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大学・研究所にある論文を検索できる 「中枢神経損傷後の神経膠症を制御する新規Rac1-GSPT1シグナル伝達経路」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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中枢神経損傷後の神経膠症を制御する新規Rac1-GSPT1シグナル伝達経路

Ishii, Taiji 神戸大学

2020.09.25

概要

中枢神経障害後のアストログリオーシス(グリア瘢痕形成)は、複雑な細胞間及び細胞内シグナル機構によって調節されています。通常状態では、アストロサイトは中枢神経における主要なグリア細胞で、⾎流の調節やエネルギー代謝物の供給と回収、神経伝達物質の細胞外バランスの調節などによりニューロンと⾎液脳関⾨の維持に関与しています。アストロサイトは、炎症、感染、虚⾎、及び外傷を含む様々なタイプの損傷に応じて活性化され、反応性アストログリオーシスという表現型を変化させ、それぞれの病態⽣理学において重要な役割を果たしています。脊髄損傷後、アストロサイトは反応性アストロサイトとして主に病変部位で増殖したアストロサイトと隣接領域から移動したアストロサイトで構成され、次に瘢痕形成アストロサイトとして異なった表現型を⽰します。反応性アストロサイトは、急性創傷治癒及び組織再構築に働きます。しかし、それらは最終的に瘢痕形成アストロサイトになり、密なグリア瘢痕を形成し神経軸索の再⽣を阻害します。

RAC は、リモデリングアクチンに基づく転写調節、細胞周期進⾏、および細胞遊⾛を含む細胞過程、多種多様な役割を果たしている低分⼦量 GTP アーゼの Rho ファミリーのメンバーです。加えて、Rac は3つの NADPH オキシダーゼ(Nox1、Nox2、Nox3)の活性化因⼦です。また、反応性酸素種(ROS)は中枢神経損傷後の有害な因⼦であります。Nox2-KO マウスは、虚⾎再灌流後の脳梗塞の減少を⽰しました。さらに、ドミナントネガティブ Rac1 変異体による腎梗塞の抑制および活性 Rac1 の⼼筋細胞特異的過剰発現による虚⾎再灌流障害の悪化が報告されています。Rac1 は、さまざまな細胞タイプ(ニューロンおよびグリア細胞を含む)および経路(アクチンリモデリング、細胞周期進⾏、および Nox 由来 ROS を含む)を介して中枢神経損傷に対する細胞応答を媒介する可能性が⾼い候補です。ただし、中枢神経損傷、特にアストロサイトにおける Rac1 の効果と機能は不明のままです。アストログリオーシスを調節する分⼦経路を特定するために、アストロサイトで Rac 及び Rac を介するシグナル伝達が中枢神経損傷後の治療的介⼊の新規候補であるかどうかを調べることとしました。

アストロサイトで Rac1 を KO させるため GFAP プロモーターの制御下で Rac1 が⽋失したマウスを作成しました。Rac1-KO マウスを⽤いて脊髄損傷モデルを作成し、後肢の運動機能の回復を損傷後 35 ⽇まで評価しました。Rac1-KOマウスは脊髄損傷後 7 ⽇⽬から改善を認め、9 ⽇⽬以降は有意差を持って良好でした。損傷脊髄組織を GFAP で免疫染⾊したところ Rac1-KO マウスでコントロールと⽐較して病変部位でのアストログリオーシスが減少していることが観察されました。また、中枢神経損傷後のアストログリオーシスの減少を別の⽅法で調べるため Spring-8 シンクロトロンでマウスの頭部にマイクロビーム照射による損傷を加えました。Rac1-KO マウスの脳幹ではコントロールマウスと⽐較して照射された病変を取り囲む GFAP 陽性のバンドは減弱していました。以上から Rac1-KO マウスでのアストログリオーシスの減少の機序は、Rac1-KO 後の増殖および遊⾛が減少するためではないかとういう仮説を⽴てました。

次に、細胞周期の進⾏と細胞遊⾛への Rac1 の関与を調べるために、Fucci システムとスクラッチアッセイを⻑時間タイムラプスイメージングシステムで観察しました。LN229 細胞(ヒト神経膠芽腫由来の細胞株)で Rac1-KD を⾏ったところ、コントロール細胞と⽐べて細胞周期1サイクルの時間が延⻑しました。特に G1期の延⻑を観察することができました。また、Rac1-KD 細胞で細胞遊⾛の減少も認めました。このことは、Rac1-KO マウス初代星状細胞とコントロールマウス初代星状細胞の⽐較でも同様な結果でありました。

続いて、Rac1-KD による細胞周期の延⻑と細胞遊⾛の減少に関連する分⼦を調べることにしました。LPS の刺激によって炎症誘発性サイトカイン IL-1βを含む様々なタンパク質が Rac1 を介してアップレギュレーションされることが報告されています。IL-1βは脊髄損傷や虚⾎性脳損傷などで誘発される炎症反応の主要なドライバーです。まず、LPS 処理後の WT マウスの初代星状細胞で IL-1β発現の増加と LPS 処理後の Rac1-KO マウスの初代星状細胞で IL-1β発現の減少を確認しました。そこで、細胞周期と細胞遊⾛に関連する Rac1 シグナル伝達の新規下流分⼦を同定するために、LN229 細胞を⽤いて LPS で処理した Rac1-KD 細胞とコントロール細胞を DNA マイクロアレイにかけたところ、 Rac1-KD 細胞で GSPT1 の発現低下を発⾒しました。GSPT1 は細胞周期を G1期から S 期へ進めるのに必要なタンパク質で、終⽌コドンに応答して翻訳終結に関与しています。GSPT1 タンパク質レベルの低下は Rac1 の2つの異なる siRNA を使⽤した LN229 細胞と Rac1-KO マウスの初代星状細胞で確認しました。また、LN229 細胞で LPS 処理後に GSPT1 が増加し、Rac1-KD した LN229細胞で LPS 処理後に GSPT1 が減少することが観察されました。LPS で処理した LN229 細胞の GSPT1 発現増加は JNK 阻害剤、ERK 阻害剤、NF-κB 阻害剤によって阻害されました。この結果から GSPT1 が少なくとも JNK、ERK、NF- κB の活性化を介して Rac1 によるコントロールを受けていることが⽰唆されました。

細胞周期の進⾏における Rac1 と GSPT1 の役割を調べるために、HeLa 細胞の⻑期タイムラプスライブイメージングで細胞周期を分析しました。HeLa 細胞の細胞周期は GSPT1 に2つの異なる siRNA を使⽤した KD の後有意に延⻑されました。さらに、HeLa 細胞の Rac1-KD によって誘導される細胞周期の延⻑は、GFP タグ付き GSPT1 の過剰発現によって改善されました。細胞周期の遅延は GSPT1-KD 初代星状細胞でも観察されました。

GSPT1 が細胞遊⾛を制御するかどうかを判断するために、スクラッチアッセイを⾏いました。細胞遊⾛は LN229 細胞の GSPT1 に対する2つの siRNA の影響を受けませんでした。初代星状細胞の細胞遊⾛が GSPT1-KD の影響を受けないことを CytoSelect 細胞移動アッセイキットを使⽤して確認しました。これらの結果は、GSPT1 が Rac1 シグナル伝達の下流エフェクターであり、Rac1- GSPT1 シグナル伝達軸が細胞周期調節に関与しているが、細胞遊⾛には関与していないことを⽰唆します。

本研究の結果、アストログリオーシスの軽度の抑制が中枢神経損傷後の機能回復を促進し、アストロサイトの Rac1 が中枢神経損傷の新しい治療法を開発するための潜在的なターゲットであることを発⾒しました。さらに、GSPT1 が G1から S 期への移⾏の進⾏を介して細胞増殖を促進する Rac1 の新規下流ターゲットとして特定しました。GSPT1 は中枢神経損傷に加えて癌治療のより強⼒なターゲットになる可能性があります。Rac1 が GSPT1 を調節する正解なメカニズムを定義するにはさらなる研究が必要です。

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