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大学・研究所にある論文を検索できる 「CD11c陽性細胞上のSIRPαは実験的自己免疫性脳脊髄炎におけるTh17細胞の分化および中枢神経系での炎症の誘導に重要である」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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CD11c陽性細胞上のSIRPαは実験的自己免疫性脳脊髄炎におけるTh17細胞の分化および中枢神経系での炎症の誘導に重要である

Nishimura, Taichi 神戸大学

2020.09.25

概要

(目的)
慢性炎症性脱髄疾患である多発性硬化症は、末梢のリンパ組織で活性化された自己反応性の免疫細胞が中枢神経系(CNS)に浸潤することで引き起こされる自己免疫疾患である。多発性硬化症の動物モデルとして実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)が用いられており、EAE の発症には、末梢リンパ組織における自己反応性 T 細胞、中でも T ヘルパー17(Th17)細胞の分化誘導が重要であり、この自己反応性 T 細胞が CNS へと浸潤し再活性化することで、脳脊髄炎が誘発されると考えられている。さらに、この Th17 細胞の分化誘導、ならびに自己反応性 T 細胞の CNS への浸潤・再活性化には樹状細胞(DC)の働きが重要であることが明らかになりつつある。DC はプロフェッショナル抗原提示細胞であり、CD11c を高発現する。DC は EAE モデルにおいて末梢での自己反応性 T細胞の活性化とともに、自己反応性 T 細胞の CNS 内への浸潤を制御する“門番”の役割を果たすことが知られている。さらに、一部のマクロファージやミクログリアなども CD11c を発現し、これらの細胞も EAE モデルで CNS 内の炎症を制御する。以上より、EAE モデルにおいて、DC やマクロファージが様々な部位で炎症の誘導に関与することが明らかになりつつある一方、その制御機構には不明な点が多い。

Signal regulatory protein α(SIRPα)は、DC やマクロファージに強発現する 1 回貫通型膜蛋白であり、細胞内領域で細胞質型チロシンホスファターゼである Shp1 や Shp2 と結合する。SIRPα のリガンドである CD47 は全ての細胞に発現している。これまで我々は SIRPα や CD47 を全身で欠損させたマウスにおいて、EAE の発症が著しく抑えられることを報告してきた。前述のように DCやマクロファージが EAE の病態に関与することから、SIRPα がこれらの細胞における機能制御に重要であることが示唆される。そこで本研究においては、CD11c 陽性細胞特異的 SIRPα もしくは CD47 欠損マウスや薬剤誘導性 SIRPα欠損マウスを用いることで、EAE における自己反応性 T 細胞の誘導や CNS への浸潤・再活性化における SIRPα ならびに CD47 の役割について検討を行った。

(方法と結果)
EAE の発症、ならびに炎症の維持における DC を中心とした CD11c 陽性細胞上の SIRPα の重要性を調べるため、本研究では以前作製した、DC 特異的 SIRPα 欠損マウス(SirpaΔDC マウス)を使用した。SirpaΔDC マウスはマウス Sirpa遺伝子の転写開始領域をターゲットとした loxP 配列を有する SIRPα-floxed(Sirpaf/f)マウスと、CD11c のプロモーター下に Cre リコンビナーゼを発現する CD11c-Cre マウスを交配して作製した。EAE の導入には、マウスにミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白由来ペプチド MOG(35-55)と完全フロイントアジュバントの混合物、ならびに百日咳毒素を注射し免疫した。臨床スコアは免疫後 30 日までマウスの臨床症状を 6 段階で評価した。EAE の発症率・臨床スコアと評価したところ、SirpaΔDC マウスではコントロールである Sirpaf/f マウスと比較して EAE の症状の重症化が軽減されていた。これらより、EAE の発症および重症化において、CD11c 陽性細胞上の SIRPα が大きく関わっていることが示された。

次に CD11c 陽性細胞上の SIRPα の欠損がリンパ節における T 細胞の活性化と Th17 細胞への分化に与える影響を調べた。EAE 導入後 10 日目に流入リンパ節の細胞を単離し、細胞表面マーカーをフローサイトメトリーで解析した結果、 SirpaΔDC マウスにおける活性化 T 細胞、ならびに Th17 細胞の数は Sirpaf/f マウスと比較して減少していた。次に CD11c 陽性細胞上の SIRPα の欠損が EAE 発

症時における DC の数や機能に与える影響を調べた。リンパ節において、DC はリンパ節に常在している resident DC と、普段は末梢にいて抗原を捕獲後リンパ節に遊走してくる遊走 migratory DC(mDC)に分けられる。さらに resident DC は 1 型もしくは 2 型コンベンショナル DC(cDC1 もしくは cDC2)に分けられる。以前我々は非炎症下の 2 次リンパ組織において、SirpaΔDC マウスでは cDC2 の特異的減少が認められ、CD11c 陽性細胞上の SIRPα が cDC2 の恒常性の維持に重要であることを報告した。非炎症下と同様に EAE 発症時(day 10)においても、SirpaΔDC マウスでは Sirpaf/f マウスと比較して cDC2 と mDC が減少していた。以上により CD11c 陽性細胞上の SIRPα は EAE 発症時において、 cDC2 と mDC の維持に重要であり、これらの細胞が T 細胞の活性化と Th17 細胞への分化を制御することが示唆された。

続いて CD11c 陽性細胞上のSIRPα が CNS での炎症に与える影響を調べるため、EAE 発症のピークである day 20 の CNS 内の免疫細胞を単離し、細胞表面マーカーをフローサイトメトリーで解析した。Day20 の CNS 内では SirpaΔDCマウスの中枢神経に浸潤しているリンパ球、特に Th1 細胞ならびに Th17 細胞の数が Sirpaf/f マウスと比較して著明に減少していた。また、SirpaΔDC マウスでは、Sirpaf/f マウスと比較してミクログリアやマクロファージの細胞数に変化はなかったが、DC の細胞数は減少していた。これらの結果より CD11c 陽性細胞上の SIRPα の発現は CNS での DC 数の維持やリンパ球の浸潤や再活性化に不可欠であることが示唆された。

これまで得られた結果は、EAE 開始前より既に SIRPα が欠損しているマウスを用いた結果であり、EAE の発症後の炎症の維持に SIRPα が重要であるか不明であった。そこでタモキシフェン誘導下に Cre リコンビナーゼを発現する Rosa26-CreERT2 マウスと Sirpaf/f と交配し、薬剤誘導性 SIRPα 欠損マウス(Rosa26-CreERT2;Sirpaf/f: SirpaiKO)マウスを作製し、EAE 発症前後における SIRPα の重要性の評価を行った。EAE 発症前に SIRPα を欠損した SirpaiKO マウスでは EAE を発症しなかったのに対し、EAE 発症後に SIRPα を欠損させた SirpaiKO マウスの EAE の発症率と臨床スコアはともにコントロールマウスと差がなかった。従って SIRPα は EAE 発症後の炎症の維持には重要でないことが示唆された。

一方、我々は全身性に CD47 を欠損したマウスにおいても EAE 発症に強い抵抗性を示すこと、さらに DC の恒常性の制御には DC 上の CD47 も重要であることを報告している。従って、EAE の発症制御においても DC 上の CD47 の関与が疑われた。そこで以前作製した DC 特異的 CD47 欠損マウス(CD11c- Cre :CD47f/f マウス; CD47ΔDC マウス)を用い EAE による検討を行ったところ、 CD47ΔDC マウスにおいて EAE の発症時期の遅延ならびに臨床スコアの有意な低下を認めた。

(考察)
我々は以前に SIRPα が Th17 細胞の分化に重要な役割を果たしていること、血球細胞上の SIRPα、おそらく DC 上の SIRPα が寄与している可能性があることを報告した。今回の CD11c 陽性細胞特異的に SIRPα を欠損したマウスを使用したデータによって、DC 上の SIRPα が EAE の発症に関わっていることが証明された。また、その原因に CD11c 陽性細胞上の SIRPα が EAE 発症時においても DC の数的制御に重要であり、SirpaΔDC マウスにおいて EAE 発症時の cDC2 や mDC の減少が自己反応性T 細胞の活性化とTh17 細胞への分化に寄与していることが示唆された。

EAE の症状ピーク時の CNS 内の細胞の解析を行った結果より、SirpaΔDC マウスにおいて CNS での炎症がより減弱していることが示された。中枢神経での Th 細胞の浸潤能や再活性化には、ミクログリアやマクロファージではなく DC上の SIRPα が重要であり、CNS への T 細胞浸潤や再活性化の制御をしていることが示唆された。一方で、SirpaiKO マウスでは EAE 発症後に SIRPα を欠損した場合では症状の改善は認めなかったことより、SIRPα を対象にした MS の治療は進行した疾患の重症度の軽減よりは、疾患の再燃の予防に対しては効果的だと言うことが示唆された。

一方で CD47 の全身性欠損マウスは EAE 発症の著しい抑制を認めたのに対し、CD47ΔDC マウスでは発症遅延や重症スコアの低下を認めたものの、全例臨床スコアが陽性であったことから、CD11c 陽性細胞上の CD47 は EAE の発症制御において限定的であり、他の細胞上の CD47 も EAE の発症に関与していることが示唆された。

(結論)
CD11c 陽性細胞に発現している SIRPα は、EAE の発症においては流入リンパ節での T 細胞の活性化や Th17 細胞への分化の制御に、EAE の症状ピーク時においては CNS における DC および T 細胞の浸潤や再活性化の制御に重要である。

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