リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「0価パラジウム触媒を用いた共役エンイン-カルボニル化合物の新規環化反応」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

0価パラジウム触媒を用いた共役エンイン-カルボニル化合物の新規環化反応

伊藤 和也 東北大学

2020.03.25

概要

遷移金属触媒を用いたアルキン-カルボニル化合物の付加・環化反応は比較的入手容易な鎖状の化合物から、複雑な環状構造を有するアリルアルコールを効率的に合成することができる。また、用いる有機金属試薬の種類を変えることで様々な置換基を効率的に導入することができるため、多様性指向型有機合成の観点から有用である。当研究室の塚本はこれまでにアルキン-カルボニル化合物 1 に対し、メタノール溶媒中で有機金属試薬、0 価パラジウム触媒を作用させると、アルキンに対し有機金属試薬とカルボニル基がトランス選択的に付加・環化することを見出している。本反応ではエキソオレフィンを有する環化成績体 2 とエンドオレフィンを有する環化成績体 3 の二種類が生成し得る。これまでの知見により、アルキン末端炭素上の置換基 R1 とホスフィン配位子の組み合わせが、この二種類の環化体の生成比に大きな影響を与えることがわかっていた(Scheme 1)。

本論文第二章では、共役エンイン-カルボニル化合物を用いたアンチ Wacker 型環化反応における、アルケニル基の置換基効果およびホスフィン配位子の効果について検討した結果について述べている。アルケニル基をアルキン末端炭素上に導入した基質 1(R1=アルケニル基)においてアンチ Wacker 型環化反応を行い、用いる配位子による生成物 2 および 3の比率の変化を調べた。その結果、トリフェニルホスフィン配位子を用いて反応を行うと、エキソオレフィンを有する環化成績体 2 が選択的に得られた(Table 1、entries 1, 3, 5, 7)。一方、トリシクロヘキシルホスフィン配位子を用いると、嵩低いアルケニル基では環化成績体 2 が、嵩高いアルケニル基ではエンドオレフィンを有する環化成績体 3 がそれぞれ得られた(entries 2, 4 vs. 6, 8)。アルケニル基は配向基、および活性基として働いた。トリシクロヘキシルホスフィン配位子を用いた場合には、嵩高いアルケニル基へのパラジウム触媒の配位が困難になり、配向基としての効果を電子求引性基としての効果が上回ったと考えられる。

また、アンチ Wacker 型環化反応を用いた新規 3-ヒドロキシピリジンの合成法の開発、および天然物である seco-antofine の全合成を行うことで、アンチ Wacker 型環化反応の有用性を示した(Figure 1)。

第三章ではプロ求核剤を用いたアンチ Wacker 型環化反応によるアレン合成法の開発を行った結果を述べている。アルキン末端炭素がイソプロペニル基で置換された共役エンイン基質 4 に対し、有機ホウ素試薬を用いたアンチ Wacker 型環化反応を行うと、シス付加体の副生が観測され、エキソアルキリデン-π-アリルパラジウム中間体 5 の存在が示唆された(Scheme 2)。そこで、本中間体に対し、プロ求核剤を作用させることでアレンが得られると考えた。

共役エンイン 4 に対し、非金属性求核剤存在下反応を行うと、環化が進行しエキソアレンを有する環化成績体 6 が選択的に得られた。プロ求核剤として、アルコール、活性メチレンおよびメチン化合物、アミン、スルホンアミドの導入が可能であった。ジアステレオ選択性は中程度であったが、配位子としてトリフェニルホスフィンと H8-BINAP を組み合わせて用いることで、反応性とジアステレオ選択性がともに向上した。ジアステレオ選択性は配位子の配位挟角の大きさに依存し、H8-BINAP を用いたときに最も高いことがわかった。

第四章では、キラルアミン触媒を用いた共役エンイン-エナール基質 7 のエナンチオ選択的なアンチWacker 型環化反応について述べている(Scheme 3)。当研究室では、アルキン-α,β-不飽和カルボニル化合物に対して Table 1 と同様の反応条件に付すと、パラダサイクルを経たシス付加体 8 が得られることを報告している。第二章で得られた共役エンイン基質に関する知見をもとに、アルキン末端炭素上にアルケニル基を導入した基質 7 を用い検討を行った。THF 溶媒中で反応を行うとシス付加体 8 が選択的に得られた。一方、メタノール溶媒中ではトランス付加体 9 が優先して得られた。アルケニル基の配向基としての効果、およびメタノールの水素結合による求電子部位の活性化の二つの効果により、アンチ Wacker 型環化反応が進行したものと考えられる。

水素結合の代わりに、キラルアミン触媒の添加によりイミニウムイオン 10 を形成させることで、エナンチオ選択性の発現を試みた。トルエンのような非極性溶媒中、林・Jørgensen触媒とブレンステッド酸触媒としてカテコールまたは 2,6-ジメチルフェノールなどのオルト置換フェノールの組み合わせを用いることで、トランス付加体 9 が高いエナンチオ選択性で得られた(Scheme 3)。また、アルキンの末端炭素上に水素、メチル基、アリール基が置換したアルキン-エナール基質においても、同一条件で反応を行うことで、シス付加体 8 がエナンチオ選択的に得られたが、その選択性はトランス付加体に比べて若干低下した。

第五章では、第三章で得られたエキソアルキリデン-π-アリルパラジウムとプロ求核剤の反応に関する知見をもとに、アレニルアルコール 11 の直接的カップリング反応を開発した経緯を述べている(Scheme 5)。従来アレノールを原料とし、パラジウム触媒存在下、エキソアルキリデン-π-アリルパラジウム中間体を経て求核置換反応を行うためには、水酸基をリン酸エステル等に事前に変換し、その脱離能を向上させる必要があった。今回開発したメタノール溶媒を用いた反応条件では、メタノール溶媒の水素結合による活性化により水酸基が直接脱離基として働き、置換生成物を与えるためステップエコノミーに優れ、副生成物として水のみを生成する。本反応では、ケトンを含む活性メチレン化合物を求核剤として用いると、一挙にジヒドロフラン 13 への変換も可能である。ジヒドロフランをアレノールから直接合成する方法はこれまで報告例がなく、ジヒドロフランを含む生物活性物質の合成への展開が期待される。