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TPCL is a spermatid specific phospholipid species essential for spermatogenesis

赤木, 聡介 東京大学 DOI:10.15083/0002002515

2021.10.15

概要

【序論】
 ⽣体膜リン脂質は、極性頭部と脂肪酸鎖の組み合わせにより⽣体内に千種類以上もの分⼦種が存在している。リン脂質はその多様性から、単なる膜のバリアとしての機能のみならず、膜タンパク質の活性調節等を通じ、様々な細胞機能に影響を及ぼすことが知られている。⽣体内では、特定の組織にしか存在しない組織特異的なリン脂質分⼦種が存在することは古くから知られており、近年、それらの組織特異的なリン脂質分⼦種が組織の機能を制御することが徐々に明らかとなってきている。しかし、⽣体組織を対象にした包括的なリン脂質リピドミクス解析の事例は乏しく、古くから知られている分⼦種の他に、⽣体内にどのような組織特異的なリン脂質分⼦種が存在するのか、およびその⽣理機能に関してはほとんど不明である。そこで、私は本研究において、⽣体組織を対象にしたリン脂質リピドミクス解析を駆使することで、⽣体内に存在する新たな組織特異的なリン脂質分⼦種の同定、および機能解明を⽬指した。

【⽅法と結果】
1.飽和脂肪酸のみから構成されるリン脂質分⼦種TPCLが精⼦細胞特異的に存在する
 ⽣体内に存在する組織特異的なリン脂質分⼦種を探索するため、私ははじめに、マウスの様々な組織を対象に、LC-MS/MSを⽤いたリン脂質リピドミクス解析を⾏なった。測定された全293種のリン脂質分⼦種に対し、1)絶対量、2)リン脂質クラス内での割合(%)、に関する全14組織間でのz-scoreを算出した。その結果、1),2)どちらもp<0.01である24種を組織特異的なリン脂質分⼦種として同定した。これら24種のうち、精巣特異的に存在するカルジオリピン分⼦種TPCL(Tetrapalmitoyl Cardiolipin。脂肪酸鎖が全て飽和脂肪酸であるパルミチン酸で構成)が最もz-scoreが⾼く、着⽬した。精⼦形成過程の細胞を調べた結果、TPCLは減数分裂後の、半数体で尾部が形成される過程にある伸⻑精⼦細胞で顕著に増加することを⾒出した。
 カルジオリピン(CL)はミトコンドリアに限局して存在し、ミトコンドリア形態維持、呼吸鎖複合体活性など種々のミトコンドリア機能に関与するリン脂質であり、その脂肪酸鎖には通常、不飽和脂肪酸が主に結合している。そのため、飽和脂肪酸のみで構成されるTPCLの脂肪酸鎖は⾮常にユニークであり、TPCLが精⼦細胞の分化や機能に関与する可能性が考えられた。

2.CDS1依存的に産⽣される飽和CDP-DAGがTPCLの産⽣に重要である
 次に私は、精⼦細胞におけるTPCLの⽣理機能を明らかにするために、TPCLの産⽣機構の解明を⽬指した。CLは、グリセロール-3-リン酸を出発点として3つの中間代謝物PA(Phosphatidic Acid)、CDP-DAG(Cytidine Diphosphate-Diacylglycerol)、PG(Phosphatidylglycerol)を介して産⽣される。これらの中間代謝物の脂肪酸鎖組成をLC-MS/MSにより解析した結果、精巣中のPA分⼦種の中で飽和脂肪酸のみを持つPA(飽和PA)の割合はわずかなのに対して、飽和脂肪酸のみを持つCDP-DAG(飽和CDP-DAG)、PG分⼦種(飽和PG)が豊富に存在することを⾒出した。このことから、TPCLのユニークな脂肪酸鎖組成は、PAをCDP-DAGに代謝する反応により規定されていることが強く⽰唆された。
 PAをCDP-DAGに代謝する酵素の発現を調べたところ、CDS1(CDP-DAG Synthase1)が精巣に⾼発現しており、精⼦形成過程で発現が上昇することを⾒出した。そこで、CRISPR-Cas9システムを⽤いてCDS1⽋損マウス(∆/∆マウス)を作製した。∆/∆マウスの精巣および精⼦細胞では、飽和CDP-DAG、飽和PG、TPCL量が顕著に減少し、逆にCDS1の基質である飽和PA量が増加していた。このことから、精⼦形成過程において、CDS1依存的に飽和CDP-DAGが産⽣され、TPCLへと変換されることが明らかとなった。

3.CDS1∆/∆マウスは精⼦形成異常を⽰し雄性不妊である
 ∆/∆マウスの精⼦細胞でTPCLが顕著に減少していたため、次に私は、∆/∆マウスの表現型解析をおこなうことで、TPCLの精⼦形成への寄与を調べた。その結果、∆/∆マウスは精巣上体中の精⼦数が1/10程度まで減少し、雄性不妊であることがわかった。雌の∆/∆マウスは正常な⽣殖能を⽰したため、TPCLが精⼦形成特異的に重要なリン脂質であり、TPCLの減少が雄性不妊の原因となることが明らかとなった。

4.CDS1∆/∆マウスの精巣で、半数体の伸⻑精⼦細胞の分化異常が⾒られる
 精⼦形成過程のどの段階が∆/∆マウスで異常となっているかを明らかにするために、次に私は、∆/∆マウスの精巣のさらなる解析をおこなった。まず∆/∆マウスの精巣では、精原細胞の分化や減数分裂に異常は⾒られなかった。⼀⽅で、減数分裂後の半数体の精⼦細胞において、伸⻑精⼦細胞の細胞死と細胞数の減少が⾒られた。透過型電⼦顕微鏡を⽤いて詳細な形態を観察した結果、伸⻑精⼦細胞の分化後期の頭部形態形成、および細胞質の排出が異常となっていることを⾒出した。TPCLは伸⻑精⼦細胞で顕著に増加するリン脂質分⼦種であるため、TPCLは伸⻑精⼦細胞の分化に必要であり、伸⻑精⼦細胞の細胞死を伴う細胞数・精⼦数の減少が、∆/∆マウスの雄性不妊の原因であることが⽰唆された。

5.TPCLの減少により、伸⻑精⼦細胞中のROSが増加する
 先に記した通り、CLはミトコンドリアに限局して存在し、呼吸鎖複合体をはじめとした様々なミトコンドリアタンパク質の活性を制御するリン脂質であるため、TPCLの減少によるミトコンドリア機能への影響を検証した。まず、∆/∆マウスの精⼦形成過程の各細胞においてミトコンドリア数および形態に異常は⾒られなかった。また、∆/∆マウスの精⼦形成過程の各細胞におけるミトコンドリア膜電位、および精巣の酸素消費速度は野⽣型と同程度であり、TPCLの減少は呼吸鎖複合体の活性には影響を与えないことがわかった。⼀⽅で、∆/∆マウスの伸⻑精⼦細胞において、ROS(活性酸素種)が有意に増加していることを⾒出した。また、∆/∆マウスの⽣殖細胞において、CLに結合し、ペルオキシダーゼ活性を持つことが知られているCytochrome c(Cyt. C)が細胞質へ顕著に放出されていた。これらの結果から、精⼦細胞特異的なTPCLはCyt. Cの制御を通じて、ROS蓄積を抑制している可能性が⽰唆された。

6.TPCLはCyt.Cを強く保持し、ペルオキシダーゼ活性を顕著に上昇させる
 ∆/∆マウスの⽣殖細胞でCyt. Cの細胞質への放出が⾒られたため、次に私は、Cyt. CとTPCLの相互作⽤についてin vitroのリポソーム共沈降実験により検証した。その結果、Cyt. Cは不飽和脂肪酸を持つ体細胞型CLに⽐べてTPCLへの結合の親和性が⾼いことを⾒出した。また、Cyt. Cのペルオキシダーゼ活性を調べたところ、体細胞型CLに⽐べてTPCLに結合したCyt. Cは、ペルオキシダーゼ活性の顕著な上昇を⽰した。これらの結果から、TPCLは体細胞型CLに⽐べてCyt. Cを強く保持し、ペルオキシダーゼ活性を顕著に上昇させることでROSのクリアランスを促進している可能性が⽰唆された。

【まとめと考察】
 本研究において私は、TPCLという飽和脂肪酸のみで構成されるリン脂質分⼦種が精⼦細胞特異的に存在し、精⼦形成過程で重要な役割を果たしていることを⾒出した。
体細胞のCLは不飽和脂肪酸から構成される⼀⽅で、精⼦細胞はTPCLという脂肪酸鎖の特徴が全く異なるCL分⼦種を積極的に利⽤している点は、⼤変興味深い。CLは呼吸鎖複合体の活性制御に関わる⼀⽅で、アポトーシス刺激時にはCLに結合したCyt. Cによって脂肪酸鎖の⼆重結合が酸化を受け、細胞死を促進するという⼆⾯性を持つリン脂質である。⼀⽅でTPCLの脂肪酸鎖は全て飽和脂肪酸であり、Cyt.Cによる酸化を受けない。そのため、精⼦細胞はTPCLを⽤いることで、尾部形成等の形態変化に伴い産⽣されるROSを、細胞死を起こさずクリアランスしている可能性が考えられる。これらを合わせると、過剰なROSに対して、体細胞型のCLは機能不全細胞の細胞死を誘導することで組織恒常性維持に必要な⼀⽅で、TPCLはROSをクリアランスすることで精⼦を残すために必要である可能性が考えられる。
 また、伸⻑精⼦細胞は、細胞質成分をResidual Body(RB)として排出することで最終的に⼩型な精⼦へと成熟するが、∆/∆マウスの伸⻑精⼦細胞はRBの排出異常を⽰した。DrosophilaではRB様構造の排出に、ミトコンドリア外膜上でのCaspase活性化が必要であることが報告されており、また、アポトーシス刺激時にCLは、ミトコンドリア外膜上でCaspase活性化の⾜場を形成することも知られている。精⼦細胞特異的なTPCLは、ミトコンドリア外膜上でのCaspase活性化の⾜場を形成することで、RB排出を促進している可能性も考えられる。今後は、in vivo,in vitro双⽅の解析を通じて、精⼦細胞がTPCLという特徴的なCL分⼦種を利⽤する⽣物学的意義を明らかにするとともに、本研究により同定された他の組織特異的なリン脂質分⼦種の⽣理機能の解析をおこなっていきたい。

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