リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

リケラボ 全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索するならリケラボ論文検索大学・研究所にある論文を検索できる

大学・研究所にある論文を検索できる 「プロ野球投手における肩甲上腕関節内旋制限と肩コンディションの関連性」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

コピーが完了しました

URLをコピーしました

論文の公開元へ論文の公開元へ
書き出し

プロ野球投手における肩甲上腕関節内旋制限と肩コンディションの関連性

Yamaura, Kohei 神戸大学

2021.03.25

概要

はじめに
 投球動作により投球側の肩甲上腕関節には巨大な外力が生ずる。投球動作における上腕の角速度は7250度/秒に到達し、内旋トルクは90Ν·m程度になると報告されている。さらにフオロースルー期には大きな牽引力が肩関節後方の三角筋や腱板、関節包の後方成分に生じ、その牽引力は体重の約1.5倍に相当する。これらの繰り返される外力がプロ野球投手における高い肩関節障害率の一因であると考えられており、プロ野球投手の肩関節障害は障害部位の約28%を占めることが報告されている。また繰り返される負荷と微小損傷により骨および軟部組織に生理的な適応変化が引き起こされ、可動域においては投球側肩関節の内旋(IR)可動域制限と外旋(ER)可動域拡大につながる。近年、非投球側と比較し投球側の20度以上のIR可動域制限はGlenohumeral internal rotation deficit(GIRD)と定義され、肩関節障害リスク因子として臨床的に注目されている。GIRDを呈する投手において肩関節を含めた上肢損傷リスクが高いことは数多く報告されているが、一方で近年のGIRDを呈する投手とGIRDを呈さない投手間における損傷リスクを調査したメタ解析では統計学的な有意差は認めなかったという報告もあり、未だGIRDはその機序を含めて不明な点も多いのが実情である。我々は、GIRDを呈する投手は筋力や筋厚、可動域など肩関節周囲のコンディションに変化をきたしていると仮説を立てた。本研究の目的はプロ野球投手においてGIRDと肩関節コンディションの関連について検討を行うことである。

対象と方法
 対象はプロ野球投手26名とした。平均年齢25.5±5.0歳、身長181.0±5.5cm、体重84.3±7.0kgである。全選手が投手であり、右投げ19名、左投げ7名、平均野球経験年数は17.1±4.7年、平均プロ野球経験年数は4.3±3.6年であった。検査介入時点で肩関節痛がある選手、肩関節障害がある選手、肩関節手術歴の既往がある選手は除外した。
 評価項目は肩関節の可動域、筋力、筋厚とした。可動域に関しては投球側、非投球側の90度外転位におけるER角度、IR角度をデジタル角度計(Shinwa, Niigata, Japan)を用いて測定し、IR減少角度(非投球側IR角度・投球側IR角度)、ER増大角度(投球側ER角度-非投球側ER角度)、Total range of motion;TRM(IR+ER)、TRM減少角度(非投球側TRM角度-投球側TRM角度)を算出した。続いて筋力に関しては、可動域と同様に投球側、非投球側の90度外転位における等尺性筋力としてER筋力、IR筋力をハンディー型ダイナモメーター(Ergo FET, Hoggan Health Industries, USA)を用いて測定し、投球側/非投球側比を算出した。最後に筋厚に関しては、座位における投球側、非投球側の棘上筋(SSP)、棘下筋(ISP)を超音波診断装置(Toshiba Medical, Tokyo, Japan)で測定し、投球側/非投球側比を算出した。
 GIRDの定義として投球側IR制限が20度以上とする報告が一般的であり、本研究においてもIR減少角度20度以上の群をGIRD群(n=12)、20度未満の群を非GIRD群(n=14)としunpaired t-testを用いて2群間における各評価項目の統計学的検討を行った(p<0.05)。また2群間における利き腕側はカイニ乗検定にて統計学的検討を行った(p<0.05)。

結果
 GIRD群、非GIRD群で年齢、身長、体重、野球経験年数、プロ野球経験年数に有意な差は認めなかった。利き腕に関してはGIRD群で有意に右利きが多い結果となった。
 角度計を用いたIRおよびER可動域測定、超音波におけるSSP、ISPの筋厚測定の検者間・検査内信頼性を級内相関係数にて評価したところ、いずれも0.90以上であった。過去の報告より信頼性が0.80-1.00で”very good”とされており、信頼性の高いものであった。
 可動域に関しては、IR減少角度はGIRD群28±5°、非GIRD群5±1°、TRM減少角度はGIRD群8±11°、非GIRD群-12±13°とGIRD群で有意に増加していた。一方でER増大角度は2群間で有意な差は認めなかった。
 筋力に関しては、IR筋力比(投球側/非投球側)はGIRD群1.2±0.2, 非GIRD群1.0±0.1でありGIRD群で有意に増加していた。一方でER筋力比(投球側/非投球側)はGIRD群0.9±0.2、非GIRD群1.1±0.3で有意な減少を認めた。
 筋厚に関しては、SSP筋厚比(投球側/非投球側)はGIRD群0.9±0.1、非GIRD群1.1±0.1、ISP筋厚比(投球側/非投球側)はGIRD群0.9±0.1、非GIRD群1.0±0.1であり、SSP、ISPともヒGIRD群で有意な低下を認めた。

考察
 繰り返される投球ストレスに対する生理的適応として、投手においては投球側IR角度制限とER角度増大を認めることが報告されている。またIR制限は投球直後における急性期にも可動域制限を呈することも報告されている。Burkhartらが提唱した投球側のIR制限であるGIRDという病態が臨床的に注目されている理由とし丁、GIRDを呈する投手において肩関節を含めた上肢領域損傷リスクが高いことが挙げられる。さらにIR制限だけでなくTRM制限を呈する投手においても肩関節損傷リスクが高いことも報告されており、本研究においてはGIRD群では非GIRD群と比較してIR制限だけではなく、有意にTRM制限を生じていた。
 GIRDを呈する要因としては、骨性変化、筋の硬さ、関節包拘縮などが挙げられるが未だ十分なコンセンサスは得られていない。後方関節包とGIRDの関連を指摘した報告は多くなされているが、関節包の肥厚や弾性値との関連が指摘されている。また腱板構成筋であるISPや小円筋、肩甲骨のstabilizerである僧帽筋下部の硬さと可動域制限の関連も報告されており、GIRDの病態として関節包のみならず腱板筋との関連も重要である。本研究の主要な結果はGIRD群においてSSPとISPの有意な筋委縮を認めることである。投球動作においてLate cocking期、減速期において最大負荷がかかり、繰り返される負荷が筋内損傷や炎症を引き起こすとされる。プロ野球投手において、非投球側と比較し投球側の有意なSSPの筋力低下、ISPの筋委縮をきたすことが報告されているが、本研究ではGIRDを呈する投手でSSPおよびISPの有意な筋委縮を認めており、我々の狩猟し得る限りGIRDとSSPおよびISPの筋委縮の関連を初めて調査した研究である。
 プロ野球投手におけるER筋力とIR筋力に関しては投球側のER筋力が減少し、IR筋力が増大することが報告され、このIR筋力とER筋力の不均衡が肩関節障害になり得る可能性が指摘されている。本研究ではGIRD群において非GIRD群と比較しER筋力が有意に減少し、IR筋力は有意に増加していた。
 GIRDを呈する投手において投球側の上腕骨頸部の後捻が増加することが報告されている。また左利き投手における上腕骨後捻は右利き投手と比較し減少することも報告されている。本研究においてはGIRD群では右利きが有意に多い結果となっており、右利き投手の上腕骨後捻の増加が一因となっている可能性が示唆された。本研究は我々の狩猟し得る限りGIRD群と利き腕側の違いを評価した初めての研究である。

結語
 GIRD群では非GIRDと比較し、SSPおよびISPの有意な筋委縮とIR筋力の有意な低下を認め、IR制限だけではなくTRMの有意な減少を認めた。さらに、GIRD群では非GIRD群と比較し有意に右利きが多かった。

全国の大学の
卒論・修論・学位論文

一発検索!

この論文の関連論文を見る