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大学・研究所にある論文を検索できる 「がん治療用ウイルスの胆道癌治療への応用と新規機能付加型HSV-1の開発」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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がん治療用ウイルスの胆道癌治療への応用と新規機能付加型HSV-1の開発

立野, 陽子 東京大学 DOI:10.15083/0002002328

2021.10.13

概要

固形がんに対し有望な新規治療法であるウイルス療法を、難治癌の一つである胆道癌に適応することを目標とし本研究を行なった。加えてウイルス療法をより効果の高いものとするため、免疫を賦活する因子を発現する新規ウイルス(T-x)を作製しその効果を検討した。

 本邦における胆嚢・胆管癌の年間罹患数は2万人超と癌罹患数の2-3%であり、その死亡数は年間約1.8万人と膵癌に次いで第6位である。症状に乏しく早期発見が困難なため、唯一の根治療法である外科切除の適応とならない症例も多く5年相対生存率は約25%と膵癌に次いで低い水準にある。切除不能、再発症例に対する唯一の標準療法はGEM+CDDPであるが奏効率は25%程度に留まる。分子標的薬の有効性も確立しておらず、新たな治療戦略が渇望されている。
 がん治療用ウイルスとは腫瘍特異的に複製するよう遺伝子改変したもので、ウイルス療法はその直接的な殺細胞効果と全身的な抗腫瘍免疫の惹起によりがんの治療効果を得るものである。2015年にがん治療用HSV-1ウイルスの一つであるT-VEC(IMLYGIC®)が先進国で初めて実用化されるに至り、ウイルス療法は目下注目の新しいがん治療法となった。
 指導教員の藤堂らによって開発されたがん治療用HSV-1であるG47Δは、野生型のHSV-1から神経毒性に関与するγ34.5遺伝子とウイルスDNA合成に必要なICP6遺伝子を欠失させたがん治療用ウイルスG207に宿主細胞のMHC class Ⅰの発現を抑えるタンパクをコードするα47遺伝子の欠失を加えたもので、非臨床試験ではG207よりも格段に高い抗腫瘍効果を示した。G47Δは膠芽腫と前立腺癌に対する第Ⅰ相臨床試験を終了し、人体での安全性が確認されている。現在は膠芽腫を対象とした第Ⅱ相試験にてヒトでの有効性を検証中である。
 さらに当教室ではG47Δを土台にT-BACシステムを用いて治療補助的な任意の外来遺伝子を搭載する、機能発現型ウイルスの開発も行っている。T-BACシステムとは藤堂らによって開発された、G47Δの特定の部位に任意の外来遺伝子を挿入する手法である。G47Δゲノムを丸ごとBAC(bacterial artificial chromosome)プラスミドにして、大腸菌内でCre/loxP組換え系を利用して部位特異的に外来遺伝子を挿入し、Flp-FRT部位特異的組換えでBAC配列を除去するというものである。これは従来の相同組換えによる方法に比べ、容易かつ的確に短期間でのウイルス改変を可能とした。HSV-1は15kb程度までの外来遺伝子の挿入が可能であるため、このT-BACシステムを用いれば治療補助的な因子を感染局所で発現させることができ、実際にIL-12や可溶型B7.1等をそれぞれ発現する機能付加型G47Δは動物モデルにおいて免疫系の刺激を強め、治療効果の増強を確認している。

 ウイルス療法を胆道癌に応用するにあたり、予想される問題点の一つに投与経路がある。一般にがん治療用HSV-1の投与経路は腫瘍内投与であるが、粘膜面に乳頭状に発育するものや胆管周囲に樹枝状進展し腫瘍塊として画像描出され難い症例の場合、画像ガイド下での穿刺を必要とする腫瘍内投与は困難である。よって本研究の前半ではG47Δの胆道癌に対する有用性に加え、腫瘍内投与以外の投与方法について検討した。
 胆道癌細胞株を用いたin vitroの実験では、細胞株毎に感受性の差はあるものの全ての細胞株でG47Δの感染性、ウイルス複製能を確認し、用量依存的な殺細胞効果を認めた。ヌードマウスを用いた皮下腫瘍実験でも用量依存的な腫瘍増殖抑制効果を認め、G47Δの腫瘍内投与による有効性が胆道癌に対しても示された。
 胆道上皮に発生する腫瘍への最も安易なアプローチとして、ドレナージチューブを介した胆道内投与が挙げられる。しかし本研究の結果G47Δはウシ胆汁との共培養によって速やかに失活することが確認され、胆道内投与はG47Δの好ましい投与経路ではないと考えられた。
 次に肝内胆管癌細胞株を開腹下で肝被膜下に移植し、肝同所モデルを作製した。このモデルでは点状の微細病変しか形成されず一般的な原発腫瘍の形態とは異なるものの、傍胆管微小浸潤による断端再発の予防を目的に肝離断面のグリソン周囲へ注入する事を想定して、微細病変近傍の肝実質投与による治療実験を行った。このモデルに対する治療はしかしながら、治療群の7匹中2匹で長期生存を認めたものの、残り5匹の生存曲線は非治療群と完全に一致し、統計学的にも有意な延命効果を得られなかった。
 ヌードマウスに作製した腹膜播種モデルに対するG47Δの腹腔内投与は、早期治療、複数回投与(用量増加)が有意に延命と腫瘍増殖抑制効果を示した。成人の60%以上がHSV-1抗体陽性とされるが、HSV-1の活動は抗体では完全に中和されない。ヒトの腹水にはHSV-1抗体が存在すると考えられ、免疫不全ヌードマウスで得られた結果がそのままヒトでは反映されない可能性があるものの、腹腔内投与は先行研究でも有効性を期待できるデータが示されており、有望な投与方法であると考える。

 新規機能付加型HSV-1の開発では、免疫を賦活する承認薬xのアミノ酸配列情報をもとにcDNA配列への変換を行い、それを発現するG47ΔをT-BACシステムを用いて作製した。本研究で作製したウイルスは、in vitroにおいてコントロールウイルスであるT-01とほぼ同等の殺細胞性、感染性を示すことが確認された。この新規ウイルスT-xは約2kbの外来遺伝子を搭載しているが、複製能においてもT-01と有意差を認めず同等であった。同様にin vivoにおけるウイルスの動態をマウス皮下腫瘍にて確認したところ、T-xはT-01とほぼ同等の複製能力を示し、xと同様の物質である予定のx’の発現も確認された。
 免疫正常マウスにて同系両側皮下腫瘍モデルを作製し、治療局所と遠隔病巣に対するT-xの治療効果をT-01と比較した。ウイルス投与側はT-01、T-xともにMock群と比較し有意に腫瘍増大を抑制したが、T-01、T-xの治療効果は同等であった。非治療側では、T-x投与群はT-01治療群と比較し抑制的な傾向が見られたものの統計学的有意差は認められなかった。
 ウイルス療法とxの併用に関する先行研究では生存の延長や腫瘍抑制的な傾向にあるが、本研究ではx’発現による上乗せ効果は得られなかった。その理由としてウイルスの発現したx’の作用時間と量が充分ではない可能性が考えられた。高発現株の使用やウイルスの反復投与は今後検討に値する。

 本研究では胆道癌に対するG47Δの有効性をin vitroとin vivoで示し、更に有望な投与経路として腹腔内投与を確認した。胆道内投与は何らかの工夫が必要であることが示され、腫瘍細胞近傍への肝実質内投与は場合により有効だが確実性に乏しいと考えられた。
 今回作製した免疫賦活が期待される因子x’を発現する新規機能付加型G47Δは、in vitro、in vivoともにコントロールウイルスであるT-01と同等の効果を確認したが、x’発現による有意な抗腫瘍効果の増強は確認できなかった。高発現株での再検や免疫学的な追加検討を行い、効果的な投与方法などを更に検討していく。

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