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大学・研究所にある論文を検索できる 「前外側関節包合併損傷の有無による前十字靱帯再建術後の回旋不安定性の比較検討 ‐術後1年における定量評価を用いた調査」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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前外側関節包合併損傷の有無による前十字靱帯再建術後の回旋不安定性の比較検討 ‐術後1年における定量評価を用いた調査

Hiroshima, Yuji 神戸大学

2021.03.25

概要

【背景】
 膝前十字韌帯(ACL)損傷はスポーツで頻度の高い外傷であり、膝関節に前外側回旋不安定性を生じさせることが臨床的に問題となる。この前外側回旋不安定性を消失させるため、一般に手術的加療としてACL再建術が適応とされる。しかし、これまでのACL再建術の改良を経てもACLの再建術後に前外側回旋不安定性が残存する報告が散見されている。この原因としてACLに次ぐ前外側回旋不安定に対する二次的制動因子の合併損傷の存在が示唆されている。近年、この二次的制動因子の1つとして前外側関節包靱帯(ALC)という組織の関与が示唆されている。しかし、ALCの生体力学的機能に関しての検討は未だ十分ではなく、特に臨床においてALC合併損傷がACL再建術術後の前外側回旋不安定性に対する影響を調べる研究が必要である。
 臨床的に前外側回旋不安定性は徒手検査であるPivot-shiftテストによって行われることが一般的であるが、検者の感覚に委ねられる徒手検査であり、定量的評価・比較が困難であった。しかし、近年開発された電磁器センサーを用いた定量的評価システムは、Pivot-shiftテスト時の脛骨の加速度を計測し、Pivot-shiftテストを定量的評価できることが報告されている。
 そこで、この研究の目的はALC合併損傷がACL再建術後の回旋不安定性に対する影響を定量的Pivot-shiftテスト評価によって比較検討することである。

【対象と方法】
 対象は2014年から2017年の間にACI^再建術を受けた片側性ACL損傷症例62症例。同側または対側の膝において、骨折、軟骨損傷、後外側構成体損傷、および内側側副靭帯および後十字靭帯の損傷を含む他の膝靭帯損傷を併発している者は除外された。
 ACL損傷が臨床所見及びMRI所見によって確認が行われた後、解剖学的再建方法を用いてACL再建術が実施された。半月板の状態に応じて、半月板修復または半月板切除術が追加された。ACL再建術前麻酔下に、Pivot-shiftテスト、を施行し、従来側のIKDCによる臨床的4段階評価(none(⁻)、glide(+)、dunk(++)、gross(+++))および電磁気センサーを用いた定量的評価の2つを同時に行った。ALC損傷に対する追加の治療は行わなかった。ACL再建方法は自家ハムストリング移植腱を使用した解剖学的二重束再建40例と解剖学的一重束再建20例、並びに自家骨-膝蓋健-骨移植腱を使用した一重束再建術2例であった。
 術後約1年において当科での臨床慣例に従い、ACL固定用のスクリュー除去手術および関節鏡検査を施行した。ACL再建術前と同様にPivot-shiftテストの臨床的評価と定量的評価を全身麻酔下に施行した。IKDCによる臨床的評価は、定量的評価の結果とMRIによって決定されたALC合併損傷の有無を知らない1人の検者によって行われた。
 Pivot-shiftテストの定量的評価方法は以下の通りである。電磁気センサーシステム(JIMI神戸、日本Arthrex社、東京)を使用した。このシステムは、電磁波を発信する送信機と3つの受信機が含まれている。受信機のうち2つは、プラスチック製のブレースを用い大腿部と下腿部に固定され、それぞれ大腿骨と脛骨の動きを追跡するために使用された。3番目の受信機は、大腿骨と脛骨の7つの解剖学的ランドマークの位置をPC上の仮想3次元空間に登録するために使用された。大腿骨と脛骨の3次元位置は、登録されたランドマークの位置と体表上の受信機の位置関係に基づいて仮想空間上で認識された。
 ALC損傷合併の存在は、Pivot-shiftテストの臨床的評価または定量的評価を知らない状態でACL再建術前に撮影されたMRIで診断された。MRI診断は、Helitoらの方法を使用して単一の検者によって実施された。
 測定データの分析は、SPSSを使用して実行された。Student-t検定を使用して、ALC損傷を伴う群と伴わない群間の脛骨加速度を比較した。ピアソンのカイ2乗検定を使用して、Pivot-shiftテストの臨床評価におけるグループ間の差異を評価した。統計的有意性は、両側検定でp<0.05に設定された。
 研究前のサンプルサイズ計算は、同じ電磁気センサーを用いたシステムを使用してPivot-shiftテス卜の定量的評価を行った過去の研究に基づいて設定された。Pivot-shiftテスト中の脛骨の回転加速度0.5m/s2の差を検出するには、群間の比較に両側Student-t検定を使用し、検出力と有意水準をそれぞれ0.90と0.05に設定すると、合計サンプルサイズは46膝が必要と算出された。0.5m/sec2の差は、過去の報告におけるPivot-shiftテスト陽性症例の平均的な左右差の値であるため、臨床的に有意であると想定した。

【結果】
 62人の患者(男性26人と女性36人、平均年齢25.6土11.8歳)が対象となった。ALCの合併損傷は62膝中26膝で確認された。性別、年齢、付随する半月板損傷、外科的手法、および損傷から手術までの時間において、ALC合併損傷の有無で分けた2群間に統計学的有意差は無かった。Pivot-shiftテストの術前臨床評価の結果は:glide(+)33人、clunk(++)26人、gross(+++) 3人であり、1年間のフォローアップでは、臨床評価は両群ともに改善があり、50人の患者でnone(⁻)であり、他12人の患者でglide(+)と評価された。
 ALC合併損傷がある群とない群のPivot-shiftテストの臨床評価に差は無かった。
 Pivot-shiftテスト中の脛骨加速度は、手術前の計測では両群間に有意差は認めなかった(ALC合併損傷あり群:1.1±0.7m/s3, なし群:1.4±1.1m/s2, n.s.)。同様に、術後1年のフォローアップ時の計測でも両群間に有意差は認めなかった(ALC合併損傷あり群:0.6±0.3m/s2, なし群:0.8±0.6m/s2, n.s.)。

【考察】
 本研究の最も重要な所見は、ALC損傷の合併の有無はACL再建術後1年で膝関節の回旋不安定性に有意な影響を及ぼさなかったということである。先行研究において、我々はALC合併損傷は術前のACL損傷膝の回旋不安定性への影響は無かったと報告した。今回はさらにACL再建術後においても回旋不安定性に対するALC合併損傷は影響しなかったことを実証した。
 ACL再建後に膝関節の回旋不安定性に対するALC合併損傷がどのように関与するかは様々な議論がある。例えば、近年新たに発見され たと報告された前外側靭帯(ALL)の存在に対する議論であるが、ALLは以前からの解剖学的表現におけるALCに同義であると見なされている。Sonnery-CottetらはALCが膝関節の回旋不安定性を抑制する効果があったことを示し、ALLの再建術を奨励している。一方で、SchonらはACLとALL再建を行うことにより外側関節面の接触圧が上昇するため、関節への長期的悪影響を憂慮すると推奨しないとしている。
 最近の臨床研究では、ALC損傷を合併したACL損傷がより大きなPivot-shiftを誘発したことは報告しているが、ALC合併損傷のACL再建術後にわたる長期の影響は未だ十分な評価がなかった。さらに、ALC合併損傷の自然経過も不明のままである。ALC損傷の自然治癒はACL再建後に起きている可能性も考えられる。
 これまでの過去の研究ではPivot-shiftテストの臨床評価は検者の主観によって決定されていたため、ばらつきも多く、信頼性に関しては疑問符が付く。したがって、徒手検査の結果を臨床診療へ反映させることには慎重を要する。今では、Pivot-shiftテスト中の膝関節の回旋不安定性を定量的に評価するために、さまざまな非侵襲的計測機器が開発されている。この研究で使用した電磁気センサーを用いたシステム、3軸加速度計であるKiBA(Orthokey, イタリア)、iPadアプリによる画像解析、およびナビゲーションシステムなどが挙げられる。いくつかの測定システムでは、ALC合併損傷が術前のACL損傷膝における回旋不安定性に及ぼす影響を検出している。iPadのシステムで評価した報告では、ALC合併損傷のあるACL損傷膝のPivot-shiftテスト中の外側コンパートメントでの脛骨前方移動量の増加が検出されたと報告された。Pivot-shiftは単純な動きではなく、脛骨の前方移動、回旋角度変化、加速度など、いくつかの計測値で評価できると報告されている。我々は過去にそれらの評価項目を比較し、加速度がPivot-shiftの臨床的評価と最も高い相関をすることを報告している。加速度の計測を用いた今回の研究において、ACL再建膝のPivot-shiftに対するALC合併損傷の影響は殆どなく、この合併損傷に対しては積極的に観血的治療を要さないことを示唆している。
 本研究の限界としては、まず、フオローアップ期間が術後1年と短いことが挙げられる。従って、ALC合併損傷が膝関節に及ぼす長期的な影響は不明なままである。第2に、今回研究においてACL再建手術時に、MRI診断の代わりにALC合併損傷の有無を直視下に術中解剖で確認していないことである。しかし、過去の報告から、ALC合併損傷の有無でACL再建術前膝の回旋不安定性に差がなかったことを考慮すると、さらなる手術侵襲を加えTALC合併損傷を検討することは望ましくないと考えられる。また、MRIでのALC合併損傷の診断率は比較的悪く、検者によってばらつくことが挙げられる。この研究では単独の検者によってMRI診断が行われた。ALCのMRI検出に関しては、Helitoらは、97.4%でALLを特定できるとした一方、Tanejaらはわずか51%の検出率と報告している。このことから、MRIを使用したALC合併損傷の診断率は、MRIの画質と検者の経験に非常に影響を受けやすい可能性があったので、この研究では、ばらつきを避けるために単独の検者を用いた。最後に、ACL再建術は一重束、二重束の両方の術式でALC合併損傷の有無を考慮せずに行われている。ランダムに2つの術式が使用されたにもかかわらず、1年間のフォローアップでALC合併損傷の有無でACL再建膝の回旋不安定性に関して差は観察されなかった。
 本研究結果に基づくと、ALC合併損傷がMRIで検出された場合でも、回旋不安定性を改善するためにACL再建術に加えたALC損傷への追加治療は必要としないと考えられる。

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