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大学・研究所にある論文を検索できる 「髄膜腫の解剖学的発生部位、病理診断に基づく遺伝子解析研究」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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髄膜腫の解剖学的発生部位、病理診断に基づく遺伝子解析研究

岡野, 淳 東京大学 DOI:10.15083/0002002356

2021.10.13

概要

1. 序文
 髄膜腫は中枢神経系原発腫瘍のうち最多の腫瘍であるが、その病理診断(WHO grade )や腫瘍局在の多様性により治療戦略はいまだに議論の余地がある。病理診断は悪性度でWHO grade 1~3に分類され、その中でも15種類のsubtypeが存在する。また、髄膜腫はarachnoid cap cellから発生するとされ、中枢神経系の髄膜、硬膜が存在する部位のどの部位からでも発生し得る特徴があるため、その部位によって周囲の重要血管や、神経、脳組織との関係性によって手術摘出の難易度が大きく異なってくる。そのため、髄膜腫の治療戦略には、WHO grade 、手術摘出度や腫瘍部位などの要素が関連し、いまだに議論の余地がある。そのために、髄膜腫の分子生物学的特徴に基づいた病態解明が必要である。髄膜腫の分子生物学的特徴として、1972年に22番染色体長腕の欠失が報告されたのが最初である。その後同染色体上の腫瘍抑制遺伝子であるNF2の変異が孤発性髄膜腫の50-70%に認められることも報告され、これらの結果腫瘍抑制タンパク質であるmerlinが減少することが髄膜腫発生の要因であるとされた。昨今の次世代シークエンサーを用いた遺伝学的解析手法の発展に伴い、髄膜腫に関しても網羅的な腫瘍ゲノム解析が行われてきた。上記に述べた22qLossやNF2以外に、TRAF7、AKT1、KLF4、SMOの4遺伝子が、NF2とは相互排他的に髄膜腫発生に関連するdriver genetic mutationsであることが2013年に報告された。またその後、mTOR pathwayに関連するPIK3CA、AKT3、PIK3R1や、RNA polymerase Ⅱに関連するPOLR2A、SMARCB1、Sonic Hedgehog pathwayに関連するSUFU、PRKAR1Aなど様々な遺伝子の変異が、髄膜腫のdriver genetic mutationsであることが報告された。それに伴い関与するpathwayの解析や、ゲノムワイドなメチル化のstatusが髄膜腫発生及び、予後予測にも重要であることが近年報告されている。しかし、これらはいずれも大規模な他施設共同研究であり、髄膜腫発生や悪性化に関して非常に重要な解析である一方で、実際の臨床にこれらの分子生物学的特徴がどのように関与するかに関しては詳細に検討されていない。そのため、今後は髄膜腫の生物学的特徴が臨床に与える影響を検討し、いまだに議論の余地がある髄膜腫治療方針決定の一助とすることや、更には分子標的治療薬を含めた悪性髄膜腫に有効な薬物開発が望まれる。そこで本研究の目的は、当施設における過去の髄膜腫症例の、今まで報告されてきた原因遺伝子(AKT1, KLF4, SMO, POLR2A、NF2)の変異や22番染色体長腕欠失の染色体異常と、病理診断、腫瘍部位、再発などの臨床的な指標との関連性を包括的に調べ、正確にprofilingを行うことで、これらの分子生物学的特徴が臨床経過に与える影響を調べることである。また、これらの遺伝子異常や、染色体異常が腫瘍再発と関連するバイオマーカーとなり得るかを、腫瘍再発の予後解析を通じて調べ、髄膜腫治療戦略の向上を目的としたものである。

2. 方法
 本研究の対象は、2000年1月から2017年7月に東京大学医学部附属病院脳神経外科で手術を施行し病理診断で髄膜腫と診断された全499症例のうち、凍結検体が得られ、初回手術症例であり、かつ放射線誘発性、神経線維腫症2型、多発髄膜腫患者を除いた269症例が対象となった。そのうち241症例からは血液よりリンパ球DNAを抽出した。症例の性別、年齢、腫瘍摘出度(Simpson Grading)、追加治療の必要性(手術、放射線、化学療法)、腫瘍再発、再発までの期間、外来でのfollow up期間、病理診断を診療記録及び、手術記録より後ろ向きに検討した。AKT1、KLF4、SMO、POLR2A変異はmutational hotspotsをサンガーシークエンス法で解析した。またNF2変異は各exonに対応したprimerを作成しサンガーシークエンス法で解析を行った。また、22qLossはマイクロサテライト解析を用いて解析を行った。NF2遺伝子の存在する22番染色体長腕上のマイクロサテライト配列D22S268、D22S1163、D22S929、D22S280、D22S282をターゲットとし、PCRに使用するprimerはGenome Database上の配列を用いて作成した。

3. 結果
 年齢は58.0(±2.2)歳、女性192症例(71%)、男性77症例(29%)で、平均follow upは50.4か月であった。頭蓋底症例は171症例で、頭蓋冠症例は98症例であった。頭蓋底症例のうち前頭蓋底病変が18症例、中心部病変が84症例、外側病変が34症例、後方病変が35症例であった。頭蓋冠症例のうち正中病変が56症例、大脳円蓋部前方病変が39症例、大脳円蓋部後方が3例であった。WHO grade 1が244症例、grade 2が25症例、grade 3は0例であった。grade 1のうちmeningothelialが137例、transitionalが49例、fibrousが49例、angiomatousが5例、microcysticが1例、psammomatousが3例、grade 2のうちatypicalが23例、chordoidが1例、clearcellが1例であった。269症例のうちAKT1変異が29例、KLF4変異が16例、SMO変異が1例、POLR2A変異が17例であった。NF2変異+22qLossが87例、NF2変異のみは19例で、22qLossのみが53例であった。本研究で調べた遺伝子異常や、22qLossのいずれも認めなかった症例は48例(17.8%)であった。
 Meningothelialは前頭蓋底病変で13例(68.4%)、頭蓋底中心病変で59例(71.1%)と多かった。一方でfibrousは頭蓋冠中心病変で14例(25.0%)と多く、WHO grade 2は頭蓋底のうち特に外側病変で8例(23.5%)、後方病変で4例(11.4%)と多かった。また頭蓋底病変と、頭蓋冠病変で比較すると、meningothelialは頭蓋底で101例(59.1%)、頭蓋冠で36例(36.7%)と頭蓋底で多かった。(Fischer正確検定;5.9×10-4)一方でfibrousは頭蓋底で25例(14.6%)、頭蓋冠で24例(24.5%)(Fischer正確検定; 4.9×10-2)と頭蓋冠で多かった
 腫瘍局在と遺伝子異常に関して、頭蓋底病変と頭蓋冠病変に関して比較すると、AKT1、KLF4、SMO、POLR2A変異は1例を除いて全て頭蓋底病変で認めた。一方で頭蓋冠病変のうち87%はNF2変異+22qLoss又はNF2変異のみ、または22qLossのみのいずれかであった。AKT1, KLF4, SMO, POLR2A変異を持つ症例は62例中47例(75.8%)がmeningothelialであった。またこれらの症例にはfibrousやWHO grade 2の症例は1例も存在しなかった。一方でNF2変異や、22qLossを持つ症例ではmeningothelialやtransitionalも発生する一方でfibrousやWHO grade 2髄膜腫を認めた。
 これらの遺伝子異常や22qLossと腫瘍再発の関連性を評価した。それぞれの因子の有無で無再発生存率をLog-rank検定で評価すると、SMO変異群、POLR2A変異群で無再発生存率が低い結果となった。また、患者背景、病理、腫瘍局在、遺伝子変異などの要素に関して腫瘍再発リスクとなるかに関してCox regression modelを用いて単変量、多変量解析で評価した。多変量解析では、WHO grade ≧2、Simpson grade 1-3、POLR2A変異が腫瘍再発に関連する因子である結果となった。
 本研究では、いままで詳細に検討されてこなかった解剖学的発生部位、病理診断、遺伝子異常の関連性を包括的にかつ詳細に検討を行い、その結果これらの相互間の関連性を見出した。正常髄膜は頭蓋底と頭蓋冠で由来となる細胞が異なることが知られているが、正確な分布は解明されていない。これらの由来となる細胞の相違により、遺伝子異常に対する感受性など、髄膜腫発生の機序が異なる可能性が示唆されるが、さらなる研究が必要である。また、本研究で解析を行った遺伝子異常のなかでPOLR2A変異が髄膜腫再発の予後不良因子である可能性を発見した。しかし、POLR2A変異が髄膜腫において生物学的にどのような意味をもつかに関しては今後解明が必要である。
 これらの臨床データ及び、分子生物学的評価を行うことで、今後の髄膜腫治療戦略の決定の一助となるとともに、更なる研究を進め分子標的治療薬への応用などを含めたprecision medicineへの発展が期待される。

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