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大学・研究所にある論文を検索できる 「母親学級を用いた乳児の傷害予防教育プログラムの開発 : 非ランダム化比較試験による効果の検証」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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母親学級を用いた乳児の傷害予防教育プログラムの開発 : 非ランダム化比較試験による効果の検証

本田, 千可子 東京大学 DOI:10.15083/0002002501

2021.10.15

概要

序文
 傷害は、子供に死や障害をもたらす主要な原因の1つであり、傷害を予防すること(傷害予防)は戦略的に取り組むべき公衆衛生上の重要な課題である。傷害には、暴力、自殺、虐待、戦争などの意図的な傷害行為と、誤飲、火傷、窒息、溺水、交通事故などの意図しない傷害に分けられている。本研究では、傷害の大部分を占め、予防可能であると考えられている意図しない傷害(以降、傷害、と表記する)の予防に焦点をあてる。
 交通事故を除く子供の傷害の最大の発生場所は家庭内であり、特に乳児の傷害は90%以上が家庭内で発生している。乳児では、家庭内の環境整備を含む適切な養育を保護者に促すことで傷害予防できる可能性が高い。保護者への教育による介入が必要である。
 乳児期早期にも、死に至る重篤な傷害や発生頻度の高い致死的傷害は発生している。日本国内では、新生児期を含む乳幼児の傷害予防について、自治体が乳幼児健康診査等の保健指導の機会を通じて保護者に注意喚起・指導することが推奨されている。現在は、3-4か月児健診以降に実施されることが主流であるため、生後直後から4か月頃までにおこる傷害の予防について保護者が知る機会がほとんどない。
 本研究では、より早期に行う保護者への教育の時期として妊娠期に着目する。また、教育提供の形式として、自治体の母親学級の場を用いた集団教育に着目した。現在、妊娠期単独の介入での傷害予防教育の効果を示す研究は乏しく、傷害予防の分野での妊婦への集団教育による介入研究はみられない。本研究は、自治体の母親学級で提供する乳児の傷害予防教育プログラムを開発し、プログラムが妊婦の意図及び知識と産後の予防行動に与える影響を評価することを目的とした。

研究全体の流れ
 プログラム評価の手法を参考に、傷害予防教育プログラムを開発しその効果を評価することとした。本研究では、ニーズ把握を【研究1】で、プログラム開発を【研究2】で、プログラムのプロセスと効果の評価を【研究3】で実施した。最後に、研究3の結果を踏まえ、プログラムの効果について考察した。

<研究1の方法と結果>
 妊娠期の母親を対象にした乳児の傷害予防教育プログラム作成のため、(1)ターゲットとする傷害及びその予防行動を選定し、(2)傷害予防行動に関する妊婦の知識と意図を把握し、プログラム開発に反映する、ことを目的に、A区母親学級・両親学級に参加した第1子の妊婦を対象に自記式質問紙による調査を実施した。国内外のガイドラインと、医師・研究者・保健師・助産師へのヒアリングを通して作成した5つの傷害と8つの予防行動に関する項目について調査の結果、回答者は132名であった。窒息予防に関する3行動については3-7割弱の者が「(その行動を)知らない」と回答し、転落・誤飲・やけど予防に関する4行動については約6割の者が「その行動をとる」と回答した。交通事故予防の1行動については、7割以上が「その行動をとる」と回答した。結果は、研究2のプログラム開発へ利用することとした。

<研究2の方法と結果>
 プログラム開発は、以下1)-3)の作成手順で行った。
1) 保健師へのヒアリングによる教育プログラムに必要な要素の収集及びロジックモデルの作成
 東京都23区の保健師をリクルートし、研究参加に同意した12区15名の保健師に、妊娠期の傷害予防教育の必要性、実現可能性、効果があると考えられる内容、についてのヒアリングを実施した。結果、3つの目的とアクティビティ内容が収集され、それらを元にロジックモデルを作成しプログラムの流れを可視化した。
2)妊婦へのヒアリングによるロジックモデルの妥当性の確認
 第1子の妊婦4名に対して、上記ロジックモデルを示しながらヒアリングを実施し、ロジックモデルの妥当性、予防行動の阻害要因、受け入れやすく役に立つと考えられるプログラムの具体的な内容や表現、について尋ねた。これらを元にロジックモデルを微修正し、台本にも反映させた。
3)検討委員会でのプログラム決定
 専門家ら13名で構成された検討委員会を設置し、ロジックモデル及びプログラム内容の妥当性を検討しながら開発をすすめた。検討会議では、①ターゲットとする傷害予防行動の適切性、②ロジックモデルの妥当性、③プログラムの内容案、④ベースライン調査の質問紙内容の妥当性の検討、⑤プログラムの実演と内容の討議、を実施し、最終的な成果物について合意を得た。
 完成したプログラムは、4つの傷害(窒息、転落、誤飲、火傷)の9項目の予防行動について知識を供与し、妊娠中に実施意図を高め産後に行動を実施できることを目的とした内容で、動画視聴・体験・実演見学を含めた18分の内容となった。

<研究3の方法と結果>
 研究2で作成した傷害予防教育プログラムを受講した妊婦は、受講していない妊婦と比べて①産後に傷害予防行動をとる、②実施意図がある傷害予防行動の数が増える、という仮説に従い、プログラムの効果を以下1)~5)の方法で検証した。
1)セッティング・対象者は、A区保健所の母親学級(毎月1コース3回制)に来場した第1子を妊娠中の妊婦とした。
2)リクルートは、母親学級1回目に来場した全員に対し、学級開始時に研究説明を行った。説明時には、全員に傷害予防に関するリーフレットを配布し、帰宅後に読んでおくよう促した。
 その後、研究参加同意者にベースライン(以後、T1)質問紙を配布し、基本属性及び副次評価項目である傷害予防行動に対する実施意図(9項目)、知識問題(30項目)について問い、当日中に質問紙を回収した。
 研究参加者は、2017年11月から2018年2月の参加者を対照群、2018年3月から6月の参加者を介入群に割付けた。
3)介入群に対して、母親学級2回目の通常の講義終了後、研究2で作成した教育プログラムを研究者が提供した。プログラム終了後に、プログラムの改善に必要な情報を得るため、満足度、目標到達度に関する質問紙調査を実施した。プログラム提供時には、A区保健師に立ち会ってもらい、実施可能性、プログラムに不足している内容等について質問紙で意見を尋ねた。
4)各研究参加者が妊娠36週のタイミングで2回目(以後、T2)の質問紙を郵送し、T1と同じ副次評価項目を測定した。
5)A区内出生児の全件に対して訪問する「赤ちゃん訪問」の時(以後、T3)に、研究参加者宅を訪問する助産師又は保健師が、主要評価項目である傷害予防行動(9項目)の実施状況を、チェックリストを用いて直接観察と構造化面接で確認した。

 研究期間中に実施された母親学級全8回の全来場者150名へリクルートし、うち131名が同意し、介入群75名、対照群56名の計131名(100%)のT1質問紙の回答を得た。介入群のうち、11名が母親学級2回目を欠席し、プログラムを受講しなかった。T2調査では、111人の回答があり、T3訪問調査では、介入群60名、対照群46名、計106人のデータを得た。
 T3で介入群が対照群に比べて有意に多く実施していた項目は、「頭周りに何も置かない」(介入群38.3%、対照群13.0%)、「ソファなどに寝かせておかない(介入群74.6%、対照群52.2%)、「抱っこ紐を正しく使用する」)(介入群93.3%、対照群76.1%)であった。実施していた予防行動の合計数は、介入群で平均5.37項目、対照群で平均4.52項目であり、介入群がより多くの項目を実施していた(p<.001)。
 T2で介入群が対照群に比べて有意に実施意図をもつ者の割合が多かった項目は「硬めの布団を使用する」「ベビーベッドのマットレスと柵の間に隙間がないようにする」「ベッドガードを使用しない」「ソファなどに寝かせておかない」「ベッド柵を上げる」)であった。
 T2で介入群が対照群に比べて知識の正解数が有意に多かったのは、「ベッド柵を上げる」以外の全ての項目だった。
 T1からT2の2時点での実施意図のある行動数および知識の正解数の平均値及び中央値の変化を確認した結果、介入・対照群ともに、T1からT2にかけて実施意図のある行動数および知識が有意に増加し(p<.001)、変化量を2群で比較したところ、介入群の方が対照群より有意に増加していた

統合考察
 結果より、出産前の妊婦に対して、傷害予防に関する知識やリスク認知に介入することにより、妊娠中に意図と知識を増加させ、産後に実施する予防行動の合計数が多くなった。
 しかし項目別に見ると、行動の実施に効果があった項目となかった項目があった。「ソファなどに寝かせておかない」「頭周りに何も置かない」「抱っこ紐を正しく使用する」の3項目では、プログラムを受講した妊婦は、受講していない妊婦と比べて、実施している者が多く、残りの6項目では差がなかった。
 その理由について、各項目の行動、意図、知識の結果から、計画的行動理論を参考に考察すると、行動コントロール感が鍵である可能性が考えられた。介入によって行動が促された項目は、自分のコントロールが及ばない要因が少ないため、コントロール感が高まった可能性があり、意図が行動に大きく影響またはコントロール感が行動に直接影響した可能性が考えられた。それ以外の項目は、第三者による要因のために行動をコントロールできない、またはコントロール感の低さによって、行動の実施に結びつかなかった可能性がある。また実施率が低かった項目は、習慣的な行動管理が必要な行動であったため、意図―行動の一貫性が抑制された可能性が考えられた。

結論
 本研究の結果、自治体の母親学級で採用されることを念頭に作成した本プログラムは、一部の傷害予防行動の実施を促すことが示された。今後、プログラムの問題点について検討・改善し、評価を重ねていく。

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