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大学・研究所にある論文を検索できる 「対捕食者適応によるカメノコハムシ亜科(甲虫目:ハムシ科)の外部形態の進化」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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対捕食者適応によるカメノコハムシ亜科(甲虫目:ハムシ科)の外部形態の進化

Shinohara, Tadashi 神戸大学

2020.09.25

概要

捕食者と被食者の相互作用は生物進化を駆動する要因のひとっであり,被食者では捕食を回避するためのさまざまな戦略が見られる.対捕食者適応による防衛形質の多様化機構を理解するには,近縁種間で多様な防衛形質を持つ分類群を用いる必要がある.カメノコハムシ亜科(甲虫目:ハムシ科)は背面が棘で覆われる種,体の周囲が薄く広がった扁平縁を持っ種,単純な形の種など多様な外部形態を持っ種を含む植食性昆虫の一群である.棘や扁平縁は捕食者に対する防衛機能があると考えられているが,これらの多様化要因については明らかでない.本研究では,カメノコハムシ亜科の外部形態が対捕食者適応を通じて多様化したと仮説を立て,系統的側面および機能的側面から検証を行った.

2章では,防衛形態の多様化をもたらした選択要因を機能的側面から明らかにするために,それぞれの形態の防衛機能を操作実験により検証した.実験では棘と扁平縁を持っ種として,夕ケトゲハムシとイカリヒメジンガサハムシをそれぞれ用いた.これらをシマサシガメ(突き刺し型), ヤミイロカニグモ( 嘘み付き型), アマガエル( 丸呑み型) といった捕食様式の異なる捕食者にそれぞれ与え,棘と扁平縁のアタック回避効果と物理的防衛効果にっいて調べた.その結果,棘を切除したハムシに比べ,棘があるハムシはカエルに対する物理的防衛効果があるものの,サシガメとカエルからアタックされやすい傾向があった.一方,扁平縁を切除したハムシに比べ,扁平縁があるハムシはサシガメとカニグモに対する物理的防衛効果があり,サシガメからアタックされにくい傾向あった.機能的トレードオフ(物理的防衛と引きかえにアタックされやすくなる,あるいは一方の形態で物理的に防衛できる捕食者タイプが他方の形態では防衛できない)の存在と捕食者環境の多様性がカメノコハムシ亜科の防衛形態の多様化に寄与した可能性が示された.

3章では,カメノコハムシ亜科の特異的捕食者であるアカアシッチスガリによって,どのような外部形態の種が狩られているか野外調査により明らかにした.アカアシッチスガリの雌成虫は幼虫の獲物としてカメノコハムシ類を狩り,それを地中の巣穴へ運び込む.大きな獲物を狩るとッチスガリは多くの資源を利用できるが,ッチスガリが営巣する地面は一般的に固く,獲物であるカメノコハムシ類も柔軟ではないため,獲物が巣穴サイズよりも大きければ物理的にそれを巣内に運び入れることが困難となる.大きな獲物を利用するためには巣穴を大きくする必要があるが,これはッチスガリにとってコストとなると考えられる.したがって,体サイズの大きなハムシはアカアシッチスガリによる捕食を回避することができると仮説を立て,ッチスガリの獲物サイズ選好性について検証した.調査は」田市と八千代市におけるッチスガリの営巣地にて実施した.まず潜在餌調査としてツチスガリの営巣地周辺(最大500mの範囲)に生息するカメノコハムシ亜科を調査し,種と個体数を記録した.次に実現餌調査として実際にツチスガリによって狩られたカメ ノコハムシ亜科の種と個体数と記録した.実現餌はッチスガリが運搬中の獲物の調査,および巣内に蓄えられた獲物の調査の2つの方法で実施した(後者は三 田市のみで実施).実現餌調査では,ッチスガリ個体とその巣穴をマーキングして対応づけることにより,実現餌サイズと巣穴サイズの関係を明らかにした.実現餌調査の結果,三田市の調査では実現餌として4属8種(短い棘を持つ2種と扁平縁を持つ6種)が得られた.八千代市の調査では実現餌として2属4種(すべて扁平縁を持つ種)が得られた.いずれの調査地においても潜在餌調査で得られたほとんどの種が実現餌として確認できたが,一部の種は確認することができなかった.全体の実現餌としてカメノコハムシ亜科4属11種が確認でき,このうち9種はアカアシッチスガリの獲物として初記録であった.獲物として確認した種には扁平縁を持つ種 と短い棘を持つ種が含まれていたが, 少なくとも三田市の営巣地周辺では潜在餌調査によって長い棘を持つ種の生息も確認できた. 潜在餌として確認した種のうち長い棘を持つ種のみが実現餌に含まれていなかったことから, 長い棘はアカアシッチスガリによる捕食を回避する機能を持つ可能性が考えられた. さらに,ッチスガリに狩られた実現餌と,営巣地周辺で確認できた潜在餌の頻度の比較から,アカアシッチスガリの獲物選好性の存在が示された.ッチスガリに狩られた獲物は,巣の入り口のサイズよりも有意に小さかった.獲物のハムシ5種について,潜在餌と実現餌の体サイズを比較したところ,獲物のうち最大種であったイチモンジカメノコハムシでは,より小さな個体が選択的に狩られることが明らかになった.一方,小型の種では潜在餌と実現餌の体サイズに有意差はなかった.これは,巣のサイズまたは巣のサイズを拡大するコストにより,アカアシッチスガリでは大型の獲物の利用が制限された可能性を示唆している.カメノコハムシ類に見られる扁平縁はハムシの体サイズを増加させるが,大きな種や個体に対する自然選択はこのような体サイズを増加させる形態を持つ被食者において形態進化をもたらす可能性が考えられた.

植食性昆虫の防衛形態の進化には,寄主植物の種類や,昆虫が隠れ場所として利用する植物の構造など寄主植物形質が影響する可能性がある.4章では,寄主植物の違いが捕食圧を通じて外部形態の多様化をもたらす可能性について系統的側面から検証を行った.カメノコハムシ亜科76 種の核DNA ( 28 S) とミトコンドリアDNA ( COI, COII, 16 S) の塩基配列( 2078 bp) に基づく分子系統樹を用いて分岐年代を推定した結果,本亜科の起源は白亜紀末期から古第三紀初期であると推定された.これは食草となる被子植物が多様化した年代よりも新しく,本亜科が既存の植物に寄主転換を行うことで種分化したことを示唆する.また,外部形態の進化プロセスを推定するため祖先形質復元を行った結果,棘は1回起源であったのに対し,扁平縁は複数回起源であったことが明らかになった.このことは,扁平縁は適応的意義の高い形質で,それを持つことが何らかの利益をもたらしうることを示唆しており,扁平縁がより広い捕食者に対して機能するという2章の結果とも整合性がある.これに対し,棘は扁平縁に比べ利益が小さい,もしくは特定の条件下でのみ利益をもたらすなどの可能性が考えられる.形態形質と寄主植物形質の進化関連を系統種間比較により検証した結果,棘は単子葉植物の利用,扁平縁は双子葉植物の利用と関連しており,防衛形態の有無は解放的なハビタット(葉の表面)の利用と関連していることが明らかになった.これらの結果から,寄主植物形質の違いに応じた異なる捕食者への適応が外部形態の多様化をもたらす可能性が示唆された.

これらの研究結果より,カメノコハムシ亜科における防衛形態の多様化メカニズムが明らかになった.既存の研究では,昆虫の量的に異なる防衛形態に焦点を当てているものが多かった.本研究では量的に異なる形質だけでなく,質的に異なる防衛形態にも着Iし,植食性昆虫における外部形態の多様化メカニズムに関する新たな知見を得た.これら結果は,地球上の生物多様性の大部分を構成する昆虫における,形態の多様性の理解に貢献する.

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