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大学・研究所にある論文を検索できる 「肺血管処理における自動縫合器の適正使用についての検討」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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肺血管処理における自動縫合器の適正使用についての検討

Shimizu, Nahoko 神戸大学

2020.03.25

概要

近年呼吸器外科領域の手術は技術や手術デバイスの進歩により低侵襲化が進んでいる。Video- assisted thoracic surgery (VATS)は従来の開胸手術と比較して疼痛の軽減、機能的・社会的回復を早める点で利点が大きく、その安全性においても多数の報告があり標準的手術として認識されている。それに伴い、肺動脈や気管支に対する自動縫合器の使用頻度は高まっており、安全で簡便な手術が可能となる。しかしながら自動縫合器による血管切離の際、時に血管断端からの滲み出しや断端の破裂等の有害事象がしばしば報告されており、特に呼吸器外科領域手術においては致命的な出血につながる可能性がある。このような有害事象を可能な限り回避することによる安全な胸腔鏡下手術の確立が求められており、我々は肺血管処理における自動縫合器の安全な使用条件について検討を行った。

まず豚心肺摘出ブロックを使用した動物実験を行った。剥離した豚摘出心肺の肺動脈を自動縫合器で切離し、断端の耐圧測定および形状観察により断端の強度を判定した。実際の手術操作で起こりやすい状況として、切離に際し血管にねじりの力が加わった状況(ねじり)と、吊り上げ張力が加わった状況(吊り上げ)を想定し、切離時に自動縫合器が血管に与える負荷とした。断端の強度を、次の 4 条件下で比較した。①負荷なし(A 群) ②吊り上げのみ (B 群) ③ねじりのみ (C 群) ④ねじり+吊り上げ(D 群)。

続いて臨床実験として、2016 年 1 月から 2017 年 12 月に当科で行った、263 例の胸腔鏡下手術ビデオの後方視的検討を行った。肺血管に対して自動縫合器を使用した際の有害事象(断端の破裂、技術的な血管損傷、修復が必要な程度の断端からの血液の滲み出し)の頻度、発生状況等を検証した。また有害事象発生群と非発生群の患者背景を比較検討した。

動物実験では各群 10 本の肺動脈で検討を行った。平均血管径は 4 群間で差を認めなかった。耐圧の平均はA 群:116.5mmHg (77-230)、B 群: 108.1mmHg(58-176)、C 群: 67.1mmHg(43-94)、D 群: 57.8mmHg(35-74)であり、ねじりが加わった例で有意に耐圧が低かった(A 群 vs B 群 p=0.2008、A群 vs C 群 p:0.0002、A 群 vs D 群 p<0.0001)。また、断端形状についてステイプルラインの形成不良を認めたものはA 群:1、B 群:2、C 群:4、D 群:3 例であり、負荷がかかった条件下に形成不良を多く認めた。

臨床実験結果について、計 754 本のステイプルが肺血管に対して使用されており、有害事象は 9 例で発生していた。9 例は全て肺動脈で、血管断端からの滲み出しのみであり、断端破裂等の致命的な出血は認めなかった。発生状況として、9 例中 7 例は肺動脈に、ねじれや吊り上げ等の緊張がかかっていた。

VATS の安全性、低侵襲性に関しては、無作為比較試験も含めて多数の報告があり、呼吸器外科領域手術において確立されている。しかしながら、胸腔鏡下手術においては時に緊急で開胸移行を迫られ、その頻度は 2-14%とされている。出血は開胸移行の主たる原因であり、容易に致命的となり得るため、可能な限り回避することが必要である。自動縫合器は特に VATS において安全で簡便な手術を可能とするが、出血の有害事象の報告が見られる。兼ねてより、使用の際、血管に緊張をかけないことが推奨されてきたが、自動縫合器による血管への緊張と、血管断端の耐久性との関連を検討した報告がなかっ た。そのため我々は自動縫合器の適正な使用条件を検討することを目的とした。

動物実験モデルにおいては、血管への緊張、特にねじれが加わることにより切離断端の耐久性が低下しており、血管断端のステイプル形成不良を多く認めた。ねじれや吊り上げ等の緊張が血管断端に加わることで、ステイプル形状に湾曲が生じ、断端の耐久性低下につながったと考えられた。また手術ビデオの検証においても、血管断端からの血液の滲み出しを認めた症例では自動縫合器使用時に緊張がかかった症例を多く認め、動物実験結果を裏付けるものであった。

実際の手術、特に胸腔鏡下手術においては、胸郭の形状や胸壁の厚さが症例により異なるため、自動縫合器の進入方向に制限が生じ、良好な角度で挿入できない場合がある。そのため、自動縫合器による血管切離に際し、良好な視野を得るために、ねじれや吊り上げ等の緊張がかかることはまれではない。少なくとも自動縫合器作動の際には緊張を解除することが必要である。また少なくともねじれを回避するため、胸腔鏡ポートの追加を厭わないことが重要であると考える。

VATS の広まりとともに、より安全な胸腔鏡下手術が必要とされている。胸腔鏡下手術において重要な役割を果たす、自動縫合器の適正な使用条件について検討した点で、我々の報告は価値のあるものであると考える。安全な手術の確立のため、適切なポート位置の設定や十分な剥離操作により、適切な角度で血管を処理することが重要である。

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