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大学・研究所にある論文を検索できる 「大動脈基部の正常支持組織に関する生体解剖学的検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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大動脈基部の正常支持組織に関する生体解剖学的検討

Toh, Hiroyuki 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
近年、循環器内科領域においてカテーテルを用いた低侵襲的治療は目覚ましい進歩を遂げている。大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル的大動脈弁置換術は、外科的な治療介入が不可能または困難な重症大動脈弁狭窄症を有する患者の予後を飛躍的に改善させた。また、不整脈疾患の治療において、根治治療であるカテーテルアブレーションが盛んに行われるようになり、静脈を使用する順行性アプローチに加え、大動脈弁周囲を起源とする心室性不整脈などに対しては、動脈を使用する逆行性アプローチによる治療も数多く行われている。このように、大動脈弁またはその周囲の組織に対して侵襲的介入を行う上で、大動脈基部の解剖の理解が必要と考える。大動脈弁基部の正常支持組織は、筋肉層と線維層に分かれており、特に筋肉層である心筋の部位に関しては、大動脈基部の断面を頭側から見ると三日月にみえることから、解剖学的に Myocardial Crescentと呼ばれている。病理の報告から、Myocardial Crescentは主に大動脈弁の左右の冠尖を支えていることが報告されている(図1, 黄色点線部位)。生体のデータを用いた同部位の詳細な形状や分布を含めた解剖学的な評価は、これまで十分に行われていない。本研究の目的は、心臓CT画像を用いて、正常大動脈弁の支持組織の詳細な形状や分布を明らかにすることである。

【方法】
神戸大学医学部附属病院で心臓CT検査を撮影した患者のうち、正常大動脈弁を有する患者を対象とした。除外基準は、大動脈弁周囲の心筋壁厚が描出困難な患者、先天性心疾患術後の患者、弁置換術や形成術術後の患者、大動脈弁周囲に重度のアーチファクトを生じ、計測不能と判定された患者とした。

正常大動脈弁患者の心臓CT画像の多断面再構成像(MPR画像)を用いて、大動脈基部において大動脈弁を支持する心筋部分を描出し、大動脈弁の左右の冠尖を支持している心筋のそれぞれ最も厚い部位を計測した(図1)。次に、円周法を用い大動脈弁輪に対して、 Myocardial Crescentが分布する角度と左右の冠尖を支持している心筋が分布する角度を計測した(図1)。図3Aのように、大動脈弁輪を円と仮想して無冠尖と左冠尖が合わさる部分を0°として設定した。大動脈弁の中心を軸とし大動脈弁輪に対して垂直のCT断面像を0°から反時計回りに回転させ、左右の冠尖を支える心筋が出現する部位の始点と終点の各角度をそれぞれ測定し、主には、左冠尖を支える心筋の分布角度(図2①)、右冠尖を支える心筋の分布角度(図2②)、Myocardial Crescentの分布範囲(図2③)を算出した。図3Bのように無冠尖と左冠尖の間に設定した0°を起点として展開し、それぞれの分布角や範囲を視覚化した。最後に、大動脈弁の回転角度とMyocardial Crescentとの関係について検証した。図3のように、右線維三角の2等分線と左右の冠尖が合わさる延長線が合わさってできる角度を大動脈弁の回転角度と定義した。右線維三角の2等分線を支点として左右の冠尖の延長線が時計回りか反時計回りかで定義し、回転角度を計測した。

【結果】
2017年6月から2018年5月までに心臓CT検査を撮影した264人のうち、除外基準を満たした180人を除いた84人の患者を対象として解析を行った。大動脈弁の支持組織の厚さを測定した結果、右冠尖を支持する心筋部位は左冠尖を支持する心筋部位と比較し有意に厚かった (6.4 ± 1.2 mm vs 2.9 ± 0.8 mm, p <0.001, 図1)。また、分布角度を測定した結果、同様に右冠尖を支持する心筋部位の範囲は左冠尖を支持する心筋部位の範囲と比較し有意に大きいという結果であった (70.4 ± 13.4°vs 54.2 ± 13.0°, p <0.001, 図 2①②)。さらに、測定結果よりMyocardial Crescentの大動脈弁輪での分布の割合は 42.7% (図2③)であった。最後に、大動脈弁の回転角度とMyocardial Crescentとの関係について検証した結果、大動脈弁が時計回りに回転しているほど、左冠尖を支える心筋の範囲は、負の相関が得られ (R2=0.3899, p <0.001)、逆に右冠尖を支える心筋の範囲は正の相関が得られた (R2=0.2752, p <0.001)。つまり、大動脈弁が時計回りに回転しているほど左冠尖を支える心筋の範囲は狭くなり、右冠尖を支える心筋の範囲は広くなるということが明らかになった(図3)。

【論考】
我々の解析結果から、正常大動脈弁を支持する心筋部分は主に左右の冠尖を支持しており、左冠尖を支持している心筋は右冠尖を支持している心筋よりも薄く、図2の黄色部分で示したように特殊な形状をしていた。特に左冠尖を支持する心筋に関しては 1.5mmと非常に薄い症例も存在した。また、近年、加齢などにより大動脈が捻じれる現象が報告されているが、本研究ではその回転角度を定量化した。大動脈弁を支持する心筋部分の分布との関係を検証した結果、大動脈弁を支持する心筋の範囲は、大動脈弁が時計回りに回転するほど左冠尖を支持する心筋部位は狭くなることが明らかになった。これらの結果は、過去の病理の報告と概ね合致していた。

本研究の臨床的な意義としては、不整脈に対するカテーテルアブレーションのリスク評価に使用できる可能性がある点が挙げられる。大動脈弁冠尖を起源とした心室期外収縮のカテーテルアブレーション治療を行う際、大動脈弁の弁尖側より大動脈弁の支持組織である心筋部分を焼灼することが多く、冠尖起源の心室期外収縮の中では左冠尖起源が頻度として高いという報告がある。今回の計測結果で、左冠尖を支持する心筋部位は薄かったということから、同部位を焼灼する際には、特に心タンポナーデなどの合併症により注意を払う必要があると考える。また、心臓血管外科外科領域においては、大動脈弁自己弁温存術を行う際、大動脈基部の線維層部位は心筋部位と比較し合併症が多いという報告がある。術前にCTで大動脈基部の解剖を評価することが、術前リスク評価の有用な指標となる可能性がある。

侵襲的な手技を行う術者にとって、生体の解剖を理解することは、手技の安全性や有効性を担保する上で非常に重要である。過去には標本レベルで大動脈弁の支持組織の計測のみを行った報告はあるが、今回のように、生体のCT画像を用いて詳細に形状評価や、大動脈との位置関係に関して評価した研究は報告されていない。本研究から、大動脈弁の支持組織に関する解剖はCTで評価可能であることが示された。また、その指標は術前リスク評価に有用である可能性も示唆され、将来性のある研究につながると考える。

【結論】
心臓CT画像を用いて正常大動脈弁の支持組織のうち、特に心筋部位に関して解析を行い、 Myocardial Crescentの詳細な形状や分布などを明らかにした。今後、弁膜症や不整脈 を有する患者群を対象として追加し、年齢による支持組織の差異などに関しても検討を 行っていきたい。

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