2型糖尿病モデルdb/dbマウスの膵島における血管の構造的・機能的適応障害
概要
筑
博
波 大 学
士 (医 学)
1
学 位 論 文
2 型糖尿病モデル db/db マウスの膵島に
おける血管の構造的・機能的適応障害
2022
筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科
岡
島 由
2
佳
原典論文
この学位論文は Morphological and functional adaptation of pancreatic islet blood vessels
to insulin resistance is impaired in diabetic db/db mice. Yuka Okajima, Takashi
Matsuzaka, Shun Miyazaki, Kaori Motomura, Hiroshi Ohno, Rahul Sharma, Takuya
Shimura, Nurani Istiqamah, Song-iee Han, Yuhei Mizunoe, Yoshinori Osaki, Hitoshi
Iwasaki, Shigeru Yatoh, Hiroaki Suzuki, Hirohito Sone, Takafumi Miyamoto, Yuichi Aita,
Yoshinori Takeuchi, Motohiro Sekiya, Naoya Yahagi, Yoshimi Nakagawa, Tsutomu
Tomita, and Hitoshi Shimano. Biochimica et Biophysica Acta (BBA) - Molecular Basis of
Disease. 1868(4):166339, 2022. doi: 10.1016/j.bbadis.2022.166339.を原典とする。
本学位論文では上記論文の内容を、Elsevir B.V. 社の規定に従って再利用している。
3
目次
第1章 序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
1.1 2 型糖尿病とその発症機序について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6
1.2 膵島血流と 2 型糖尿病の関連・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
第2章 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
2.1 動物実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
2.2 血液生化学検査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
2.3 蛍光標識レクチンによる膵島血管構造の描出・・・・・・・・・・・・・・・・10
2.4 in vivo live imaging による膵島血流の解析・・・・・・・・・・・・・・・・・10
2.5 膵島の免疫染色・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
2.6 マウスの膵島の単離・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
2.7 RNA 抽出と定量リアルタイム PCR・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11
2.8 イムノブロット解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
2.9 インスリン投与実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
2.10 統計解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
第3章 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14
3.1 ob/ob マウス、db/db マウスの膵島血管構造の特徴・・・・・・・・・・・・・ 14
3.2 膵島血管構造と血流の in vivo live imaging・・・・・・・・・・・・・・・・ 15
3.3 ob/ob マウスと db/db マウスにおける膵島の神経支配・・・・・・・・・・・・ 16
3.4 ob/ob マウスと db/db マウスにおける膵島血管の周皮細胞・・・・・・・・・・ 17
3.5 db/db マウスの膵島における eNOS のリン酸化の低下・・・・・・・・・・・・18
3.6 db/db マウスの膵島血管における AGE の蓄積・・・・・・・・・・・・・・・・19
3.7 db/db マウスにおける膵島血流の増加は2型糖尿病の病態改善に関与する・・・19
第4章 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
4.1 インスリン抵抗性に対する膵島血管の適応機構の障害は 2 型糖尿病の発症・進展
に関与する・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
4.2 膵島血管機能障害を引き起こす機序について・・・・・・・・・・・・・・・・22
4
4.2.1 インスリン投与実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
4.2.2 神経支配及び周皮細胞の評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23
4.2.3 db/db マウスの膵島における eNOS 活性の低下・・・・・・・・・・・・・・23
4.2.4 db/db マウスの膵島における eNOS 活性低下の分子機序・・・・・・・・・・24
4.2.5 db/db マウスの膵島血管における AGE の蓄積・・・・・・・・・・・・・・24
4.3 本研究の限界・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
第5章 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27
第6章 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34
図・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
5
第1章
1.1
序論
2 型糖尿病とその発症機序について
糖尿病は、インスリン作用の不足に基づく慢性の高血糖を主徴とする代謝疾患群であ
る(1)。成因により 1 型、2 型、その他の機序によるもの、妊娠糖尿病に分類されるが、
2 型糖尿病が最も多く、90%以上を占める(2)。2 型糖尿病の患者数は、過食・運動不足
などの生活習慣や、肥満の増加に伴い、急速に増加している(3)。2021 年の世界の 2 型
糖尿病有病者数は約 5 億人と推計され、2045 年には約 7 億人に達すると予想されてい
る(2)。2 型糖尿病は、発症時には自覚症状がないことが多いが、放置されると神経障害・
網膜症・腎症などの合併症を引き起こし、失明や足壊疽を来し、心疾患や脳卒中などの
原因にもなる。
2 型糖尿病は、インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす遺伝因子に、高脂肪
食・運動不足などの生活習慣や、その結果としての肥満が環境因子として加わって発症
する(1)。また、症例によってインスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗
性が主体で、それにインスリンの相対的不足を伴うものがある(1)。インスリン抵抗性が
主体のものでは、増大するインスリン需要に対して膵 β 細胞量が増加し、インスリン分
泌を代償性に増加させ、血糖値を正常に保とうとする。しかし、経過とともにインスリ
ンの相対的不足に陥ると糖尿病を発症する(4, 5) (Fig.1)。
インスリン抵抗性を発症する主な原因は肥満であり、筋肉や肝臓における中性脂肪の
蓄積、脂肪細胞から分泌されるアディポカインの異常、脂肪組織の慢性炎症などが関与
すると考えられている。インスリン抵抗性においては主に、筋肉によるブドウ糖取り込
みの低下や肝臓による糖新生の増加が起きる(6)。また、インスリン抵抗性において膵 β
細胞量が増加するメカニズムには、グルコース、遊離脂肪酸、インスリン、インスリン
様成長因子 1(Insulin-like growth factor-1, IGF-1)シグナル、グルカゴン様ペプチド
6
-1(Glucagon-like peptide-1, GLP-1)シグナルなどが関与すると考えられている(4)。
一方、インスリンの相対的不足に陥る原因としては、遺伝的な要因やインクレチンの
作用不全、膵 β 細胞における中性脂肪の蓄積などが考えられている。糖尿病発症後は、
高血糖により膵 β 細胞機能が障害され、インスリン生合成及び分泌が低下する。また、
膵 β 細胞量の減少がみられ、インスリン分泌は極度に低下する。膵 β 細胞量の減少に
は、高遊離脂肪酸血症や高血糖による酸化ストレスなどが関与すると考えられている。
また、遺伝子欠損による糖尿病モデルマウスにおいて膵 β 細胞が内分泌前駆細胞へと脱
分化を起こし、一部は膵 α 細胞に分化転換することが報告されており、2 型糖尿病にお
ける膵 β 細胞量の減少のメカニズムとして着目されている(7)。
1.2
膵島血流と 2 型糖尿病の関連
膵島は高密度の毛細血管網が発達した、血流が豊富な組織である。膵島血流は膵島の
細胞に酸素や栄養を供給し、間質の老廃物の蓄積を防ぎ、またインスリンやグルカゴン
などの内分泌ホルモンを体循環へ輸送するのに重要な役割を果たしている(8, 9)。膵島
血流は、グルコース、インスリン、迷走神経支配、一酸化窒素(nitric oxide, NO)
、レ
ニン・アンジオテンシン系などによって制御されている(8-13)。これまでの報告で、膵
島血流が膵島機能に密接に関与することが指摘されているが、2 型糖尿病の発症や進展
における膵島血流の関わりについては未だ明らかにされていない(13, 14)。
マウスやラットの糖尿病モデルを用いたこれまでの報告では、膵島血流が糖尿病発症
前の初期の段階で増加し、その後低下することが示唆されている(8, 15)。Dai らはそれ
ぞれ機序の異なる3つのインスリン抵抗性モデルマウス(レプチン欠損による ob/ob マ
ウス、グルコース輸送体 GLUT4 遺伝子のヘテロ欠損マウス、高脂肪食を与えたマウス)
を用いて解析を行い、膵島の肥大と膵島血管の拡張がみられることを報告した。また、
膵島血管の拡張は内皮型一酸化窒素合成酵素 (eNOS)、副交感神経支配、膵島血流量の
7
増加によって制御されることを提唱し、これらの代償機構がインスリン抵抗性に対する
膵 β 細胞の適応能力に関与する可能性を指摘した(9)。
これらの報告から、インスリン抵抗性において膵 β 細胞が代償性にインスリン分泌を
増加させるために、膵島血流を増加させるが、その後何らかの要因で膵島血流が非代償
性に低下傾向に転じ、2 型糖尿病の発症・進展に関与する可能性が示唆される。また、
電子顕微鏡観察による報告では、マウスやラットの糖尿病モデルで膵島血管構造の不整
や血管密度の低下が指摘されており(16, 17)、膵島血管構造の異常も膵島血流の低下に
関与する可能性が考えられた。
本研究では、自然突然変異によりレプチンを欠損した ob/ob マウスとレプチン受容体
を欠損した db/db マウスを用いた。いずれのマウスも食欲抑制作用を持つレプチンシグ
ナルの欠損により過食・高度肥満とインスリン抵抗性を呈する。遺伝子背景が表現型の
決定に非常に重要であり、ob/ob マウス、db/db マウスともに、C57BL/6J の遺伝子背
景では β 細胞量の代償性増大と高インスリン血症を呈し、血糖値の上昇は軽度にとどま
る。一方、ob/ob マウス、db/db マウスともに C57BL/KsJ の遺伝子背景では、β 細胞量
の代償性増大は不十分で、β 細胞の機能障害と枯渇を来し、重症な高血糖を示す。これ
らの膵 β 細胞の反応の違いは、レプチンやレプチン受容体の遺伝子変異によるものでは
なく、それらの遺伝子変異と遺伝子背景における表現型修飾因子との相互作用によって
もたらされると考えられている(18, 19)。
本研究では、血糖値の上昇は軽度にとどまる遺伝子背景が C57BL/6J の ob/ob マウス
と、重症な高血糖を示す遺伝子背景が C57BL/KsJ の db/db マウスを用いて、膵島血管
構造及び膵島血流を調べ、2 型糖尿病の発症や進展における関わりについて検討した。
また、従来の組織学的手法に加えて、生体の組織を生きたまま観察できる in vivo live
imaging 技術を用いて、膵島血管構造及び血流の解析を行った。
8
第2章 方法
2.1 動物実験
動物実験は筑波大学動物実験委員会の承認の下、筑波大学動物実験取扱規定に則って行
った。また、本動物実験の報告は全て ARRIVE ガイドラインに従って行った。遺伝子
背景が C57BL/6J の雄雌の Lepob/+(ob/+)マウスを日本チャールス・リバー株式会社
(Kanagawa, Japan) よりを購入し、交配により Lepob/+ (ob/+)及び Lepob/ob (ob/ob)マウ
スを得た。また、日本チャールス・リバー株式会社 (Kanagawa, Japan) より遺伝子背
景が C57BL/KsJ の雄・雌 Leprdb/+ (db/+)マウスを購入し、交配により Leprdb/+ (db/+)及
び Leprdb/db (db/db)マウスを得た。Lepr と Elovl6 の二重変異マウス (db/db; Elovl6-/-)
は既報の通り作成した(20)。一部の db/db; Elovl6-/-マウスにニトロアルギニンメチルエ
ステル(L-NAME, R&D Systems, MN, USA)を飲水に 0.1 mg/ml の濃度で加えて2
週間投与した。動物は全て specific-pathogen-free (SPF) 施設において、12 時間明暗サ
イクルで通常の飼料と飲水を与えられて飼育された。各実験にはそれぞれ適切な週齢に
合わせた雄マウスを用いた。マウスは明期中に 4 時間の絶食を行った後に安楽死させ、
解剖した。
2.2 血液生化学検査
血糖値の測定はグルコース CⅡ‐テストワコー(富士フイルム和光純薬株式会社)を用
いてムタロターゼ・GOD 法で行った。血清インスリン値の測定はレビス®インスリン
‐マウス‐T(富士フイルム和光純薬株式会社)を用いて ELISA 法で行った。ヘモグ
ロビン A1c (HbA1c) の測定は DCA2000 HbA1c カートリッジ (SIEMENS, Munich,
Germany) を用いて行った(20, 21)。
9
2.3 蛍光標識レクチンによる膵島血管構造の描出
膵島の血管は DyLight 594 標識トマトレクチン(マウス当たり 50 μg、DL-1177, Vector
Laboratories, Burlingame, CA, USA))を静注することにより標識した。ソムノペンチ
ルの腹腔内投与によりマウスに軽麻酔を施し、トマトレクチンを投与して5分後にマウ
スを断頭により安楽死させ、膵臓を摘出し OCT コンパウンドで包埋し凍結した。凍結
した組織はクリオスタット (1860, Leica Microsystems, Wetzlar, Germany) を用いて
10 μm または 50 μm の厚さに薄切した。作成した切片は蛍光顕微鏡 (BZ-X710;
Keyence, Osaka, Japan) を用いて観察した。50 μm 切片は解析アプリケーション BZH3 (Keyence, Japan) を用いて三次元画像を再構築した。この再構築された画像上で各
標本につき3つの膵島を選び、20 地点において膵島血管径を2点間距離により計測し
た。その他の形態学的パラメーターの解析は 10 μm 切片を用いて行い、各標本につき
30~40 個の膵島画像を解析した。膵島はインスリン免疫陽性細胞との一致を確認した
後、DAPI 染色による細胞核の集積により同定し、膵島断面の面積を測定した。また、
既報で述べられている方法により、膵島切片上にある血管断面の個数から膵島血管密度
を算出した(9, 22)。
2.4
in vivo live imaging による膵島血流の解析
マウスをウレタン (15 g/kg, Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA) により麻酔し、1 cm
程度の円弧状に腹部を切開し、膵臓を引き出した。マウスを顕微鏡のステージ上に置き、
明視野顕微鏡で 20 倍拡大とし、ハイスピードカメラ (EX-F1; Casio, Tokyo, Japan) を
用いて 300~1200 fps の撮影速度で撮影した(23)。膵島内の血管が直線状に走行してい
る部分において血管径を測定し、血管断面積を算出した。血流速度は赤血球を追跡し、
移動距離を観察時間で割ることで算出した。血流量は血流速度と血管断面積の積算によ
り算出した。
10
2.5 膵島の免疫染色
免疫染色実験は既報の通り行った(20)。マウスの膵臓の凍結切片に一次抗体として、抗
インスリン抗体(ab7842, Abcam, Cambridge, U.K.)、抗シナプシン I/II 抗体(106002,
Synaptic Systems, Göttingen, Germany)
、抗 VAChT 抗体(139103, Synaptic Systems,
Göttingen, Germany)
、抗 CD31 抗体(ab28364, Abcam, Cambridge, U.K.)、抗 NG2
抗 体 ( MAB6689, R&D Systems, MN, USA )、 抗 AGE 抗 体 ( ab23722, Abcam,
Cambridge, U.K.)を反応させた後、Alexa Fluor 蛍光色素でラベルされた2次抗体を反
応させた。4’, 6-ジアミジノ-2-フェニルインドール二塩酸塩(DAPI)により細胞核を対
比染色した。標本は蛍光顕微鏡 (BZ-X710; Keyence, Osaka, Japan) を用いて観察し、
解析アプリケーション BZ-H3 (Keyence, Japan) を用いて定量解析を行った。
2.6 マウスの膵島の単離
マウスを断頭により安楽死させた後開腹し、明視野顕微鏡下で総胆管を剥離し、十二指
腸への開口部である Vater 乳頭をクリップではさんで遮断した。その後、総胆管から注
射針を穿刺して、膵管に向けてコラゲナーゼを注入し膵臓を膨化させた後、摘出した。
摘出した膵臓から Ficoll-Conray 比重遠心法によって膵島を単離した(20, 24)。
2.7
RNA 抽出と定量リアルタイム PCR
膵島 RNA の抽出には RNeasy Micro kit (Qiagen, Venlo, the Netherlands) を用いた
(20) 。 eNos の 定 量 PCR に お け る mRNA の 増 幅 に は forward primer: 5’TCAGCCATCACAGTGTTCCC-3’,
reverse
primer:
5’-
ATAGCCCGCATAGCGTATCAG-3’を用いた。内部標準として Cyclophilin を用い、全
て の 発 現 値 は Ct 法 を 用 い て コ ン ト ロ ー ル と 比 較 し た 相 対 値 と し て 表 し た 。
11
Cyclophilin
の
mRNA
の
増
幅
TGGCTCACAGTTCTTCATAACCA-3’,
に
は
reverse
forward
primer:
primer:
5’5’-
ATGACATCCTTCAGTGGCTTGTC-3’を用いた。
2.8 イムノブロット解析
単離膵島からのタンパク抽出とイムノブロット解析は既報の通り行った(24, 25)。膵島
タンパク 30 g を用いて、抗 eNOS 抗体(32027; CST, Frankfurt, Germany)、抗リン
酸化 eNOS (Ser1177) 抗体(9570, CST)、抗 β アクチン抗体(sc-47778, Santa Cruz
Biotechnology, TX, USA)と反応させた後、horseradish peroxidase (HRP) で標識され
た二次抗体と反応させた。シグナルは増強化学発光基質(Clarity Max Western ECL
Substrate, 175062, Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA, USA)を用いて ChemiDoc
XRS+ システム (Bio-Rad)により検出した。全てのタンパクレベルはコントロールと比
較した相対値として表した。
2.9 インスリン投与実験
9 週齢の db/db マウスに中間型の NPH インスリン(ヒューマリン N, Eli Lilly Japan,
Kobe)を毎日朝と夕方に3週間皮下注射した(n = 3)(26, 27)。尾の穿刺により微量の
血液を採り、簡易血糖測定器(Accu-Chek Aviva, Roche DC Japan, Tokyo)を用いて
血糖値を測定した。インスリン投与量はスライディングスケールにより血糖値が 200
mg/dl 以下になるように調整した結果、1 日に 100~300 単位に及んだ。コントロール
群の db/db マウスにはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を 1 回 400 l 、1 日 2 回皮下注
射により投与した(n = 3)
。インスリン投与期間終了後、先述の通り蛍光標識レクチン
による膵島血管構造の解析を行った。
12
2.10 統計解析
各連続変数は平均値±標準誤差 (SEM)として表現した。多グループ間の比較検定には
データが正規分布の場合は、Student の t 検定または一元配置分散分析と事後検定を用
い、データが正規分布でない場合は、マン・ホイットニーの U 検定または Steel-Dwass
法を用いた。P 値が 0.05 未満を統計学的有意と判定した。
13
第3章 結果
3.1
ob/ob マウス、db/db マウスの膵島血管構造の特徴
2 型糖尿病の発症・進展における膵島血管構造の関与を検証するため、肥満・インスリ
ン抵抗性モデルとして遺伝子背景が C57BL/6J の ob/ob マウス、及び肥満・2 型糖尿病
モデルとして遺伝子背景が C57BL/KsJ の db/db マウスの膵島血管構造を解析した。
ob/ob マウス、db/db マウスともコントロールと比べて顕著な肥満を認めた(Fig. 2A)。
血糖値は ob/ob マウスでは 4, 8, 12, 16 週齢においてコントロールと比べて軽度の上昇
を認めた(Fig. 2B)。db/db マウスではコントロールや ob/ob マウスと比べて、血糖値
は 8 週齢以降著明に上昇し、16 週齢にかけてさらに上昇した(Fig. 2B)。血清インス
リン値は ob/ob マウスでは 4 週齢以降著明に上昇し、16 週齢にかけてさらに上昇した
(Fig. 2C)
。一方、db/db マウスでは血清インスリン値は 8 週齢と 12 週齢で一過性に
上昇を認めたが、16 週齢では低下を認めた(Fig. 2C)
。 ...