック環境が信頼や役割変数を向上させることでワーク・エンゲイジメントと離職意図を向上させるという一連の影響過程について縦断的に検討した。分析の結果,モデルはデータとの適合が良好であった。さらに,第7章(研究4)で示した影響過程が概ね再現された。フィードバック環境の形成に関しては,7側面すべてに対してM行動が有効であることが示された。ただし,好ましくない点のフィードバック,上司の信憑性,フィードバックの質の3側面は,M行動とP行動の両方の影響を受け,特に好ましくない点のフィードバックでは両方の影響を同程度に受けるというものであった。

 最後の第Ⅲ部の総括では,第9章において,実証研究の全体的な考察を行ったうえで,本研究の学術的意義と実践的意義について考察を行い,本研究の課題と今後の展望について検討し,最後に上司が行う部下への支援および企業が行う上司への支援について提言を行っている。以下に,主な点について概要を述べる。本研究では,上司のリーダーシップを出発点として,フィードバック環境の7側面の向上,2つの信頼と2つの役割変数の向上,最終的に部下のワーク・エンゲイジメントと離職意図の向上に至るプロセスが示された〔第8章(研究5)〕。また,フィードバック環境の7つの側面は,効果,影響過程,形成要因のいずれかにおいて相違が認められたことから,それぞれが特有の機能を有した個別のものである可能性が示唆された〔第8章(研究5)〕。さらに,同一の上司がつくるフィードバック環境の認識が部下によって異なることが示唆されたことから,上司はフィードバック環境を部下一人ひとりに合わせてパーソナライズすることが必要であると考えられる〔第5章(研究2)〕。フィードバック環境の7側面のパーソナライズについては,提言において述べている。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る