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大学・研究所にある論文を検索できる 「がん治療用ウイルスG47Δを用いた肝細胞癌・膵癌の新治療法の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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がん治療用ウイルスG47Δを用いた肝細胞癌・膵癌の新治療法の開発

山田, 友春 東京大学 DOI:10.15083/0002002381

2021.10.13

概要

[序文]
 肝細胞癌、膵癌は難治癌であり、特に進行癌においては予後が 12 カ月を下回り、新規治療方法が強く求められている。がん治療用ウイルスは、ウイルスに遺伝子改変を行い、腫瘍特異的に感染、増殖し、腫瘍細胞のみを破壊する新規治療薬である。欧米では 2015 年に「再発切除不能の悪性黒色腫」に対し遺伝子改変単純ヘルペスウイルス 1 型である T-VEC(Talimogene laherparevec)が認可され、現在も多くの癌腫に対し様々ながん治療用ウイルスの開発が進められている。当研究室では単純ヘルペスウイルス 1 型の遺伝子を 3 カ所改変した G47Δ を使用しており、膠芽腫、前立腺癌、嗅神経芽細胞腫、悪性中皮腫に対する臨床試験が行われている。 G47Δ は腫瘍特異的に癌細胞を破壊することに加え、抗腫瘍免疫を増強する効果を有する特徴があり、免疫チェックポイント阻害剤との併用療法なども期待されている。
 本研究では肝細胞癌および膵癌に対する G47Δ の有効性について実験し、さらには肝細胞癌の標準療法であるラジオ波焼灼術(RFA: radiofrequency ablation)との併用療法について実験を行った。

[方法]
 アフリカミドリザル腎細胞株 Vero、ヒト肝細胞癌細胞株 Hep3B、SNU-398、HuH-7、 HepG2、PLC/PRF/5、C57L マウス肝細胞癌細胞株 Hepa1-6、ヒト膵癌細胞株 Panc1、Capan-1、 Capan-2、BxPC-3、BxPC-3-Red-Fluc を使用した。In vitro 実験として cytotoxicity assay で殺細胞効果を評価し、X-gal 染色と replication assay で腫瘍細胞に対する感染性、増殖力について評価を行った。In vivo 実験として、ヌードマウス(BALB/c nu/nu)に HepG2、Hep3B ならびに Panc-1、BxPC-3 を使用し、皮下腫瘍に対する G47Δ(2.0×106 pfu/20μL)の抗腫瘍効果を評価した。同所モデルの実験としてヌードマウスに Hep3B ならびに BxPC-3-Red-Fluc を使用し肝細胞癌あるいは膵癌を作成し、また C57BL/6JJ マウスに Hepa1-6 を使用し肝細胞癌を作成した。G47Δ(2.0×106 pfu/20μL)を腫瘍に単回局所投与し、全生存率を観察した。BxPC-3-Red-Fluc に関しては in vivo bioluminescence imaging を使用して腫瘍量の評価を行った(IVIS 評価)。その他、 Hep3B と BxPC-3 で作成した同所モデルに対し、G47Δ 投与後 3 日目に抗 HSV-1 抗体で免疫組織染色を行い、ウイルスの感染性を評価した。
 マウス神経芽細胞腫株 Neuro2a(5×106 cells/70μL)を使用し、RFA と G47Δ の併用療法実験を行った。Neuro2a と同系である A/J マウスに両側皮下腫瘍を形成し、左側腫瘍のみに G47Δ を 6、8、10 日目に計 3 回腫瘍内投与した。その後 12 日目に RFA で腫瘍を完全焼灼し、対側腫瘍の腫瘍体積を評価した。治療は「mock + sham-RFA」「mock + RFA」「G47Δ + sham-RFA」「G47Δ+ RFA」の 4 群を比較し、治療の相加効果、相乗効果は fractional tumor volume (FTV)を使用して評価した。対側腫瘍の腫瘍浸潤リンパ球を評価するために、フローサイトメトリーで腫瘍浸潤リンパ球の種類、活性度を調べた。特に CD8+ T 細胞に関しては、対側腫瘍の免疫染色を行い、さらに CD8+ T 細胞を depletion することで抗腫瘍免疫における働きを評価した。全身の変化を調べるために、RFA 後 1、3、7 日後にマウスの血清を採取し、IFN-γ、IL-12、IL-6 の値を計測した。腫瘍再発モデルとして、片側皮下腫瘍に G47Δ と RFA で治療を行い、RFA 治療と同じタイミングで対側に Neuro2a(1×106 cells/70μL)を接種し、腫瘍体積を計測した。腫瘍体積が 50mm3 を超えたタイミングを生着と定義し、生着率を評価した。腫瘍特異的な抗腫瘍免疫を評価するために ELISpot assay を行い、リンパ球からの Neuro2a 特異的な IFN-γ 放出を観察し た。A/J マウスに片側皮下腫瘍を形成し、G47Δ と RFA で治療し、2 週間後の 26 日目にマウスの脾臓を回収した。Neuro2a と A/J マウスの線維肉腫由来の SaI/N を対照として実験を行った。最後に抗 PD-L1 抗体の上乗せ効果を評価した。両側皮下腫瘍モデルにおいて G47Δ と RFA で治療を行い、6、9、12、15 日目に抗 PD-L1 抗体 50μg/body を腹腔内に投与した。これらの連続変数の 2 群間比較には student t 検定を行い、生存率、生着率の 2 群間比較には log-rank 検定を使用した。

[結果]
 いずれの肝細胞癌細胞株および Panc1 と BxPC-3 の膵癌細胞株において良好な殺細胞効果を認め、X-gal 染色評価では、G47Δ は全ての肝細胞癌細胞に感染し、膵癌細胞株においてはPanc-1、BxPC-3、Capan-2 では MOI 3 で明らかな染色陽性細胞を認めた。Replication assay では Capan-1 以外の細胞で 1well 当たりのウイルス量の増加を認め、G47Δ は多くの肝細胞癌・膵癌細胞株に有用であることがわかった。皮下腫瘍モデルでは、HepG2、Hep3B、Panc-1、BxPC-3のいずれの 4 細胞株においても G47Δ は有意に腫瘍増大を抑制し、Hep3B と BxPC-3-Red-Flucの同所モデルでは G47Δ 投与で有意に予後が延長した。抗 HSV-1 抗体染色では、Hep3B と BxPC-3 の両腫瘍において、ウイルスの感染を確認した。
 免疫原性の低い Neuro2a を使用した RFA と G47Δ の併用療法実験では、G47Δ + RFA 併用療法群は 24 日目において、G47Δ 単独治療群と比較し有意な腫瘍増大抑制効果を認め、18 日目の FTV 評価において、併用療法は相乗効果をもたらしていることが分かった。フローサイトメトリーで腫瘍浸潤リンパ球を解析したところ、併用治療群は単独治療群と比較し、有意に CD45+細胞中の CD8+T 細胞の割合が増加しており、CD8+ T 細胞の depletion 実験では併用療法による対側腫瘍の腫瘍増大抑制効果は完全に消失した。血清サイトカイン測定では、RFA 術後 7 日目において、併用療法群は RFA 単独治療群、G47Δ 単独治療群と比較し、有意に IFN-γ の増加を認めた。腫瘍 rechallenge 実験では、RFA 単独治療群では 8 匹中全例 8 匹に皮下腫瘍形成を認めたのに対し、併用療法群では 7 匹中 4 匹に腫瘍生着を認め、rechallenge 後の腫瘍生着率は有意に併用療法群の方が低かった。ELISpot assay では併用療法群は RFA 単独治療群と比較し、有意に IFN-γ の spot 数が増加し、陰性対照の SaI/N はいずれの群においても上昇を認めなかった。両側皮下腫瘍モデルにおいて、抗 PD-L1 抗体単独治療群は有意な腫瘍増大抑制効果を認めなかったが、G47Δ + RFA + 抗 PD-L1 抗体治療群では G47Δ + RFA 治療群と比較し有意に対側腫瘍の増大抑制を認めた。

[考察]
 cytotoxicity assay、replication assay、X-gal 染色評価より、G47Δ は幅広いヒト肝細胞癌・膵癌細胞株において感染し、増殖した上で癌細胞を破壊する可能性が高いと考えられた。
 In vivo 実験においては皮下腫瘍治療実験で腫瘍増殖を有意に抑制し、同所モデルにおいても G47Δ 投与により有意な予後延長を認め、実臨床においても肝細胞癌・膵癌に有効である可能性が高いと考えられた。Neuro2a を使用した両側皮下腫瘍モデルでは、RFA 治療に G47Δ 治療を加えることで対側腫瘍の有意な増大抑制を認めた。対側腫瘍内の腫瘍浸潤リンパ球のフローサイトメトリー解析で、CD8+ T 細胞の有意な増加を認め、depletion 実験により対側腫瘍の増大抑制が消失することから、CD8+ T 細胞が抗腫瘍免疫に大きく関わっていると考えられた。RFA治療では癌抗原が曝露されることが知られており、ウイルス療法ではウイルスを投与することで樹状細胞が活性化されることが報告されている。G47Δ により活性化した樹状細胞が、RFAでより曝露された癌抗原を認識し、クロスプレゼンテーションの増加を通じて抗腫瘍免疫が増強した可能性が考えられた。また、RFA 治療の前に G47Δ を投与することで、腫瘍特異的な抗腫瘍免疫を惹起し、腫瘍再発を抑止できる可能性があると考えられた。免疫チェックポイント阻害剤は CD8+ T 細胞の浸潤、腫瘍細胞の PD-L1 発現の割合などが奏効性と関連すると言われており、G47Δ+RFA 治療で対側腫瘍に CD8+ T 細胞がより浸潤することが、免疫チェックポイント阻害剤の奏効性を改善した可能性が考えられた。
 以上これらの結果から、肝細胞癌および膵癌においても G47Δ は有効な治療選択枝になり得ると考えられ、早期の臨床応用が望まれる。肝細胞癌においては RFA と併用治療を行うことで未治療腫瘍の増大を抑制したり、腫瘍再発を抑制したりする可能性があることが示された。さらには免疫チェックポイント阻害剤の治療効果をさらに高める可能性も明らかになり、単剤のみならず、併用療法という点でもがん治療用ウイルス G47Δ は期待される治療方法と考えられる。

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