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大学・研究所にある論文を検索できる 「骨髄由来免疫抑制細胞であるM-MDSC, G-MDSC, I-MDSCの免疫抑制機能とメカニズム」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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骨髄由来免疫抑制細胞であるM-MDSC, G-MDSC, I-MDSCの免疫抑制機能とメカニズム

Nagatani, Yoshiaki 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
 骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cells: MDSG)は、骨髄系免疫細胞の不均一な集団で、がん患者に多く蓄積され、免疫を抑制することが知られて'いる。がん患者において末梢血中のMDSCの増加が予後不良と関連することが報告されており、MDSCががん患者の生存に関与していることが明らかになっている。これまでの報告では、ヒトMDSCは単球系のMDSC(monocytic-myeloid-derived suppressor cells: M-MDSC)と顆粒球系のMDSC(granulocytic-myeloid-derived suppressor cells: G-MDSC)の2つの集団に分かれると言われていたが、最近の報告では、より未熟な細胞と考えられるMDSC(immature-myeloid-derived suppressor cells: I-MDSC)が3つ目の集団として見つかった。MDSCは複数のメカニズムでT細胞の活性化を抑制することが示されているが、その多くは免疫抑制性の代謝酵素(アルギナーゼ、Indoleamine2, 3-dioxygenase: IDO、inducible nitric oxide synthase: iNOS)の産生を介して行われている。しかしながら、これらの知見はMDSCに対する理解を深めるものであったが、これらの結果は主にマウス実験で得られたものであった。マウスでのMDSCに関する研究結果が必ずしもヒトに適用できるとは限らないため、ヒトの検体を用いたさらなる研究が必要である。特に、ヒ卜の各MDSCの集団(M-MDSC、G-MDSC、Ι-MDSC)の免疫抑制効果やメカニズムの詳細にっいては、把とんど知られていないため、さらなる解明を行うために、我々はヒトの検体を用いてMDSCと各MDSCの集団の免疫抑制機能および抑制メカニズムについて研究を行った。

【方法】
 MDSCおよび各MDSCの集団がフローサイトメトリーにて獲得できるか確認を行い、メイ・ギムザ染色にて、それぞれの細胞の特徴を観察した。表現型は既報よりMDSC(CD11b+CD33+Lin-HLA-DR-M、M-MDSC(CD11b+CD33+Lin-HLA-DR-/lowCD14+CD15-)、G-MDSC(CD11b+CD33+Lin-HLA-DR-/lowCD14-CD15+)、I-MDSC(CD11b+CDSS+Lin-HLA-DR-/lowCD14-CD15⁻)を用いて行った。得られたMDSCと各MDSCの集団における免疫抑制機能とそのメカニズムを評価するために、最初に健康人の末梢血を用いて実験を行った。MDSCまたは各MDSCの集団とT細胞との共培養を用いたT細胞抑制試験(T細胞の分裂抑制、クラスター形成の抑制、IFN-γ産生低下)にて免疫抑制機能の評価を行い、各MDSCの集団の単培養上清中の免疫抑制分子[IL-1受容体アンタゴニスト(Interleukin 1 receptor antagonist: IL-1RA), アルギナーゼ, IL-4, IL-5, IL-10, IL-11, IL-13, CCL17, IDO]をELISA法で測定することでT細胞抑制のメカニズムを明らかにした。次に、これらの結果をがん患者の検体を用いて検証し、最後に健康人とがん患者における各集団の頻度の違いについて調べた。

【結果】
 既知の表現型を用いることで、3つの集団を得ることができた。それぞれのMDSCの集団をメイ•ギムザ染色で染色したところ、M-MDSCは単球に似た大きな馬蹄形の核を持ち、G-MDSCは好中球に似た多形核を持っていた。Ι-MDSCは、N/C比が高く、サイズが小さい未熟な形態であった。健常人のT細胞抑制試験では、M-MDSCおよびG-MDSCは濃度依存的にT細胞の活性化を抑制したが、Ι-MDSCはT細胞の活性化を抑制しなかった。免疫抑制メカニズムを評価する実験では、単培養上清中にM-MDSCではIL-1RAが、G-MDSCではアルギナーゼが高濃度に含まれていた。しかしながら、Ι-MDSCではどの抑制分子の産生も認めなかった。また、どの集団でもIL-4、IL-5、IL-10、IL-11、IL-13、CCL17の有意な濃度の上昇は見られず、M-MDSCとG-MDSCではIDO濃度がわずかに上昇した。がん患者でも健常人の結果と同様にT細胞抑制試験でM-MDSCおよびG-MDSCはT細胞の活性化を抑制したが、I'MDSCは抑制しなかった。また、免疫抑制メカニズムをみる同様の実験においても、M-MDSCではIL-1RAが、G-MDSCではアルギナーゼが著明に上昇していたが、Ι-MDSCでは、これらの産生を認めなかった。最後に、健常人とがん患者における各MDSCの集団の割合を評価したが、がん患者では免疫抑制機能を有するMDSC(M-MDSCおよびG-MDSC)の集団が健常人に比べて有意に増加していた。

【考察】
 IL-1は、単球、樹状細胞、好中球、-T細胞、マクロファージ、内皮細胞など様々な細胞で広く産生される炎症性のサイトカインで、T細胞のIL-1受容体を刺激すると、T細胞の増殖が促進されることが示されている。IL-1RAは、IL-1受容体の競合阻害剤としてT細胞の活性を抑制することができる。実際、ビーズで刺激したCD3+T細胞の増殖は、rhIL-1RAを添加することで、濃度依存的に抑制された。IL-1RAとMDSCの関係について報告している研究は非常に少ない。ある研究グループは、マウスにおいてMDSCがIL-1RAを放出することを報告したが、IL-1RAとヒトMDSCとの関係は知られていない。我々の知る限り、今回の報告は、ヒトのMDSCがIL-1RAを産生することを確認した初めての報告であり、重要なことは、M-MDSCのみがIL-1RA産生集団として同定されたことである。
 Ι-MDSCは、3つの集団の中で最も新しい概念である。従来の他の2つの集団とは対照的に、Ι-MDSCの機能はあまり理解されていない。Ι-MDSCについて評価を行った研究グループは、我々が知る限り2つあるが、ひとつのグループはM-MDSCやG-MDSC同様に免疫抑制機能を有すると報告し、もう一方の研究グループは、I-MDSCはM-MDSCやG-MDSCと比較して免疫抑制機能が非常に弱いことを示した。さらに、I-MDSCは、活性化T細胞からのINF-放出も抑制しなかったことより、I-MDSCが免疫抑制効果を有していないことを示している。相反する結果が報告されているが、我々の結果からは、Ι-MDSCは免疫抑制機能を持たないことが示唆される結果であった。なお、M-MDSCとG-MDSCの培養上清には、それぞれ免疫抑制分子としてIL-1RAとアルギナーゼが検出されたが、Ι-MDSCの培養上清にはIL-1RAとアルギナーゼを含む免疫抑制分子が検出されなかったことは注目に値する。
 健康人でも、少数の免疫抑制機能を持つ細胞集団が存在し、ホメオスタシスを維持して免疫のバランスをとっているが、腫瘍細胞の何らかの影響により、このホメオスタシスが破壊され、免疫抑制機能を持つ細胞集団が増加する。近年、がん患者におけるMDSCの臨床的役割が注目されている。多くの研究で、さまざまな種類のがんにおけるMDSCがモニタリングされ、乳がん、膀胱がん、甲状腺がん、頭頸部がん、非小細胞肺がん患者の末梢血中のMDSCが、健康人のレベルと比較して有意に増加していることが明らかにされた。メタアナリシスでは、末梢血中のMDSC数は、固形がん患者の予後不良の独立した指標であることが判明している。以前の報告と同様に、本研究では、MDSCの総量は、健常人よりもがん患者の方が有意に高かった。特に、MDSC全体に占める機能性MDSC(M-MDSCおよびG-MDSC)の割合は、健常人の割合に比べて、がん患者で有意に増加していた。がん患者では免疫系が抑制されている可能性があるため、これらの結果は妥当であると考えられる。これらの結果から、機能性MDSCは、がん患者の免疫を抑制するための重要な集団であり、がんの治療標的となる可能性があることが示唆された。

【結語】
 IL-1RAとアルギナーゼを分泌するM-MDSCとG-MDSCはそれぞれT細胞の活性化を抑制したが、Ι-MDSCは抑制機能を持たなかった。また、M-MDSCが免疫抑制分子であるIL-1RAを産生することを初めて明らかにした。さらに、がん患者では、機能性MDSC(M-MDSCおよびG-MDSC)の割合が健常人に比べて増加していることも確認した。

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