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大学・研究所にある論文を検索できる 「神経線維腫症2型の臨床的・遺伝的背景の解析」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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神経線維腫症2型の臨床的・遺伝的背景の解析

寺西, 裕 東京大学 DOI:10.15083/0002002362

2021.10.13

概要

背景: 神経線維腫症2型(Neurofibromatosis type 2: NF2)は両側の聴神経腫瘍、多発神経鞘腫、多発髄膜腫を特徴とした常染色体優性遺伝の遺伝性腫瘍症候群である。現在までに根治治療薬は無く、経過とともに確実に機能予後を悪化させ、最終的に死に至らせる予後不良な疾患である。
 NF2の合併病変は中枢神経領域以外にも、末梢神経領域、皮膚病変、眼領域などと多岐に及ぶ。また臨床症状では聴力障害を中心に、嚥下障害、歩行障害、末梢神経障害、感覚低下、視力障害が起こる。
 治療法に関して根治治療法は無く、外科的切除術や放射線治療が行われている。近年分子標的薬治療薬の複数の治験が現在進行形で行われている。
 疾患責任遺伝子は第22番染色体長腕22q12に存在するNF2遺伝子で、germline mutationにより疾患が引き起こされる。
過去の報告によるとNF2遺伝子germline mutation typeの分布はtruncating(nonsense mutation, frameshift mutation): 21.5%、large deletion: 10.9%、splice site mutation: 15.5%、missense mutation: 6.2%、somatic mosaicism: 17%で、NF2遺伝子germline mutationが検出されないunknownの割合は35-40%程度で比較的高頻度である。
 過去のNF2患者生命予後に関する解析が海外から多数報告があるが、本邦からはほとんど無い。予後不良遺伝的因子はtruncating mutation、5末端のsplice site mutation、一方でmissense mutation、somatic mosaicism、3末端のsplice site mutationは予後良好因子と報告されている。また予後不良臨床的因子は若年発症と、頭蓋内髄膜腫の合併と報告されている。
 NF2に対する遺伝子解析研究においての課題は3つあると考えた。まず日本だけでなくアジアからもNF2遺伝子解析の報告は少なく、アジアと欧米諸国とのphenotypeの違いやmutationのプロファイルの違いは明らかになっておらず、日本のNF2患者を対象にした遺伝子解析研究を行う意義は大きいと考える。次に診断基準上NF2と診断されるが、NF2遺伝子germline mutationが検出されない例の多くはNF2遺伝子体細胞モザイク(変異allele頻度<50%)と言われている。しかし低頻度のNF2遺伝子変異alleleを詳細に検出している報告はほとんどない。最後に近年NF2の予後は治療および診断技術の発展により改善傾向で、いかにADLを保つかが重要となっているが、機能予後と遺伝的因子の関連に関する報告は非常に少ない。

 目的: 我々は日本人NF2患者の臨床的・遺伝的背景の解析を通じて、NF2 germline mutationが検出されない例におけるNF2遺伝子体細胞モザイクの診断を行い、さらにNF2患者の遺伝的因子と機能予後の関連解析を本研究の目的とした。

 対象: 2000年1月から2017年12月までに東京大学医学部附属病院でNF2と診断された75名の患者である。患者からの同意取得後に採取及び抽出した末梢血DNA及び腫瘍DNA(手術施行患者のみ)に対して、NF2遺伝子に対するダイレクトシークエンス及びMultiplex ligation-dependent probe amplification(MLPA)法を行った。この解析でNF2遺伝子germline mutationや体細胞モザイクが検出されなかった例の末梢血DNA、腫瘍DNA、毛根及び口腔粘膜DNA(新たに採取抽出)に対してターゲットアンプリコンシークエンスを行った。体細胞モザイクの診断基準としてはターゲットアンプリコンシークエンスのエラーの可能性も考慮し、NF2遺伝子の低頻度の変異alleleが末梢血/腫瘍/口腔粘膜/毛根DNAの内、異なる2つ以上の組織DNAで同じvariantが検出された場合を「NF2遺伝子体細胞モザイク」と診断、末梢血/口腔粘膜/毛根DNAの内、1つの組織DNAでのみ検出された場合は「NF2遺伝子体細胞モザイク疑い」、腫瘍DNAのみで変異が検出された場合は「NF2遺伝子体細胞モザイクと診断できない」とした。
 臨床解析では臨床所見および合併病変の分布、機能予後(Karnofsky Performance Status (KPS)、聴力、嚥下機能、歩行機能)、頭蓋内神経鞘腫の増大速度、総治療回数で評価し、遺伝的因子との関連解析を行った。
 統計学的解析はR, V.3.1.2(http: //www.R-project.org)を用いて、各機能が温存されている時間をKaplan-Meier method/log-rank testを用いて解析、機能予後に影響を及ぼす因子に関してはCox proportional hazard modelを用いた単/多変量解析を行った。

 結果: 現在診療録のデータ不十分であるなどの理由から27名が除外され全48名の患者に対して臨床的遺伝的解析を行った。
男性は19名であり、フォローアップ期間は15.0±6.6年、発症年齢は23.4±12.5歳であった。合併病変は両側聴神経腫瘍(100%)、脊髄神経鞘腫(68.7%)、その他脳神経鞘腫(64.5%)、頭蓋内髄膜腫(52.0%)、白内障(8.3%)、非腫瘍性末梢神経炎(4.1%)、皮膚皮下病変(60.4%)であった。平均頭蓋内病変摘出回数は2.66±3.25回/人、平均脊髄病変摘出回数は0.81±1.14/人、平均放射線治療回数は0.79±1.12回/人であった。
 NF2遺伝子germline mutationは28人(58.3%)に検出された(truncating mutation(12人: 25.0%)、large deletion(4人: 8.3%)、splice site mutation(9人: 18.7%)、missense mutation(3人: 6.2%))。腫瘍DNA解析によるNF2遺伝子体細胞モザイクと診断されたのは2人: 4.1%であり、18人: 37.5%はundetectedであった。
 NF2遺伝子germline mutationが検出されない18人の内、末梢血DNA(18検体)、毛根由来DNA(11検体)、口腔粘膜由来DNA(11検体)、腫瘍DNA(4検体)に対してターゲットアンプリコンシークエンスを行った。その結果低頻度のNF2遺伝子変異が検出されたものは11例であった。よって最終的な結果はNF2遺伝子germline mutation: 28人(58.3%);[内訳はtruncating(12人: 25.0%)、large deletion(4人: 8.3%)、splice site mutation(9人: 18.7%)、missense mutation(3人: 6.2%)]、NF2遺伝子体細胞モザイク13人(診断8人、疑い5人: 27.1%)、undetected cases(7人: 14.5%)となった。
 臨床所見と遺伝的因子の関連解析結果では各機能予後の温存期間はNF2遺伝子mutation typeによって有意な差が認められた。NF2患者機能予後に影響を及ぼす因子に関する解析ではNF2遺伝子mutation typeと、発症年齢が主な機能予後の予測因子であることが分かった

考察:
 臨床所見解析の結果、NF2患者の白内障および非腫瘍性末梢神経炎の合併率は8.3%、4.2%と低く、また家族歴がある患者の割合は6.2%と低かった。これまでの海外からの報告と比較すると、白内障および非腫瘍性末梢神経炎の割合は少なく、集団差がある可能性が示唆された。
 遺伝子解析結果ではNF2患者における体細胞モザイクを正確に診断するために、様々な正常組織(末梢血、毛根、口腔粘膜)DNAと腫瘍DNAを対象にターゲットアンプリコンシークエンスを用いて1%レベルのNF2遺伝子変異の検出を行った。その結果過去の報告と比較すると体細胞モザイクの診断率は高く、様々な正常組織DNAをターゲットアンプリコンシークエンスの解析対象に加えたことにより診断率が上げられる可能性が示唆された。
 過去の報告と比較するとtruncating、splice site、missense、large deletionの頻度に大きな差はなく、体細胞モザイクの診断率が高く、undetectedの割合が少なかった。過去のNF2遺伝子体細胞モザイクの検出は主に腫瘍DNA解析によるものであったのに対し、ターゲットアンプリコンシークエンスを用いた診断報告は2報告しかない。また末梢血/腫瘍DNA以外の様々な複数の正常組織DNAを解析対象とし、ダイレクトシークエンス、MLPA、ターゲットアンプリコンシークエンスを行った報告はない。また3人の患者では末梢血DNAで変異が検出されないものの、毛根および口腔粘膜DNAで低頻度NF2遺伝子変異が検出され、かつ同部位の変異が同患者の腫瘍DNAにおいて高頻度で検出された。過去に同様の報告は無く、世界初の報告となる。今後は検出されなかった検体に対してread数を上げての再シークエンスを行い、またvariantの部位が分かっている場合はDigital PCR及びSNaPshotなどの方法で再検索し、より詳細な解析を行っていきたい。
 遺伝子解析結果と臨床所見との関連解析の結果では、「NF2遺伝子体細胞モザイクもしくはundetectedの群」は「NF2 germline mutationを持つ群」に比較して合併腫瘍が少なく、特に頭蓋外腫瘍および皮膚病変が少ないことが新たに分かった。また患者機能予後や頭蓋内神経鞘腫増大速度に関する解析でも「体細胞モザイクおよびundetected」の群で有意に軽症であることが新たに分かった。
 さらに本研究の結果から本研究48症例を「NF2遺伝子mutation type」と「発症年齢」から4つのグループに分け、有効聴力温存期間をKaplan Meier method / log-rank testで比較すると、特に「NF2遺伝子mutation typeが“Mosaicism or Undetected”であり、かつ”発症年齢≧25”」であるグループがその他のNF2患者と比較してほとんど聴力が悪化しないということが分かった。今後さらに大規模の異なる集団で評価する必要があるものの、この結果は「NF2患者は必ず聴力が失われる」という一般概念とは大きく異なる事実であり、社会的意義は大きいと思われる。これによりNF2患者機能予後をNF2遺伝子mutation typeや発症年齢により予測できる可能性が示唆された。

 結論: 本研究の結果、日本人NF2患者は他集団のNF2患者と違い、白内障および非腫瘍性末梢神経炎の合併率が少なく、集団による違いの可能性が示唆された。またNF2患者におけるNF2遺伝子体細胞モザイクの検出には、従来の報告による末梢血DNAと腫瘍DNAだけの解析ではなく、その他の正常組織DNAを解析対象に加えることでその診断率を上げられる可能性が示唆された。最後にNF2患者の機能予後はNF2遺伝子mutation typeと発症年齢により大きく異なり、発症時での機能予後予測およびそれぞれの患者に合った新たな治療計画や治療方法の開発が今後期待される。

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