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大学・研究所にある論文を検索できる 「非アルコール性脂肪性肝疾患患者のQOL : 病気の不確かさに焦点を当てた構造と関連要因」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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非アルコール性脂肪性肝疾患患者のQOL : 病気の不確かさに焦点を当てた構造と関連要因

小澤, 直樹 名古屋大学

2021.11.05

概要

①研究背景
非アルコール性脂肪性肝疾患Nonalcoholic fatty liver disease(NAFLD)患者は健康な一般集団と比較して身体的QOLを表すPhysical Component Summary Score(PCS)や精神的QOLを表すMental Component Summary Score(MCS)が低く、C型肝炎患者やB型肝炎患者と比較してもMCSが低いという報告がある。
慢性疾患においては、近年、病気の不確かさの概念が注目され、QOLとの関連性が報告されている。また、慢性C型肝炎患者や進行した肝疾患患者は、病気の不確かさが高いとQOLが低くなることが明らかとなっている。NAFLDは自覚症状に乏しいことや疾患の理解度が低いことから、病気の不確かさが高い可能性がある。しかしNAFLD患者について、病気の不確かさとQOLの関連に焦点をあてた報告はなく関連要因の構造も明らかになっていない。本研究の目的は、NAFLD患者について病気の不確かさを含めたQOLと関連要因の構造を明らかにすることである。

②方法
消化器内科外来診療医がNAFLDと診断した外来通院患者を調査対象とした。
質問紙による調査項目は以下の7種類である。身体面と精神面のQOLについて、SF-8日本語版を用いて評価した。病気の不確かさについて、Mishel Uncertainty in Illness Scale-Community(MUIS-C)を用いた。食習慣について、先行文献やNAFLD診療ガイドラインを基に慢性疾患看護に携わる看護師や肝臓専門医からスーパーバイズを受けながら9項目を独自作成した。身体活動量について、International Physical Activity Questionnaire Short Form(IPAQ-SF)を用いた。慢性疾患における患者のセルフケア能力を測る上で、しばしばHealth Locus of Control(HLC)の概念が用いられる。本研究では日本語版HLC尺度を用いて評価した。5因子(神仏、内的、運、家族、医師)で構成されている。NAFLDに関する知識について、NAFLD治療ガイドラインおよび慢性疾患看護に携わる看護師や肝臓専門医からスーパーバイズを受けながら12項目を独自に作成した。対象者の背景について、学歴、配偶者の有無、就労、夜勤、喫煙歴、栄養指導受講歴の有無、周囲の相談者の有無等を調査した。また、診療録から性別、年齢、BMI値、ALT値等について調査した。

5.統計解析
IBMSPSSVer.26を使用し、有意水準は5%とした。主要評価項目をPCSとMCSとし、副次評価項目を食習慣、病気の不確かさとした。PCS、MCS、食習慣、病気の不確かさを従属変数におき、それぞれの単変量解析で有意差があった項目を独立変数として投入し、重回帰分析を実施した。その際、年齢、就労の有無、性別、学歴に関しては先行研究でQOLとの関連が明らかのため、独立変数として投入し交絡調整をした。加えて、共分散構造分析の一つであるパス解析をAnament of Moment Structures(Amos)Ver.26を用いて実施した。PCS、MCS、食習慣、病気の不確かさ、それぞれの重回帰分析で有意差があった変数をパス図に投入した。探索的モデル特定化を行い、モデル中でAkaike’s information criterion(AIC)が最も低い値を示すモデルを採用した。モデルのデータとの適合度は、X2検定、Goodness of Fit Index(GFI)、Adjusted Goodness of Fit Index(AGFI)、Comparative Fit Index(CFI)、Root Mean Square Error of Approximation(RMSEA)をもって評価した。

6.倫理的配慮
本研究は名古屋大学生命倫理審査委員会の承認を得て実施した。

③結果
1.参加者の概要168名のNAFLD患者を分析の対象とした。男性85名(50.6%)、女性83名(49.4%)で、年齢は平均57.84±SD12.31歳であった。NAFLDに関する知識については、主因子法・プロマックス回転による探索的因子分析を実施し、因子1「原因や治療に関する知識」、因子2「合併症の知識」が生成された。

2.QOLの関連要因重回帰分析の結果、PCSでは、高学歴(標準化偏回帰係数β=0.19)、BMI<25kg/m2(β=0.18)の方がPCSが有意に高かった。MCSでは女性より男性(β=0.24)、相談者有(β=0.15)、良い食習慣(β=0.22)、病気の不確かさが低いほど(β=-0.20)MCSが有意に高かった。

3.食習慣の関連要因食習慣を従属変数とした重回帰分析の結果、決定係数R2は.268であった、男性より女性(β=-0.16)、栄養指導受講経験有(β=0.16)、BMI<25kg/m2(β=0.16)、病気の不確かさが低いほど(β=-0.21)、HLC家族が高いほど(β=0.17)、食習慣が良いことが示された。

4.病気の不確かさの関連要因病気の不確かさを従属変数とした重回帰分析の結果、決定係数R2は.232であった。高学歴(β=-0.19)、相談者有(β=-0.14)、HLC内的が高いほど(β=-0.24)、HLC運が低いほど(β=0.16)、原因や治療に関する知識が高いほど(β=-0.16)、病気の不確かさが低かった。

5.パス解析PCSに影響を与えるパスを示す変数はBMI<25kg/m2(β=0.19)と学歴(β=0.20)で、PCSの決定係数R2は.077であった。MCSに影響を与えるパスを示す変数は男性(β=0.24)、食習慣(β=0.22)、病気の不確かさ(β=-0.19)、相談者(β=0.15)で、MCSの決定係数R2は.174であった。食習慣に影響を与えるパスを示す変数は、男性(β=-0.22)、栄養指導受講経験(β=0.19)、BMI<25kg/m2(β=0.20)、HLC家族(β=0.20)、病気の不確かさ(β=-0.21)であった。病気の不確かさに影響を与えるパスを示す変数は、HLC内的(β=-0.25)、HLC運(β=0.17)、学歴(β=-0.18)、原因や治療に関する知識(β=-0.17)、相談者(β=-0.15)であった。このモデルのX2検定では、X2=62.919、p=.306であり棄却されず、モデルとデータが適合していることを示した。その他の適合度指標値は、GIF=.947、AGFI=.917、CFI=.967、RMSEA=0.023であった。

④考察
MCSの関連要因
本研究では、性別、食習慣、病気の不確かさ、相談者の存在がMCSを予測することが明らかになった。Mishelによると、不確かさで混乱している患者に対して、手がかりや情報をもって医療者が支援するは不確かさの認知の程度に影響を及ぼす。したがって、患者の不確かさを減少させるために、医療者が疾患の原因と結果に関する情報を患者に提供することは重要である。本研究でも、原因や治療に関する知識が高いほど病気の不確かさが低く、先行研究と一致した。病気の不確かさの予測因子の一つに相談者の存在が挙がった。また、周囲に相談者が存在している方が病気の不確かさが低く、MCSが良く、相談者の存在と原因や治療に関する知識の間に正の相関がみられた。このことから、周囲の相談者がNAFLDの原因や治療に関する情報提供を行えばMCSは改善すると考えられる。さらに、病気の不確かさが高いほど食習慣の得点が低かった。先行研究では病気の不確かさにより食習慣のコンプライアンスが低くなることが報告されており、本研究の結果と一致する。これらのことから、NAFLD患者のMCSや食事のコンプライアンスのためには病気の不確かさに着目する必要があることが示唆された。

PCSの関連要因
本研究では、BMIとPCSの間に正の関連がみられ、先行研究と一致した。医療者が肥満改善・予防の患者教育を実施することによって患者のQOLも改善される可能性が示唆された。またPCSと学歴が関連し、先行研究と一致した。他疾患を対象にした先行研究では、学歴が高いほどPCSおよびMCSが良く、学歴が低いほどPCSやMCSも低いという結果が報告されている。その理由として、学歴は自己効力感や経済的資源に関与するため、結果的にQOLにも影響を与える可能性があると考えられている。

研究の限界
本研究は日本の単施設における横断的調査であること、食習慣や身体活動については、対象者の自己記入式調査であり、思い出しバイアスが生じる可能性があること、相談者の定義は広く、特定の職種やサポート内容に限定されていないことから、今後はより詳細なデータを収集し、縦断研究や介入研究が必要である。

⑤結論
NAFLD患者のPCSやMCSの関連要因を考慮して、相談者として関わる医療者は、NAFLDの原因や治療に関する情報を患者に提供し、病気の不確かさを軽減することが、QOLの改善に寄与する可能性があることを示唆した。

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