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有機触媒を用いたa,b-不飽和アルデヒドとケトンとの不斉マイケル反応およびプロスタグランジン類のポットエコノミーな合成への展開

楳窪 成祥 東北大学

2021.03.25

概要

1828年のWohler合成1)から始まった有機合成化学は有用有機化合物の人工的合成及び量的供給を可能とし、人類の福祉に貢献してきた。その発展とともに様々な有機反応が見出された。

Wohler合成の59年後である1887年、Michaelはケイ皮酸エチルに対するマロン酸ジェステルの共役付加反応を報告した2ζのちに電子不足オレフィンに対する求核付加反応はマイケル反応と呼称されるようになった。その後、時代の変化に伴い、様々なマイケル反応が開発されるようになる。

マイケル反応の発見から88年後である1975年、Helderらは触媒的不斉源であるキニーネ (1-3)を用いたβ-ケトェステル1-1とメチルビニルケトン1-2との不斉マイケル反応を報告し た(Scheme 1-1)3)。これは触媒的不斉源を用いたマイケル反応の初の例である。

その1年後である1976年、向山らはルイス酸を用いたシリルエノールエーテル1-5とアクリル酸メチル1-6とのマイケル反応を報告した(Scheme1-2) 4)。これまで求核剤として用いら れていたのはマロン酸誘導体などの活性メチレン化合物であったのに対し、向山らは求核剤と してシリルエノールエーテルを初めて用いた。のちに、ルイス酸を用いた電子不足オレフィンに対するシリルエノールエーテルの求核付加反応は向山マイケル反応と呼称されるようになった。

さらに、その9年後である1984年、Hammerらはキラルなジアミンリガンド1-8およびコバルト触媒を用いたβ-ケトエステル1-1とメチルビニルケトン1-2との不斉マイケル反応を報告した(Scheme 1-3) 5)。これは触媒的不斉源および金属触媒を用いたマイケル反応の初の例である。この際、鏡像体過剰率は66%と中程度であった。

その10年後である1994年、柴崎らはBINOLリガンドとランタノイドを用いたマロン酸ジェステル1-9とα,β-不飽和ケトン1-10との不斉マイケル反応を報告した(Scheme 1-4) 6)。この際、不斉マイケル反応は95% eeと非常に高いエナンチオ選択性で進行した。この結果は光学活性な分子合成を行う上で不斉マイケル反応が有用であることを示唆する。

触媒的不斉源を用いたマイケル反応はその発見以降、天然物合成に広く利用されている。 1979年、Trostらはキニーネ触媒(1-3)を用いたケトン1-12の分子内不斉マイケル反応を利用し、hirsutic acid C (1-14)の不斉合成を達成している(Scheme 1-5) 7)。

1982年、Woodwardらはプロリン触媒(1-16)を用いた不斉ドミノ ・レトロマイケル/マイケル反応を利用し、erythromycin A (1-17)の不斉合成を達成している(Scheme 1-6) 8)。

2000年、Coreyらはシンコナアルカロイド触媒1-20を用いたα,β-不飽和ケトン1-18と二トロメタン1-19との分子間不斉マイケル反応を利用し、baclofen (1-22)の不斉合成を達成している(Scheme 1-7) 9)。

一方、21世紀以降、化学合成過程において用いられる試薬や廃棄物の毒性、エネルギーコスト等が問題視されるようになった。近年、これらの課題の解決方策として様々な概念が提唱されている。例えば、化学変換において消費される原子数を極力削減することを目指すアトムエコノミー1Q)、合成過程そのものを極力削減することを目指すステップエコノミー11\合成過程における酸化還元反応を極力削減することを目指すレドックスエコノミー12>などが挙げられる。

当研究室では、同一容器内で複数の反応を連続的に行うワンポット反応に着目し、これを積極的に活用することで精製工程および廃棄物の極小化を目指すポットエコノミー13>の概念を提唱した。加えて、有用有機化合物を短時間で合成することで、エネルギーコストの低減かつ才ンデマンドな供給を目指すタイムエコノミー14»の概念を提唱した。これらの概念に基づいた合成は低環境負荷かつ経済的なので時代のニーズに即している。

ところで、安価で毒性が少ない有機触媒15)は水や酸素に安定であるなど実験操作上の利点も有するため近年注目されている。有機触媒は次の反応を阻害しないことが多く、ポットエコノミーやタイムエコノミーの概念と相性が良好と考えられる。

例えば、2013年、当研究室では独自に開発したジフヱニルプロリノールシリルエーテル触媒1-2516)を用いたニトロアルケン1-23とスクシンアルデヒド1-24との不斉ドミノ・マイケル/ヘンリー反応を鍵とした光学活性prostaglandin ΕΊ methyl ester (1-28)の3ポット合成を達成した(Scheme 1-8)17)。

2016年、当研究室ではジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒1-31を用いたアルデヒド1-29のニトロアルケン1-30への不斉マイケル付加を鍵反応とした光学活性Oseltamivir(1-33)の1ポット、60分合成を達成した(Scheme1-9)18)。

2017年、当研究室ではジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒1-36を用いたニトロアルカン1-34とα,β-不飽和アルデヒド1-35との不斉ドミノ・マイケル/アルドール反応を鍵とした光学活性estradiol methyl esterの5ポット合成を達成した(Scheme 1-10)19)。

ジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒はα,β-不飽和アルデヒドとニトロアルカンやマロナートなどの活性メチレンを有する求核剤との不斉マイケル反応に用いられる有用な有機触媒である。例えば、2007年、当研究室ではジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒1-36を用いたα,β-不飽和アルデヒド1-40とニトロメタン(1-19)との不斉マイケル反応が高収率・高エナンチオ選択性で進行することを見出した(Scheme 1-11)20)。

2007年.Jorgensenらはジアリールプロリノールシリルエーテル触媒1-44を用いたα,β-不飽和アルデヒド1-40とジベンジルマロン酸エステル1-43との不斉マイケル反応が高収率・高エナンチオ選択性で進行することを見出した(Scheme 1-12) 21)。

ジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒を用いたα,β-不飽和アルデヒドに対する求核剤の不斉マイケル付加の反応機構22»は次のようになる(Scheme1-13)。触媒1-36と酸(HA)とα,β-不飽和アルデヒド1-40が反応し、イミニウム塩1-47が生じる。イミニウムイオンのカウンターアニオンが求核剤からプロトンを脱離させる。活性な求核剤がイミニウムイオンにマイケル付加する。最後に、中間体1-49が加水分解され、触媒1-36が再生すると同時に目的物1-46が生じる。この反応では、酸の共役塩基が求核剤からプロトンを脱離させる必要があるので、酸性度の低い求核剤を用いることは困難である。そのため、ニトロアルカンやマロナートなどの比較的酸性度の高い活性メチレンを有する求核剤を用いる例が多いが、ケトン基を求核部位と して用いる例は少ない。

一方、筆者は修士研究にて二つの第二級アミン触媒を用いるα,β-不飽和アルデヒド1-50とケトン1-51との新奇不斉マイケル反応を開発した(Scheme14) 23)。この際、ジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒1-31がα,β-不飽和アルデヒド1-50をイミニウムイオン1-53として活性化し、ピロリジン(1-52)がケトン1-51をエナミン1-54として活性化することで反応が進行したと考えていた。

本博士過程にて筆者は有機触媒を用いた新規不斉マイケル反応の開発、その機構解明、およびその反応を用いた有用有機化合物のポットエコノミーな合成法の開発を目的として研究を行った。その結果、二つの第二級アミン触媒を用いるα,β-不飽和アルデヒドに対するケトンの不斉マイケル付加の詳細な反応機構を明らかにした。また、ジフヱニルプロリノールシリルエーテル触媒を用いたα,β-不飽和アルデヒドとアルキニルケトンとの不斉マイケル反応の開発およびそれを鍵反応として用いたHMG-CoA阻害剤の合成中間体のポットエコノミーな合成を達成した。さらに、ジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒を用いたα,β-不飽和アルデヒドとアルケニルケトンの不斉ドミノ ・マイケル/マイケル反応の開発およびそれを鍵反応として用いたプロスタグランジン類のポットエコノミーな合成を達成した。加えて、ジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒を用いたα,β-不飽和アルデヒドとケトンとの不斉マイケル反応を利用して、光学活性な多置換c/s-hydrindane骨格構築法、多官能基性シクロペンタノン骨格構築法、多置換 bicyclo[2.2.2]octanone骨格法を開発した。

第2章では二つの第二級アミン触媒を用いるα,β-不飽和アルデヒドとケトンとの不斉マイケル反応における活性な求核種がエノラートであることを証明した24)。

第3章ではジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒1-36を用いた 4 -(triisopropylsilyl)but-3-yn-2-one (1-56)とα,β-不飽和アルデヒド(1-40)との不斉マイケル反応が高収率・高エナンチオ選択性で進行することを見出した(Scheme 1-15)。また、この反応を利用してHMG-CoA阻害剤の合成中間体であるmethyl (3R, 5S)-3,5-isopropylidenedioxy-6- heptynoate (1-58)の2ポット、総収率16%の合成を達成した。

第4章ではジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒1-36を用いたα,β-不飽和ケトン1- 59とα,β-不飽和アルデヒド1-40との不斉ドミノ ・マイケル/マイケル反応によって光学活性多置換シクロペンタノンが高収率・高立体選択的に得られることを見出した(Scheme 1-16)。

第5章では光学活性Coreyラクトン(1-62)のワンポットかつ152分の合成を達成した(Scheme 1-17)。この合成はこれまで報告された中で最も早くかつ短工程である。

第6章では光学活性ラタノプロスト(1-64)の保護基フリー、7ポット、総収率25%で合成を達成した (Scheme 1-18)。この合成はこれまで報告された中で最も短工程かつ高収率である。

第7章では光学活性クリンプロスト(1-67)の7ポット、総収率17%で合成を達成した(Scheme 1-19)。この合成はこれまで報告された中でも短工程であり、かつ高収率である。

第8章ではジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒1-36を用いたα,β-不飽和アルデヒド1-40と3-hexene-2,5-dione (1-68)との不斉ドミノ・マイケル/マイケル反応、分子内アルドール脱水縮合をワンポットで行い、c/s-hydrindane骨格1-69が高立体選択的に得られることを見出した28) (Scheme 1-20)。

第9章ではジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒を用いたα,β-不飽和アルデヒド1- 40とdiethyl 2-(2-oxopropylidene)malonate (1-70)との不斉ドミノ・マイケル/マイケル反応によって光学活性多置換シクロペンタノン1-71が高収率・高立体選択的に得られることを見出した(Scheme 1-21)。

第10章ではジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒1-31を用いた(cyclohexa-1,5- dien-1 -yloxy)trimethylsilane (1-72)とα,β-不飽和アルデヒド1-40との不斉ワンポット・向山マイケル/マイケル反応によってbicyclo[2.2.2]octanone骨格化合物1-73が高収率・高立体選択的に得られることを見出した29> (Scheme 1-22)。また、分子内マイケル反応において静的速度論分割が生じていたことを証明した。

第11章では筆者はジフェニルプロリノールシリルエーテル触媒1-31を用いたα,β-不飽和ケトン1-74とα,β-不飽和アルデヒド1-40との不斉ドミノ・マイケルマイケル反応によって不斉四級炭素を含むbicyclo[2.2.2]octanone骨格化合物1-75が高収率・高立体選択的に得られることを見出した(Scheme 1-23)。

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参考文献

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