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大学・研究所にある論文を検索できる 「樹状細胞にOVAタンパクを電気穿孔法で導入し、iNKT細胞リガンドを付加したワクチンは、抗原特異的な抗腫瘍免疫を効果的に誘導する」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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樹状細胞にOVAタンパクを電気穿孔法で導入し、iNKT細胞リガンドを付加したワクチンは、抗原特異的な抗腫瘍免疫を効果的に誘導する

渡部, 晃大 神戸大学

2022.03.25

概要

はじめに
PD-1阻害をはじめとした、がん免疫療法の進歩はめざましい。がん免疫療法でより良い治療効果を得るためには、腫瘍特異的細胞傷害性CD8+T細胞(CTL)が最も.重要な要素であり、ワクチンは、腫瘍特異的CTLを誘導する最も一般的な方法である。腫瘍抗原情報を宿主に提供するために、腫瘍組織のほか、腫瘍に関連するタンパク質、ペプチド、核酸情報などの方法が用いられている。特に、核酸ワクチンは、生体内で効率よく宿主に抗原タンパクを発現させることができ、強い免疫反応が得られる。しかし、核酸ワクチンは特定の抗原情報を必要とするため、必ずしも腫瘍ワクチンとして適しているとは言えない。ネオアンチゲン(腫瘍細胞の遺伝子変異の産物)は、腫瘍ワクチンの分野で、理想的な標的抗原と考えられている。しかし、ネオアンチゲンの遺伝情報を特定するためには多大な労力と時間、費用が必要である。そこで、標的抗原を特定することなく I重瘍溶解液を利用できるタンパクベースのワクチンが優位性を持っていると考える。

ワクチン接種では、通常、宿主の抗原特異的CD8+T細胞を活性化し、その後、メモリー CD8+T細胞を誘導する。このプロセスにおいて、CD8+T細胞がクローン拡大と長期生存を達成するためには、樹状細胞(DC)などの抗原提示細胞(APC)による外来抗原の交差 提示とへルパーCD4+T細胞による免疫学的サポートが必要である。最近の研究で、 invariant Natural KiUer T細胞(iNKT細胞)がこのプロセスを強化することが示されている。iNKT細胞はT細胞受容体(TCR)固有のレパトアを持ち、マウスではTCRa鎖が iNKT細胞特異的TCR6鎖と対になっている。その結果、APC上に発現するMHC様分子であるCD Idに結合したa-ガラクトシルセラミド(a-GalCer)のような脂質抗原を特異的 に認識することができる。α-GalCerが抗原と共に生体内に投与されると、iNKT細胞は CD8a+ DCと相互作用する。そして、これらのDCは、CD4+へルパーT細胞とは異なるメカニズムで、抗原をcross primingし、ナイーブCD8+T細胞をリクルートし、抗原特異的 CD8+T細胞応答を増強する。この概念に基づき、a-GalCerと腫瘍抗原を共存させたがん免疫療法戦略が提唱されている。

マクロファージ、B細胞、DCなど、抗原特異的免疫反応を活性化するAPCの中で、DCは最も強力である。a -GalCerを付加したCD Id発現DCの投与は、a -GalCerだけの投与と比較して腫瘍の成長および転移を抑制し、生存期間を延長することが知られている。α-
GalCerの複数回投与やB細胞によるa-GalCerの提示は、NKT細胞アナジー(不応)を引き起こし、PD-1の発現を増加させ、TNF、IL-2、IFN-γなどの抗腫瘍関連サイトカインの産生を減少させる。一方、DCがa-GalCerのような糖脂質を提示すると、iNKT細胞を Thl表現型に強く偏らせる共刺激シグナルを提示する。a -GalCerを付加したDCを投与すると、iNKT細胞が活性化され、IFN-γ産生が誘導される。a-GalCer-CD Id複合体を発現するDCが強い免疫応答を誘導する可能性がある。

そこで、外来性タンパクを抗原とし、a-GalCerをDCに付加することで、iNKT細胞誘導ワクチンとして作用する可能性があると考え、我々は、オボアルブミン(OVA)全タンパク質をモデル抗原として使用した。マウス骨髄から誘導した未成熟樹状細胞(imDC)にOVA.をエレクトロポレーション(電気穿孔法、EP法)で導入した後、α-GalCerの付加と、リポポリサッカライド(LPS)による成熟を行うOVA-EP-galDCシステムを構築し、有効性を評価した。

結果
マウス骨髄由来imDCにOVAタンパクをEPした。imDCと非蛍光標識OVAをEPした imDCは、顕微鏡的に蛍光シグナルを示さなかった一方、蛍光標識OVAと共培養した imDCと蛍光標識OVAを電気穿孔したimDCでは、蛍光シグナルを認めた(Figure 1A)。 imDCの蛍光シグナルをフローサイトメトリーで定量化すると、蛍光標識OVAを電気穿孔したimDCは、蛍光標識OVAで共培養したimDCよりも高いシグナルを示した(Figure 1B)。

EPは一定の細胞死を引き起こすため、生存率を確認した。EP法を受けたimDCの生存率は、pureなimDCよりも低かったが、OVAと共培養したimDCと比較して有意差は認めなかった(Figure 1C)。

次に、0Τ·1トランスジェニックマウスを用いて、OVAをΕΡしたDC (OVA-EP-DC)が抗原特異的CD8+T細胞応答を引き起こすかを評価した。OWEP-DCは、pureなDCと比較して、OT-1 CD8+ T細胞の増殖を促進した(Figure 1D)O抗原タンパクをEPしたDCが、抗原特異的CD8+ T細胞を効率的に刺激した。

マウスをOVA-EP-galDC等で免疫し、その後、腫瘍抗原としてOVAを発現するEG7細胞株を皮下接種した(Figure 2A)。OVA-EP-galDCは、腫瘍の成長を有意に抑制した。次に、CD8+ T細胞およびNK細胞が腫瘍増殖抑制に及ぼす直接的な影響を評価するために、モノクローナル抗体を用いてこれらの細胞型のそれぞれを枯渴させた(Figure 2B)。CD8+ T細胞の枯渴は、OVA-EP-galDCの抗腫瘍効果を消失させた(Figure 2B、青線)。NK細胞の枯渴は、腫瘍の成長をある程度抑えたが、完全な拒絶は達成しなかった(Figure 2B.黒 点線)。OVA-EP-galDCは、主にCD8+T細胞に依存する形で、皮下腫瘍の完全拒絶を得たと示唆される。

次に宿主のiNKT細胞、NK細胞、DC、T細胞の活性化を評価した。OVA-EP-galDC等で免疫した4日後のマウス脾臓細胞をフローサイトメトリーで調べた(Figure 3A)。galDC またはOVA-EP-galDCでの免疫は、iNKT細胞およびNK細胞の頻度と絶対数が有意に増加した(Figure 3B、Figure S1A)。次に、OVA-EP-galDCが宿主の内在性DCを活性化させるかを確認した。galDCまたはOVA-EP-galDCの投与は、CD86+活性化DC、ならびにCD4(rおよびCD80+活性化DCの数を有意に増加させた(Figure 3C, SID)。a -GalCerを付加したDCで免疫された宿主のiNKT細胞、NK細胞、および内在性DCが効率的に活性化されることが示された。

内在性DCが活性化されると、CD4+およびCD8+T細胞と相互作用し、CD8+T細胞は直接的な抗腫瘍活性を引き出す。そこで、免疫7日後の脾臓における抗原特異的CD8+T細胞の状態を評価した(Figure 3D)。galDCとOVA-EP-galDCは、脾臓細胞の絶対数を有意に増加させ、OVA-tetramer+ CD8+T細胞の割合と絶対数も増加した。OVA-EP-galDCが脾臓の iNKT細胞、NK細胞、およびDCを効果的に誘導した。

OVA-EP-galDC単独では抗原特異的CD8+ T細胞応答が明確に観察されなかったため (Figure 3D,E)、CD45.2+ ΟΎ-1マウス系を用いて抗原特異的Τ細胞が活性化されるかを確認した。OT-1CD45.2+CD8+T細胞をCD45.1+コンジェニックマウスに移植した翌日に、 OVA-EP-galDC等で免疫を行った(Figure 4A)。OVA-EP-galDCは、他と比較してOVA特異的OT-1CD8+T細胞の割合と絶対数を有意に増加させた(Figure 4B)。また、CD8+CD44+ CD62L' KLRG1— CD127+記憶前駆T細胞についても、OVA-EP-galDCは割合と絶対数を有意に増加させた(Figure 4C)。OT-1CD8+T細胞を移入すると、OVA-EP-galDCは脾臓内OVA特異的CD8+ T細胞を効果的に活性化した。

OVA-EP-galDCによる記憶前駆細胞の誘導が確認されたので、0T-1移入マウスを用いて、メモリー CD8+T細胞の誘導に焦点を当てた(Figure 5A)。免疫50日後にマウス脾臓での OVA-tetramer陽性OT-1由来CD45.2+ CD8+T細胞を評価すると、OVA-EP-galDCが最も効率的に誘導していた(Figure 5B)。脾細胞由来CD8+T細胞にOVA刺激を加え、IFN-y産生をELISPOTで確認すると、OVA-EP-galDC投与群におけるIFN- γ産生が最も効率的に促進された(Figure 5C)。OVA-EP-galDCが脾臓においてOVA特異的な記憶T細胞を 効率的に誘導した。

皮膚のTissue resident memory T細胞(Trm細胞)が皮下腫瘍の拒絶反応に重要な役割を果たすことが知られている。OVA-EP-galDCは皮下腫瘍を完全拒絶したので(Figure 2A, B)、皮膚におけるOVA特異的Trm細胞を、OT-1移入マウスを用いて探索した(Figure 6A)。免疫14日後において、OVA-EP-galDCは、非特異的CD8+T細胞を誘導しなかったが(Figure 6B)、OVA 特異的 OΤ·1 CD8+T 細胞(OVA-tetramer+ CD45.2* CD3+ CD8+ Τ細胞)及び ΟΤ-l由来の CD8+ Trm細胞(OVA· tetramer+ CD45.2+ CD3+ CD8+ CD69+ CD103+T細胞)(Figure 6C, 6D)を誘導した。Trm細胞の動態から見ても、OVA-EP- galDCが持続的な抗原特異的抗腫瘍免疫を効果的に誘導した。

考察
以上の結果から、OVA-EP-galDCは効率的なiNKT細胞増強ワクチンであると考えられる。全長タンパク質抗原をワクチンに使用する利点は、患者由来の腫瘍組織の溶解物を使用できることである。一般に、月重瘍抗原の情報を特定することは困難である。しかし、生体内の腫瘍の成長を制御・抑制するためには、腫瘍抗原のマルチターゲッティングが不可欠である。我々の戦略は、腫瘍抗原の情報を特定することなく、広範な腫瘍抗原を標的とすることで、抗原特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導できる可能性がある。本システムを個別化抗腫瘍戦略とするために、現在、腫瘍細胞溶解液を使用することを試みている。

今回、OVA-EP-galDCワクチン単独では、OVA-tetramer+ CD8+T細胞を増加させなかった(Figure 3E) 。その理由として、我々は2つの要因を推測している。1つは、我々の実験系では、OVA-tetramerで検出できないOVA反応性T細胞を調べられていないことである。T細胞受容体レパトア解析など、腫瘍反応性Τ細胞を網羅的に解析する手法が必要である。もう1つは、α-GalCerのアジュバント効果が不十分であった可能性であり、より強力なアジュバント効果を持っiNKT細胞糖脂質リガ:/ドの使用を検討する必要がある。

腫瘍増殖抑制のためには、腫瘍特異的CD8+ T細胞の適切な活性化と維持が不可欠である。メモリー CD8+T細胞は、2っの主要な亜集団に分類される。一つは、末梢血中を循環する Central memory T (TCm)細胞と、Effector memory T (Tem)細胞である。もう一つは、 Trm細胞で、皮膚、肺、肝臓、消化管などに常在する。Trm細胞は、いったん局所抗原に遭遇すると、迅速に反応して抗原特異的な免疫防御を発揮する。さらに、腫瘍部位における Trm細胞の存在は、担癌宿主の良好な予後と相関することが示されている。さらに、マラリア感染に対するペプチドベースのワクチンにa -GalCerを追力Dすると、肝臓におけるTrm細胞の蓄積が促進され、より良い肝保護効果が得られるという報告があり、今回の結果の妥当性が支持された。抗月重瘍免疫にはTrm細胞を強く誘導することが重要であり、我々の1NKT細胞増強ワクチンは、抗原特異的Trm細胞を誘導できる適切な戦略である。

OVA-EP-galDCは皮下腫瘍の拒絶に成功したが、galDC単独では、腫瘍増殖にほとんど影響を与えなかった(Figure 2A, 3C)。同等にNK細胞を活性化できているのも関わらず、このような結果となったのは、このモデルではNK細胞はほとんどエフェクター機能を発揮していないことが示唆された。このため、OVA-EPgalDCを含むgalDCワクチンシステムが NK細胞のエフェクター機能を誘導できるかどうかを詳細に評価し直す必要があった。NK細胞のエフェクター機能は、CD4+およびCD8+ T細胞とは独立した転移性肺腫瘍の制御において重要であることが示されているため、我々は、マウス肺転移モデルでOVA-EP- galDCとgalDCが誘導するNK細胞のエフェクター機能を確認した(Figure S2)。その結果、galDCでもマウスの肺転移の成長を良好に抑制し、NK細胞の抗腫瘍ェフェクター機能が示唆された。また、OVA-EP-galDCワクチン接種後にNK細胞を枯渇きせると、治療効果が減弱した(Figure 2B)。これらの結果から、NK細胞は少なくとも抗原特異的CD8+T 細胞のェフェクター機能において支持的、調節的な役割を担っていることが示唆された。
NK細胞は単独では皮下腫瘍などの成長を抑制するには不十分であるが、我々の系では免疫.調節機能を発揮していることが示唆された。このような抗腫瘍免疫におけるiNKT/NK細胞の機能をより理解するためには、iNKT細胞、NK細胞、DC、T細胞の相互作用を評価し直す必要がある。

結語
樹状細胞にOVAタンパクを電気穿孔法で導入し、a-GalCerを付力Dしたワクチンは、抗原特異的な抗腫瘍免疫を長期間に渡って、効果的に誘導した。

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