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大学・研究所にある論文を検索できる 「子宮頸部腫瘍病変における形質細胞の臨床的意義に関する研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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子宮頸部腫瘍病変における形質細胞の臨床的意義に関する研究

河田, 啓 東京大学 DOI:10.15083/0002005093

2022.06.22

概要

[序論]
子宮頸癌はヒトパピローマウイルス(Human Papilloma virus:HPV)の持続感染が原因となり発症することがほとんどであり、子宮頸部上皮内腫瘍(Cervical Intraepithelial Neoplasia: CIN)とよばれる前癌病変を経て5年から10年をかけて子宮頸癌へと進行する。CINは軽度子宮頸部上皮内腫瘍(CIN1)、中等度子宮頸部上皮内腫瘍(CIN2)および高度子宮頸部上皮内腫瘍(CIN3)に分類されており、それぞれが高度病変へと進展する可能性がある一方で退縮する症例も多い。HPVの持続感染や感染の排除において免疫細胞が重要であることは疫学的に証明されており、特にウイルス蛋白に対する細胞性免疫の機能が中心的な役割を担うことが示されている。

腫瘍浸潤T細胞に関しては癌の進展抑制に寄与することが報告されており多くの研究がされてきたが、形質細胞などB細胞系列の固形癌における意義については十分には解明されていない。近年、腫瘍局所における形質細胞やB細胞の意義についても報告がみられるようになってはきたものの、抗腫瘍的に機能するのか或いは腫瘍促進的に機能するのかすら明らかになっていないのが現状である。子宮頸部腫瘍病変についても形質細胞/B細胞系列についての報告はほとんどなく、特に局所微小環境における存在、機能やその意義については解明されていない。

B細胞の表面に発現するB細胞受容体(B cell receptor:BCR)は莫大な数のレパートリーを持ち、抗原特異性を示す部位である。次世代シーケンサーの進歩により、このBCRの遺伝子配列を定量的に評価することが可能になり、配列の多様性等について解析するBCR repertoire解析が近年注目されている。これらを踏まえて、本研究では、子宮頸部病変、すなわちCINおよび子宮頸癌における形質細胞/B細胞系免疫細胞が病変の進行や予後とどのように関連しているかを検討した。

本研究の目的は以下の6項目とした。
1-1.CINの生検検体における形質細胞浸潤について解析し、CINのgradeと形質細胞の関連の有無を横断的に解析する
1-2.CIN患者コホートの検討により、形質細胞浸潤がCINの進展・退縮の予後因子となっているか評価する
1-3.CINの子宮頸部リンパ球中形質細胞数を評価し、BCRのクロナリティを評価する
2-1.子宮頸癌における形質細胞浸潤と予後について検討する
2-2.子宮頸癌の末梢血中グロブリンの予後について検討する
2-3.子宮頸癌患者の腫瘍組織および末梢血のBCRrepertoireについて評価する

[方法]
1-1.CIN患者コホートにおいて登録時に生検を実施し、HE標本において形態学的に浸潤免疫細胞について評価した。さらに、免疫組織化学(Immunohistochemistry:IHC)によりCD138(形質細胞)、CD3(T細胞)およびCD20(B細胞)について評価し、CINのgradeとの関連について検討した。

1-2.CIN患者コホートの予後データを収集し、CIN3への進展や退縮とコホート登録時の免疫細胞浸潤との関連について検討した。

1-3.CIN患者コホートから得られた子宮頸部リンパ球検体に関して、形質細胞やB細胞が単離可能かをflowcytometryにより検討した。さらに、この子宮頸部リンパ球検体に関してBCRrepertoire解析をおこない、局所におけるクロナリティについて評価した。

2-1.子宮頸癌手術症例の腫瘍組織検体に関して定量的real-timereverse-transcrip tase polymerase chain reaction(RT-qPCR)により形質細胞マーカーTNFRSF17について評価することで、局所における形質細胞浸潤と予後との関連について検討した。

2-2.子宮頸癌手術症例について後方視的に解析し、術前の血液検査における血清グロブリン値およびグロブリンとアルブミンの比(Albuminto globulin ratio:AGR)を算出し予後との関連について検討した。

2-3.子宮頸癌手術施行症例6例より腫瘍組織検体および末梢血検体を採取し、それぞれに関してBCRrepertoire解析をおこなった。各症例の臨床病理学的な特徴と比較することで、子宮頸癌におけるBCRrepertoireの意義について検討した。

[結果]
CIN患者コホートの横断的な検討では、CIN3に形質細胞浸潤が有意に増加していることがHE標本の鏡検とIHCの両方で認められた。B細胞については類似した傾向がみられたが、T細胞についてはそのような傾向は認められなかった。

横断的検討で認められた形質細胞浸潤の意義について検討するため、CIN患者コホートのうちCIN1またはCIN2の症例を対象として経時的な解析をおこなった。CIN3への進展については、形質細胞浸潤との関連は認められなかった。退縮については、HE標本の検討では形質細胞浸潤の多い症例は退縮しやすい傾向がみられたが、IHCの検討ではその傾向は認められなかった。CINの進展・退縮に関連した因子としては、CD3陽性細胞密度と退縮の関連のみが統計学的に有意であった。

子宮頸部リンパ球におけるflowcytometryによる検討では、形質細胞(CD19+IgDCD38+群)やmemoryB細胞(CD19+IgDCD38-群)が評価可能であることが確認できたが、これらの数とCINのgradeとの間には有意な関連は認められなかった。子宮頸部リンパ球でのBCRIgGrepertoire解析では、diversityindexの検討においては統計学的有意差は認めなかったものの、形質細胞数の多い検体ほどクロナリティが低い傾向にあることがわかった。

子宮頸癌局所における形質細胞浸潤についてのRT-qPCRでの検討では、統計学的有意差は認めなかったが形質細胞マーカーTNFRSF17の高い症例は予後不良の傾向があった。

子宮頸癌手術症例において、末梢血中グロブリン高値群は有意ではないものの予後不良の傾向があった。AGR低値群は統計学的有意に予後不良であり、多変量解析においてもAGR低値は独立した予後不良因子であることが示された。子宮頸癌手術症例のBCRIgGrepertoire解析では、ほとんどの症例では末梢血中と比較して腫瘍組織におけるクロナリティ上昇が認められたが、一部症例では腫瘍組織におけるクロナリティが極めて低い結果であった。

[考察]
CIN患者コホートの横断的な検討において、CIN3では形質細胞浸潤が有意に増加していることが認められた。CIN3では、HPV感染をしているもののウイルス蛋白質が最小限しか発現していないCIN1とは異なり、ウイルス蛋白質E6やE7が強発現しているため、これらの抗原に対する宿主免疫反応として免疫細胞浸潤がみられることが報告されている。本研究においてCIN3で認められた形質細胞の高浸潤像はこの宿主免疫反応の結果を見ているものと推察される。CIN病変においてこのように形質細胞やB細胞が浸潤していることの報告は本研究が初めてであると考えられる。

次に、形質細胞/B細胞系列の機能を調べるため、子宮頸部リンパ球のBCRIgGrepertoire解析を実施した。この検討では、形質細胞数の多い検体ほどdiversityindexが高くなるという傾向があり、浸潤している細胞数に比例して多クローンの形質細胞が浸潤してきたことが推察され、二次的かつ非特異的に細胞浸潤の可能性が考えられた。ただし、子宮頸部リンパ球の免疫細胞プロファイルが生検検体と同一のものであるか不明である点は本検討の手法としての限界である。

子宮頸癌においては局所における形質細胞浸潤が予後不良と関連する可能性が示唆された。形質細胞浸潤が予後不良と関連しているという既報もいくつかみられるものの、その機序については解明されていない。本研究においてもその点について明らかにすることはできなかったが、局所における炎症と形質細胞浸潤が関連しており、結果的に予後にも影響しているとの考察も可能と考えられた。

一方、末梢血グロブリン高値やAGR低値はいずれも予後不良因子であった。これらの値の意義については十分解明されておらず今後の検討が必要だが、これらは全身性の炎症を反映している可能性があり、結果的に子宮頸癌の予後と関連している可能性が示唆された。

子宮頸癌手術症例のBCRIgGrepertoire解析では、多くの症例で腫瘍組織におけるクロナリティ上昇が認められ、抗原特異的な形質細胞およびmemoryB細胞の局所への浸潤が起きていると考えられた。その一方で腫瘍組織でのクロナリティが著明に低くなっている症例もみられ、この症例の特徴的な病態を反映していると考えられた。この症例はHPV18型陽性であったことから、若年発症が多く癌化の過程が速いなどのHPV18型の発癌形式が抗原特異的変化が乏しいという特徴と関連している可能性も考えられた。CDR3配列の検討からは、症例ごとのバラツキが大きく、症例間で共通して認められるクローンは同定することはできなかった。

本研究により、CINにおいて形質細胞浸潤はCINのgradeとの関連はみられるものの進展・退縮とは関連せず、病変進行の結果として二次的に生じたものと考えられた。子宮頸癌においては、形質細胞浸潤、血中グロブリン値やAGRがバイオマーカーとなりうることを示し、またBCRrepertoire解析では末梢血と比較して腫瘍組織でクロナリティが高いことを明らかにした。

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