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11族金属アミドアート型塩基の設計と機能

手塚, 則亨 東京大学 DOI:10.15083/0002005172

2022.06.22

概要

【背景】芳⾹環は、医農薬や機能性分⼦に多く⾒られる重要な構成要素であるため、多様な官能基を化学/位置/⽴体選択的に導⼊する新たな⼿法の開発は、有機合成化学における重要な研究課題のひとつである。芳⾹環上の配向基(Directed Metalation Group: DMG)を利⽤したオルトメタル化反応(Directed ortho Metalation: DoM)は、位置選択的に様々な官能基を導⼊可能な反応として古くより研究されてきた。当研究室ではこれまでに、2,2,6,6–tetramethylpiperidido(TMP)を配位⼦とする種々のアミドアート型塩基を開発し、多様な芳⾹環を化学選択的にオルトメタル化し、種々の極性反応が進⾏することを報告してきた 1。⼀⽅、医薬品や機能性分⼦には芳⾹環上に C–O/C–N 結合を有するものが多く存在するが、これまでの「DoM+極性反応」では酸素・窒素官能基の導⼊は難しかった。この課題に対して筆者は、銅の酸化還元能に着⽬し、銅アート塩基による DoM と酸化反応を組み合わせた芳⾹環の⽔酸化・アミノ化反応(①)を開発した。続いて、銅アート錯体の酸化還元を活⽤した脱⽔素型クロスカップリング反応(②)を開発した。さらに、同族の銀アート塩基を開発し、銀の特性を活かした芳⾹環のメタル化反応・官能基化反応を⾒出した(③)。

【結果・考察】
① 銅アミドアート型塩基を⽤いた芳⾹環の⽔酸化・アミノ化反応2
アリール銅アート中間体 1 の酸化的修飾化を⽬指して、様々な酸化剤を精査したところ、ヒドロペルオキシド(ROOH)が特異的に⽔酸化体を⾼収率で与えることを⾒出した。この時、アリール銅アート中間体のアミド配位⼦が、ROOH を脱プロトン化することで銅上での配位⼦交換が促進され、反応が進⾏したと考えられたため、同様に酸性プロトンを有する ベンジルオキシアミン(BnONH2)を作⽤させたところ、アミノ化反応も円滑に進⾏した(図 2, 上図)。⽔酸化反応の機構を DFT 計算を⽤いて解析したところ、前述の配位⼦交換の後に、O–O 結合の銅への酸化的付加(IM1→IM2)、還元的脱離(IM2→IM3)を経て酸素原⼦が導⼊される反応経路が得られた(図 2,下図)。⼀⽅、酸化還元能のないアリール亜鉛アート錯体を⽤いても⽔酸化反応は進⾏しなかった。以上より理論と実験の両⾯から、本反応が銅(I→III→I)の酸化還元を鍵とすることが⽰唆された。このように、銅の酸化還元を活⽤することで、フェノールやアニリン類縁体を簡便に⾼い位置・化学選択性にて合成する⼿法を開発した。

② 銅アミドアート型塩基を⽤いた形式的脱⽔素型クロスカップリング反応3
前述の⽔酸化反応が、アリール銅アート中間体 1による ROOH の脱プロトン化反応とそれに続く酸化的カップリングにより C–O 結合の形成が⾏われていることを考えると、(TMP)2Cu(CN)Li2 の 2つのアミド配位⼦による「連続 DoM」により「⾮対称ジアリール銅アート中間体」を調製できれば、酸化反応と組み合わせることで、脱⽔素型クロスカップリング(Cross-Dehydrogenative Coupling: CDC)へと展開できるのではないかと考えた(図 3)。実際に、連続 DoM の後、種々の酸化剤を検討したところ、ペンタフルオロニトロベンゼンやブロマニルなどの強⼒な有機酸化剤を作⽤させることで、多様な組み合わせの(ヘテロ)芳⾹環を、⾼い位置選択性・官能基許容性にて効率よくクロスカップリングできることを⾒出した(図 4)。従来の触媒的 CDC 反応とは異なり、基質を区別するために当量関係や基質の電⼦状態に⼤きな偏りを設ける必要がないことが特徴である。また、⼀般的なクロスカップリング反応では⾼温を要する「⽴体的に混み合った多置換ビアリール」の室温合成や、P,N-ligand の合成にも展開できるなど、⾼度に官能基化されたビアリールの合成に新たな道を拓いた。

③ 銀アミドアート型塩基を⽤いた芳⾹環の超⾼官能基許容型メタル化・修飾化反応4
有機合成化学において⻑い歴史を有する有機銅試薬に対して、同族種の有機銀試薬の物性や反応性はほとんど知られていない。銀は銅と同じ電気陰性度を有するものの、酸化還元の振る舞いには⼤きな違いがあり、感光性や錯形成能などにも特徴を有する。筆者は、未開拓であった銀アミドアート型塩基の反応性に興味を持ち、元素特性を活⽤した新たな DoM を展開するべく研究に着⼿した(図 5)。

まず、種々の銀アミド塩基を設計、評価した結果、Lipshutz 型の (TMP)2Ag(CN)Li2を⽤いることで、様々なアリール銀種を調製することができた(図 6)。特に、これまでの DoM では共存が難しかったメチルエステルやアルデヒド、ヨード、トリフ
ラート、ニトロ基を有する(ヘテロ)芳⾹環を⾼収率でメタル化することが可能であり、銀アミド塩基が極めて⾼い官能基許容性を有することがわかった。

また、⽣じたアリール銀アート中間体は、先述のようにアルデヒドと共存する⼀⽅で、種々の求 電 ⼦ 剤 ( D2O, BzCl, allyl bromide, N- chlorophthalimide, TMSCl, disulfide, etc.)と円滑に反応することがわかった。銅が I→III→I の酸化還元機構を巧みに利⽤して様々な結合形成反応を⾏っているのに対し、銀は⾼い酸化還元電位を有するためにそのような機構は働かず、新たな選択性を獲得できたのではないかと考えられる。こうした銀の特異な選択性は、ジアゾニウム塩との反応においても⾒られた(図 7)。⾮対称アゾ化合物はジアゾニウム塩と求核剤とのカップリングによって合成できるが、強い求核性と塩基性を有するメタル種を⽤いた場合には、(b)SNAr 反応、(c)ベンザイン発⽣、(d)電⼦移動による副反応がしばしば問題となる。しかし、アリール銀中間体を求核剤とした場合には、(a)アゾカップリングが選択的かつ⾼収率にて進⾏した。本反応を⽤いることで、他の⼿法では合成が難しいジアリールアゾ化合物を合成することが可能であった。

今後、本 DoM によって新たに調製可能になったアリール銀種の反応性や活性化法などをさらに精査することで、銀の特徴を活かした多様な変換反応が開発されることが期待される。

【結語】
以上のように、元素の特性を巧みに利⽤することで、芳⾹族化合物の DoM 反応に新たな可能性を拓いた。前半では⾼い酸化還元能を有する銅の特性を活かして、芳⾹環の化学/位置選択的な⽔酸化・アミノ化、および脱⽔素型クロスカップリング反応を実現した。また後半では、銀のアミドアート型塩基を開発し、新たな選択性を有する DoM 反応を開発した。

参考文献

(1) [Zn]: Kondo, Y.; Shilai, M.; Uchiyama, M.; Sakamoto, T. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 3539. [Al]: Uchiyama, M.; Naka, H.; Matsumoto, Y.; Ohwada, T. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 10526. [Cu]: Usui, S.; Hashimoto, Y.; Morey, J. V.; Wheatley, A. E. H.; Uchiyama, M. J. Am. Chem. Soc. 2007, 129, 15102.

(2) Tezuka, N.; Shimojo, K.; Hirano, K.; Komagawa, S.; Yoshida, K.; Wang, C.; Miyamoto, K.; Saito, T.; Takita, R.; Uchiyama, M. J. Am. Chem. Soc. 2016, 138, 9166.

(3) Tezuka, N.; Hirano, K.; Uchiyama, M. Org. Lett. 2019, 21, 9536.

(4) Tezuka, N.; Hirano, K.; Peel, A. J.; Wheatley, A. E. H.; Miyamoto, K.; Uchiyama, M. Chem. Sci. 2020, 11, 1855–1861.

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