膵神経内分泌腫瘍におけるクロマチンリモデリング因子異常と腫瘍進展・予後との関連
概要
[課程-2]
審査の結果の要旨
氏名
安永 瑛一
本研究は膵神経内分泌腫瘍(Pancreatic Neuroendocrine Tumor; PanNET)の腫瘍進展におけ
るクロマチンリモデリング異常の意義を解明するために、多数の切除症例を対象として、ク
ロマチンリモデリング因子 DAXX、ATRX、H3K36me3 の発現と、関連するタンパク質の発
現や臨床病理像との関連について詳細な解析を試みたものであり、下記の結果を得ている。
1. PanNET および胃・十二指腸 NET 原発腫瘍の組織切片で DAXX、ATRX、H3K36me3 の
発現を免疫組織化学的に評価したところ、PanNET では 111 例中 18 例(16.2%)に 1 因
子以上の発現消失が見られ、うち 9 例は腫瘍内不均一性を示した。発現消失は胃・十二
指腸 NET には見られず、前腸由来消化器 NET で PanNET にほぼ特異的と考えられた。
2. PanNET 原発腫瘍におけるクロマチンリモデリング因子発現消失は高い増殖能や腫瘍径
と相関し、無再発生存期間を短縮させる因子であった。これを踏まえ、クロマチンリモ
デリング因子発現の評価を組み込んだ術後再発予測アルゴリズムを考案した。
3. PanNET 原発腫瘍の組織切片に対し膵ラ氏島 α/β 細胞に特異的な転写因子・ホルモンな
らびに治療標的因子 SSTR の発現を免疫組織化学的に評価したところ、クロマチンリモ
デリング因子の発現消失は、α 細胞様の転写因子・ホルモン発現や、SSTR2 の高発現と
相関していた。
4. クロマチンリモデリング因子発現に腫瘍内不均一性を示す PanNET 原発腫瘍では、
DAXX/ATRX の発現消失領域が腫瘍内で相互排他性を示す症例があることや、DAXX ま
たは ATRX の発現消失が見られる領域の一部に H3K36me3 発現消失が生じることを見
出した。また、クロマチンリモデリング因子の発現パターンが異なる全ての成分でびま
ん性に α 細胞様転写因子発現が見られたことから、クロマチンリモデリング異常は α 細
胞様転写因子発現を有する腫瘍細胞に、腫瘍進展の過程で生じることが示唆された。
5. PanNET 症例の転移再発腫瘍切除検体の組織切片に対して DAXX、ATRX、H3K36me3 の
発現を免疫組織化学的に評価したところ、対応する原発腫瘍と比較して新たな発現消失
が付加された症例はなかったこと、原発腫瘍で腫瘍内不均一性を示す症例では転移臓器
や再発時期によって発現パターンが変化しうることを見出した。
以上、本論文は、特に腫瘍内不均一性に着目した詳細な解析を行うことで、PanNET におけ
るクロマチンリモデリング異常の意義について新たな視点から示しており、PanNET の腫瘍
発生・進展の機序の解明や予後予測、治療法の開発に寄与すると考えられる。
よって本論文は博士( 医学 )の学位請求論文として合格と認められる。