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大学・研究所にある論文を検索できる 「発育期における運動器検診の観察的研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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発育期における運動器検診の観察的研究

可西, 泰修 筑波大学

2020.07.27

概要

【背景】
 20世紀末, 世界保健機関(WHO)において「運動器の10年」が世界運動として提唱され, 人々が日常生活や運動を行うために重要な「運動器」への注目が集まっている. この世界運動では, 運動器に関する疾患・障害の社会的な負担の喚起, 研究による予防と治療の促進などを目的として様々な国・団体が参加している. この運動器の10年は, 運動器における疾患や障害は世界的にも多く見られ, 何億人もの人々に長期間の重度の疼痛や身体における障害をもたらす影響があるにも関わらず, その注目が少ないことをまず問題提起している. また, 過去の活動報告では, 小児の運動器に関する情報は十分ではなく, 小児の運動器の実態を調査する体制が整っていない状況であると述べられており, 発育期における運動器の健康状態を確認する必要性が勧告されていた背景がある.
 一方, 本邦においても, この世界運動に呼応し, 「運動器の10年・日本委員会(現:運動器の健康・日本協会)」が立ち上げられている. 日本委員会では, 近年の児童・生徒の体格の向上や体力・運動能力など, 独自の観点から発育期の運動器に関わる変化に着目しており, 特に学校の健康診断への注目が見られる. これまで, 学校の健康診断の中で運動器に関する項目については, 脊柱の評価はされていたものの, 四肢や関節に関する評価は十分ではない状況であった. そこで運動器の10年・日本委員会によって, 2005年度から運動器障害の早期発見・予防を目的とした「運動器検診」のモデル事業が学校において開始された. その後, モデル事業における報告と, 国家における議論を元に, 法律の改正に伴い2016年度から四肢の状態評価を含めた運動器検診が実施された経緯がある. しかし, 運動器検診の先行研究においては, 発育期では学年や男女における運動器の状態が異なると予測されるにも関わらず, 学年差, 性差および個々の発育状況を考慮した分析・考察が極めて少ない現状である. 学校の健康診断の目的には, 疾患の有無および程度を確認するだけでなく, 子供の成長状況を把握する意味などもあることから, 発育過程における運動器の変化を確認する方法を構築することは, 学校の健康教育・健康管理をより充実させ, 児童・生徒の運動器の健康に寄与する可能性がある.
 我々は茨城県内の一部の地域において, 2008年度から独自に運動器検診を開始し, 継続的に実施している. 一部の学校においては, 事前問診票を参考にしながら整形外科医が直接全員に対して診察を行う一次検診(全員検診)を実施し, 医療機関での診察が必要となる二次検診の対象者を抽出している. さらに, 「健康手帳」を用いて個人の運動器検診の記録を行い, 運動器の状態を継続的に確認・評価している. 本研究の新規性は, 個々の発育状況を考慮して検診結果を分析する点であり, 発育期の運動器を適切に評価するための重要な知見となり得ることが期待される.
 そこで本研究は, 以下の課題を設定して, 運動器検診の結果を横断的及び縦断的に観察し, 発育期における運動器の特徴を明らかにすることを目的とした.

【課題1】横断的な運動器検診結果からみた小学生の運動器の特徴
 これまで小学生の運動器検診に関して, 検診結果を全学年対象に, 学年別や男女別に詳細に検討した報告は少ない. そこで, 運動器検診の単年結果から小学生の運動器所見の実態を把握し, 小学生の運動器の特性に関する基礎的資料の構築を行うことを目的とした.
対象は, 2014年度茨城県における小学校3校(A・B・C校)の児童のうち, 保護者の同意を得た全学年児童1548名とし, 児童が外傷・障害等の理由で検診動作を行うことができなかった場合, 検診記録が不明瞭だった場合については分析から除外した. 方法は, 検診を行う前に, 記入式質問用紙を用い, 保護者への児童に関する問診票を事前配布・回収した. 加えて, 各学校と調整した日において, 整形外科医が直接, 全員に対して運動器検診を行った. 各項目を単純集計し, 「所見あり」と評価された児童数を全体・学年・男女別における人数で除し, 所見率を算出した.
 有効な検診データを得られたのは1487名(96. 0%)であった. 全児童において, 前屈制限12. 8%, 扁平足10. 4%, 足関節可動域制限4. 9%, X脚3. 8%, 運動器の疼痛4. 5%で高い所見率を示した. 男子では, 前屈制限18. 5%, 扁平足11. 2%, 足関節可動域制限6. 2%, 運動器の疼痛5. 5%, 女子では, 外反肘5. 6%, X脚4. 3%で高い所見率を示し, 前屈制限, 足関節可動域制限, 外反肘, 運動器の疼痛にて性差がみられた. 学年別では, 前屈制限では4年生16. 7%, 扁平足では4年生15. 1%, 足関節可動域制限では6年生6. 8%で最も高い所見率を示した. 学年ごとの男女比較では, 全ての学年において男子に前屈制限の所見率が高かった. これらの小学生の運動器所見は, 発育・発達状況や日常生活における影響を受けている可能性があり, 検診結果を縦断的に追跡調査する必要性が示唆された.

【課題2】小・中学生における運動器検診の1年間の縦断的結果からみた運動器所見の変化
 これまでの運動器検診に関する報告では, いずれもその検診年度における有所見者および二次検診該当者の人数・割合を示した横断的なデータに限られており, 児童・生徒の個々の運動器所見の変化のタイミングを捉えられていない. そこで, 「健康手帳」に記載された運動器検診の結果から, 個人の検診結果を前向きに1年間追跡し, 小・中学生における運動器所見が出現する時期について検討することを目的とした.
 対象は茨城県の公立の小中一貫校1校(D校)における1〜8年生とした. 2017年度に在学していた1930名のうち, 2018年度まで継続的な運動器検診の記録のフォローアップができた者は1239名であった. 最終的に, 研究に対する不同意者, 不明瞭なデータが含まれる者を除外した1209名(97. 6%)を分析対象とした. 方法については, 問診票がマークシート形式となった以外, 課題1と同様である. 分析方法は, まず, 2017年度における検診結果について, 各項目を単純集計し, 「所見あり」と評価された児童数を1〜8年生全体の人数で除し, 対象集団全体における所見率を算出した. さらに, 2017年度全体の所見率の中で上位3項目に関して, 各個人の2年間のデータを対応させ, 2017年度で所見なしの者が2018年度で所見ありへと変化した時, その者を「出現群」と定義した. 加えて, 出現群の人数を進級前に所見なしであった人数で除し, 出現率を求めた.
 有効な検診データを得られたのは1209名(97. 6%)であった. 2017年度の対象集団全体における所見率の中で前屈制限, 扁平足, 側弯に関する項目(肩・肩甲骨の高さの差, 立位時における脊柱側弯, Rib hump)が上位3項目に挙げられた. これらの高い所見率を示した項目について個人のデータを1年間追跡したところ, 前屈制限は全体の4年から5年生への進級時, 男女の5年から6年生への進級時で特に出現した. 扁平足では, 男子は1年から2年生, 6年から7年生, 8年から9年生への進級時, 女子は1年から2年生, 4年から5年生, 8年から9年生への進級時で特に出現した. 側弯に関する項目では, 特に女子で出現しやすく, 肩・肩甲骨の高さの差は4年から5年生への進級時で増加し, 中学生になる頃からRib humpが多く出現したことから, 個人の所見の変化の注意・確認が早期対応のために重要であると示唆された.

【課題3】小学生の運動器検診における前屈制限の6年間の縦断的結果と個々の発育の特徴
 課題1, 2より, 特に前屈制限では学年差, 性差および, 所見の出現しやすい時期が明らかとなった. 立位体前屈での評価では体格の影響があるとされており, 発育期の児童を対象とした場合, 同じ学年においても個々の発育状況が異なると考えられる. 発育状況を知るためには生物学的成熟度を評価することが求められる. その指標として身体成熟が挙げられ, 成長速度曲線を推定し, 個々の思春期スパートの時期を確認することで把握ができる. 一方で, 個々の発育状況と運動器検診結果を関連づけて分析した報告は現時点で見当たらない. そこで, 本研究では運動器検診における前屈制限に着目し, 小学生の個人の6年間の検診結果を追跡し, 個々の発育状況から特徴を捉えることを目的とした.
 茨城県の公立小学校1校(E校)の2014年度入学者45名を対象とし, 6年間の検診結果と発育データが揃っている39名(86. 6%)を分析対象とした. 方法は, 課題1・2と同様の方法に加え, 身体測定を実施した. 個々の発育状況の確認にはBTTモデルを用いて, 身長成長速度曲線を作成した. 分析方法は, 1年時における検診結果をベースラインとし, 所見のなかった群において個人の6年間の検診結果を追跡した. 6年間一度も前屈制限が出現しなかった者を「未出現群」とし, 6年間で一度でも前屈制限が出現した者を「出現群」と定義した. さらに, 男子の出現群においては, 前屈制限が初めて出現した年度における年齢を出現年齢として個人ごとに確認し, 成長速度曲線から得られたTake-offとPeak velocityのAgeとともにどのタイミングで出現しているかを確認した.
 その結果, 1年時に前屈制限を有していなかった者は, 男子25名中19名(76. 0%), 女子14名中12名(85. 7%)であった. この集団の6年間の検診記録を追跡したところ, 前屈制限における出現群は男子で9名(47. 4%), 女子で3名(25. 0%)であった. 男子の出現群においては, Take-offの出現年齢の±1. 0歳の範囲内で前屈制限が出現していた者と範囲外で出現していた者で分かれていた. このことから, 前屈制限の出現と個々の発育状況との明らかな関係は認められなかった.

【まとめ】
 本研究は, 発育期における運動器の特徴を明らかにするために, 茨城県の一部地域おける運動器検診の結果を横断的および縦断的に観察した. その結果, 運動器検診の単年結果から項目別では, 前屈制限, 扁平足, 足関節可動域制限が特に多く, 所見率には学年差や性差があることが示された. 運動器検診の個人の記録を1年間追跡した結果では, 運動器所見の出現タイミングがあり, 頻繁に出現する時期や性差が見られる項目があることが示された. 個々の発育状況を踏まえた運動器検診の分析方法として, 小学校6年間の検診結果と成長速度曲線との関連を検討したが, 前屈制限の出現と個々の発育状況との明らかな関係は認められなかった.
以上の成果は, 発育期の運動器検診結果を適切に評価するための知見となり, 今後様々な関連要因を検討するための基礎的な資料として意義のあるものであると考えられる.

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