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大学・研究所にある論文を検索できる 「生体分解性亜鉛マグネシウム合金の開発及び、尿路手術での使用の検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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生体分解性亜鉛マグネシウム合金の開発及び、尿路手術での使用の検討

Okamura, Yasuyoshi 神戸大学

2020.03.25

概要

【背景】
 現在、外科手術用クリップ、ステント、ステープルなどの金属性医療機器は、泌尿器科手術で広く使用されている。腹腔鏡手術およびロボット支援手術は、近年ますます普及しており、金属製医療機器より、これらの手術を容易に、安全に行うことが可能となる。しかし、これらの金属製医療機器は通常、非生体吸収性金属であり、術後も体内に永続的に残存する。それにより、感染症、炎症、迷入、CTのアーチファクトなどの合併症が生じる可能性がある。特に尿路では、結石の形成、難治性の感染症、結石との誤診などの合併症が挙げられる。これらの合併症に対処するために近年、様々な生体吸収性金属の研究が行われている。
 近年の研究で、亜鉛(Zn)のinvitr〇およびinvivoでの分解挙動、機械的特性、生体適合性の報告がなされていもしかし、尿路における亜鉛または亜鉛合金の生体分解性に関しては現在のところ報告されていない。
 マグネシウム(Mg)も、生体吸収性医療機器の候補として報告があり、亜鉛への添加は、理論的に亜鉛の破壊朗性、生体吸収性を向上させることができると考えられた。
そこで我々は、さまざまな比率のMgを含む亜鉛合金の強度、形状保持、成形性を検討し、亜鉛および亜鉛合金ワイヤーを使用してリングを作成し、これらのリングをラット膀胱に埋め込み、尿路での生体吸収性の評価をおこなった。

【方法】
 Zn、Zn-0.08Mg、Zn-0.12Mg、Zn-1.8Mgの4種類の亜鉛合金のワイヤーを作成し、X線回折分析にて合金の相同定を行い、INSTR0Nユニバーサルテスターを用いた引張試験にて機械的特性を測定した。
 この研究は、動物実験委員会によって承認され(承認番号:A180203).神戸大学動物実験規則に従って実施された。10週齢のオスWistarラット(n=40、SLC、日本)を使用しラットはランダムに10匹ずつ、4つの群に分け、それぞれZn、Zn-0.08Mg、Zn-0.12Mg、Zn-1.8Mgリングを埋植した。各群で5匹ごとに観察期間を術後4週間、8週間とした。
 抗生物質、鎮痛薬の前投与後、イソフルランの吸入麻酔下に、ラットの腹部を洗浄、剃毛、消毒し、滅菌ドレープで被覆し、1.5〜2cmの腹部縦切開で膀胱を露出さた。膀胱の頂部で切開し、それぞれリングを膀胱に埋植した。吸収性縫合糸(7-0PDS)で膀胱を縫合、腹腔を生理食塩水で洗浄し、閉腹した。
 ラットは、観察期間終了時に安楽死させ、膀胱とリングを摘出した。各リングの体積は、マイクロフォーカス口により、移植前と摘出後に測定を行った。膀胱組織はホルマリンで固定後、パラフィン包埋し、3/zmにスライスし、ヘマトキシリンエオジン染色後、顕微鏡下に観察を行った。
 結果は平均値と標準偏差として示した。一元配置分散分析とt検定を使用して、各群の平均の差を評価した。

【結果】
 引張試験により、工学的応力とひずみの関係を測定した。亜鉛合金ワイヤーの強度は、延性を損なうことなく、Mgの添加{こより4倍以上に向上した。
 すべてのラットで、手術時間は30分以下であり、観察期間中の死亡や合併症は認めなかった。安楽死後の剖検では肉眼的所見上、腹腔内に異常は観察されなかった。ラットの80%でリングに
結石結石の被覆を認め、すべての結石の成分はリン酸マグネシウムアンモニウムであった。
 摘除された膀胱のヘマトキシリンエオジン染色ではすべての群で浮腫性粘膜下組織、炎症細胞の浸潤を認め、粘膜は層状の円柱上皮に覆われ、腺性膀胱炎を示唆する所見であった。
 各リングの体積は、マイクロフォーカスCTによって評価され、Zn-0.12Mg群(4週:〇.85%.8週:2.08%、P=0.05)およびZn-1.8Mg群(4週で1.60%、8週間で2.60%、P=0.08)で経時的な体積減少を認めた。術後8週間後のZn、Zn-O.08Mg、Zn-0.12Mg、Zn-1.8Mgのリングの体積減少は、それぞれ0.64%、0.58%、2.07%、2.66%であった(Pく0.01)。生体吸収性は、各リングのMg含有量に依存し、Mg含有量の増加と体積減少の増加との間に統計的に有意な関係を認めた。

【考察】
 腹腔鏡手術やロボット手術などの低侵襲手術の普及に伴い、クリップやステープルなどが幅広く使用されているが、これらの非吸収性金属の残存による合併症は少なくない。近年、これらの合併症に対処するために生体吸収性金属材料の研究が行われている。
 特に泌尿器科手術では、膀胱癌の根治的膀胱切除後の腸管利用の新膀胱などの尿路再建において、生体吸収性の金属ラステープルの使用が非常に有用と考えられる。1990年代以来、尿路再建へのステーブルの使用の報告が散見される。しかし、結石の形成の合併症が報告されており、結石形成率は6%と報告されている。吸収性のステープルの報告もあるが、新膀胱での膀胱機能の観点から普及には至らなかった。以前の吸収性ステープルはポリエステル製であり、金属性に比べて大きいことから、虚血や炎症反応によ!)膀胱機能に影響を与えたと考えられる。よって我々は生体吸収性金属の使用が有用であると考えた。
 亜鉛とマグネシウムは、生体に必須な元素であり、生体への安全性も現在までに報告されている。実睡床で使用する場合、尿路変更は小腸を利用することが多ぐ亜鉛、マグネシウムとも小腸から吸収されるが、デバイスの体積、吸収速度から、安全と考えられる。本研究では観察期間中のラットへの重大な合併症、組織学的に明らかな細胞毒性は認められなかった。
亜鉛へのマグネシウムの添加により、破壊靭性、生体吸収性の向上が認められ、Zn-0.12MgおよびZn-1.8Mg群では、体積減少率はマグネシウム濃度に依存し吸収性が向上した。しかし、亜鉛-0.08Mg群のMg添加の影饗を認めなかった。亜鉛および亜鉛合金のX線回折による検査により、Mg2Znuが形成されたことが認められ、分解速度の加速は電気化学反応の発生によるものと推測された。本研究のラット膀胱における亜鉛合金の体積減少速度は、マウス動脈に移植された亜鉛ステントの報告よりも遅く、結石の形成によるものと考えられた。結石形成はラットの尿の性質、またラットに対するリングの体積が影饗していると考えられ、人体での臨床使用においては結石の影響は軽微となり、吸収速度も向上すると考えられた。
 優れた生体吸収性と安全性、以前の研究の結果から、マグネシウムを添加の材料として選択した。しかし、本研究で認めた結石はすべてリン酸マグネシウムアンモニウムであったため、尿へのマグネシウムイオンの溶解が結石形成を引き起こした可能性があると考えられた。また、純マグネシウムでの埋植実験も行ったが、より巨大なリン酸マグネシウムアンモニウム結石の形成を認め、我々は、純マグネシウムもしくは、それを多く含む金属合金は尿路での使用には適さないと考えた。
 本研究は正常なラットの膀胱への合金の埋植であり、損傷を受けた組織での使用の安全性、組織への影響は明らかではない。また、観察期間は比較的短く、リングの完全な溶解と亜鉛合金の長期毒性を評価できておらず、より長期の観察が必要と考えられる。結石の形成はラットの尿やリングの大きさの影響と考えられ、分解速度や、膀胱組織の炎症も結石による影響を受けていると考えられる。人体での結石の形成率はラットより大幅に低く、本実験の結石形成は臨床応用に向けての障害とはならないと考えられた。したがって、疾病のある、または損傷した尿路を有する患者におけるこれらの新規亜生体吸収性金属の臨床的応用の実現には、他の動物モデルなどでの追加の研究が必要と考えられた。

【結論】
 尿路で使用するための新規生体吸収性材料として、ラット膀胱内での亜鉛合金の生体吸収性挙動を検討した。少量のMgを含む亜鉛合金は、尿路の生体吸収性医療機器として使用できる可能性がある。

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