リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「可溶性ALK1発現型HSV-1のヒト腎細胞癌における治療効果の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

可溶性ALK1発現型HSV-1のヒト腎細胞癌における治療効果の検討

内藤, 晶裕 東京大学 DOI:10.15083/0002005122

2022.06.22

概要

【序論】
 近代の遺伝子解析や遺伝子組換え技術などの医療における様々な技術進歩により、遺伝子操作によって、ウイルスの毒性を抑制しつつ、がん細胞への殺細胞効果を維持できるようにウイルスを改変することが技術的に可能となった。ウイルス療法は注目されているがんの新規治療法であり、中でも単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)はがん治療に適した特徴を多く備えている。特に、2001年に藤堂らにより開発された第三世代のがん治療用HSV-1であるG47Δは、三重変異により高い安全性と高い抗腫瘍効果を同時に実現した。当研究室では、G47∆を使用して、膠芽腫に対する第I-IIa相試験と医師主導治験(第II相)、去勢抵抗性前立腺癌、嗅神経芽細胞腫、悪性胸膜中皮腫に対する第I相試験を行ってきた。腎細胞癌は、放射線および殺細胞性抗がん剤への感受性が低く、手術が唯一根治を期待できる治療選択肢であるが、高齢や合併症などの手術不耐例には、ウイルス療法のように安全性が高く侵襲性の低い治療の需要は今後高まると考えられている。当研究室でも、腎細胞癌に対してG47Δと同じウイルス遺伝子に三重変異を持つT-01でin vitroでの殺細胞作用とin vivoでの抗腫瘍効果を報告してきた。腎細胞癌は他の悪性腫瘍と比較して血管新生が豊富な悪性腫瘍であり、転移を有する症例に対する既存の治療薬は、血管新生抑制を機序とするものが多く、各種のVEGFをターゲットにした分子標的治療薬が治療の主軸を担ってきた。研究室では、近年注目されつつあるbone morphogenetic protein 9(BMP9)のシグナル伝達を阻害するactivin receptor-like kinase 1(ALK1)を可溶性にしたALK1-Fcを発現するがん治療用HSV-1(T-ALK1)を作製した。一般的な分子標的治療薬は、各種の副作用を伴うものが多く、全身投与における副作用の対応が臨床応用の際に重要になっているが、T-ALK1を用いることで、ALK1-Fcの産生と蓄積が腫瘍内局所に留まって全身性の副作用を回避でき、一方で抗血管新生を介した更なる抗腫瘍効果が得られることが期待される。本研究では、ヒト腎癌細胞株を用いて、コントロールウイルスのT-01と比較して、T-ALK1がより強力な抗腫瘍効果を呈することが可能かをin vitro、in vivoで検討する。また同系マウス腎癌同所モデルを用いてG47∆の有用性を検討する。

【方法】
 T-ALK1は、G47Δの基本骨格に、ALK1とヒトIgGFcの融合遺伝子を組み込んで研究室で作製された。空の発現カセットを組み込んでALK1-Fcを発現しない対照ウイルスT-01、およびmockと比較した。T-ALK1の発現タンパクであるALK1-Fcの機能確認を行う。また、in vitroにおける殺細胞効果を評価するため、ヒト腎癌細胞株6種類を使用した。In vivoにおいては、BALB/cマウスと同系のRenCa細胞株を用いたマウス腎癌同所モデルの安全な作製手順を確立し、腫瘍にG47Δを直接投与した。また、ヌードマウス(BALB/cnu/nu)を用いたヒト腎癌細胞株3種の皮下腫瘍モデルに対してはT-ALK1の腫瘍内投与を行い、腫瘍体積を経時的に観察し、抗腫瘍効果および、各種の評価を行なった。

【結果】
 In vitroでは、ヒト腎癌細胞株6種類(A498、786-O、OS-RC-2、Caki-1、Caki-2、VMRC-RCW)で検討したところ、T-ALK1がT-01と同等かそれ以上の殺細胞効果をもつことが確認され、MOI(multiplicity of infection)0.1では、感染から3日目または4日目には、殆どの細胞が死滅した。また、皮下腫瘍実験に使用した3種類のヒト腎癌細胞株(A498、786-O、OS-RC-2)におけるウイルス複製能に関しては、いずれもT-01と比較して同等であることが確認できた。
 In vivoでは、今後の臨床応用を想定して、同系マウス腎癌同所モデルにおいて、G47∆を用いたウイルス療法が有効であるかを検討した。その結果、mock群で22日目に初死亡例を確認以後、38日以内までにmock群は全て死亡した。一方で、G47Δ投与群は、31日目に初死亡例が確認され、以降も死亡例が続いたものの、平均生存期間(腫瘍作製からの生存日数)は、mock群が32.3日であったのに対し、G47Δ投与群は39日で、2匹が最長45日間生存した。G47Δ投与群はmock群に比べ有意に生存期間が延長した(Log-rank test P<0.01)。マウス腎癌の同所モデルにおけるG47∆腫瘍内投与による、生存期間の延長が初めて示された。
 皮下腫瘍実験においては、まずA498、786-Oをヌードマウスに移植し、T-01の腫瘍内投与を行い、用量依存的に抗腫瘍効果を示せた。この結果を基に用量を決め、A498、786-O、OS-RC-2の3種類の皮下腫瘍モデルで、T-ALK1のin vivoの抗腫瘍効果を検討した。A498およびOS-RC-2の皮下腫瘍モデルでは、T-ALK1群がT-01群に比べ有意に高い抗腫瘍効果を示した。また、後者モデルでは、T-ALK1群はT-01群に比べ有意に生存期間が延長した(Log-rank test P<0.05)。786-Oの皮下腫瘍モデルでは、T-01群は抗腫瘍効果を示さなかったが、T-ALK1群はmock群に対して有意な抗腫瘍効果を示した。血管内皮細胞を染色する抗マウスCD31抗体でOS-RC-2皮下腫瘍の免疫組織化学染色を行ったところ、CD31抗体の陽性率が、T-01群とmock群に比較して、T-ALK1群で減少していることが確認され、血管新生が抑制されていた可能性を示した。

【まとめ】
 これまで、ウイルス療法による腎細胞癌を含む各種悪性腫瘍の抗腫瘍効果の報告を行なってきたが、今回は、腎癌同所モデルにおいてもその有効性を示すことが出来た。また、腎細胞癌に特徴的な血管新生に注目し、局所での血管新生を阻害する機能を付加することで、ウイルスによる直接的殺細胞に加えた抗腫瘍効果の増強を試みた。その結果、可溶性ALK1発現型がん治療用ウイルスは、ヒト腎細胞癌を用いたマウス腫瘍モデルにおいて、対照ウイルスに比べ強力な抗腫瘍効果を示した。血管新生が豊富な腎細胞癌に対して、T-ALK1はウイルスの直接的な細胞破壊だけでなく、腫瘍内の血管新生抑制による効果増強が示唆された。T-ALK1は、特に腎細胞癌に有用ながん治療用HSV-1であり、臨床応用が期待される。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る