太陽ジェットの3次元MHDシミュレーション
概要
太陽ジェットの 3次元 M
H
Dシミュレーション
3-dimensional MHD Simulations of Solar Jets
研究代表者:西田圭佑
(京都大学理学研究科)
nishida@kwasan.kyoto-u.ac.jp
研究目的 (Research Objective):
太陽大気中では、コリメートされたプラズマ流が噴出するジェット現象がさまざま
なスケールにおいて普遍的に見られる。 H a線で観測されるスピキュールやサージ、
コロナ中の X 線ジェット、彩層中のアネモネジェット等である。最近では極端紫外線
観測により微小な nanojets も発見された (P. Antolin, 2020)。ジェット現象は、下層
での磁気リコネクションによるエネルギー解放でプラズマが加速されることで発生
していると考えられており、数値シミュレーションを用いた多くの研究の結果もそれ
を支持する。また、ジェット現象は、太陽コロナ加熱や太陽風加速のエネルギー源と
して重要な役割を果たしていると考えられている。
彩層ジェットでは、磁気リコネクションによるエネルギー解放が行われていると思
われる領域の光度の激しい時間変動が観測されている (K.A.P. Singh et al., 2012)。さ
らに、同一または隣接する箇所から次々とジェット (small scale jets) が打ち上がる
(Successive jets) こともある [Fig. 1]。これらの観測的特徴は、従来の単純なジェット
のモデルだけでは説明できない。観測からは、前者は電流シート中でのプラズモイド
の発生(plasmoid-induced reconnection model) 、後者は浮上磁場のヘリカルな磁場構
造が磁気リコネクションを引き起こすことに起因することが示唆されている。
Fig. 1
太陽観測衛星「ひので」可視光望遠鏡(SOT) の Ca II H フィルターで観測さ
れた彩層ジェット。左から順に元画像、アンシャープマスクをかけた画像、時間差分
画像
本 研 究 課 題 で は3 次 元 MHD シミュレーションを行うことで彩層ジェットの観測的
特徴を再現し、観測と物理量を比較することで、モデルの検証を行う。
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0
1-
計算手法 (Computational Aspects):
3 次 元 MHD シミュレーションを行った。 MHD 計算を行う
カーテシアン座標系で
ために CIP-MOCCT 法を用いた。並列化には MPI を用いた。電流シート近傍の磁場
構造を分解するため、グリッド数は 8003 とした。電流密度がある一定以上で電気抵
抗が on になる、つまり電気抵抗が局所的に働く異常抵抗モデルを仮定した。局所的
な抵抗モデルを用いることで速いリコネクションが引き起こされることが知られて
いる。
初期条件としては、一様な背景磁場を持ち重力成層した光球∼彩層∼遷移層∼コロ
ナのモデルの光球面下にヘリカルな磁場構造を持つ flux rope を設置したものを用い
た [Fig. 2] 。 Flux rope の磁場構造は力学的に平衡となっている (Gold & Hoyle
1960)。摂動として微小な速度場を flux rope に加えることにより、 flux rope を Parker
不安定性により浮上させ、背景磁場との間で磁気リコネクションを引き起こし、その
時間発展を調べた。
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l
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xRope
Fig. 2 初期条件磁場構造
(
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研究成果( Accomplishments :
3 次元 MHD シミュレーションの結果、浮上した flux rope と周囲の磁場との間で
電流シートが形成され、磁気リコネクションが発生した。この磁気リコネクションは、
深部から浮上してきた高密度のプラズマと、彩層の低密度のプラズマとの間で起こる
非対称リコネクションである。磁気リコネクションにより 100km/s を超える高速の
ジ ェ ッ ト が 発 生 し た 。 ジ ェ ッ ト は 時 間 経 過 と と も に X 軸方向に広がっていく
successive jets の特徴を示し、これは太陽観測衛星「ひので」可視光望遠鏡(SOT) で
観測された彩層ジェットの特徴とも一致する。ヘリカルな磁場構造(flux rope) とコロ
ナ背景磁場の間での磁気リコネクションの発生場所が移動し、それに伴いジェットが
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発生する位置も移動していき、 successive jets となる。
(
)
[Fig. 2]〇 ‘ 一
また、磁気リコネクションの結果、プラズモイド磁気島が形成された
ゞ
の現象は過去の浮上磁場の 2 次元 MHD シミュレーション (Yokoyama and Shibata
1995) でも発生しているものであるが、今回 3 次元シミュレーションでも再現できた。
しかし、「ひので」により彩層ジェット中で発見されたプラズモイドと思われる構造
と今回のシミュレーション結果の比較を定量的に議論するには、今回のシミュレーシ
ョンの空間分解能は不足しているため、より高解像度の計算が必要である。
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Fig. 2 (a) 浮上した Flux rope とその周囲の磁力線の次元構造。
3
(b) 磁場流線灰色
(
)
(
)
と速度場カラーを示す断面図。
公 表 状 況 (Publications )::
(
観測とシミュレーションの定性的な比較結果に関する論文投稿を準備中であるバナ
)
ラス・ヒンドゥー大学の K.A.P. Singh 氏との共著。 ...