Studies on Plant Root-promoting Activity for 3-Phenyllactic Acid Identified from Bokashi Fertilizer [an abstract of entire text]
概要
ぼかし肥料は、日本において古くから利用されてきた有機質肥料の一種である。有機質原料を土着の微生物によって発酵させることで作られ、有機質肥料としての作用にとどまらず、発根促進、収穫物の品質向上などの植物成長調節作用を示すことが知られていた。しかし、そのメカニズムは明らかになっていなかった。私は、ぼかし肥料の発酵過程に関わるとされる乳酸菌に着目し、その培養液が植物に与える影響を検証した。
1章において、乳酸菌培養液をアズキ茎不定根促進アッセイ系を用いて評価した結果、不定根促進物質が存在することを見出した。活性物質を単離・構造決定したところ、3-フェニル乳酸(PLA)であることが明らかとなった。また、PLAの不定根促進活性はトリプトファン(Trp)と協働的に働くことが示された。PLAとTrpの結合物が活性本体であるという仮説の元、アミド結合物(PLATrp)を合成した。その活性は、PLAとTrpの当量混合液と比較して顕著な高さを示さなかったことから、結合物が活性本体ではないことが示唆された。一方でPLA-Trpは明確に不定根誘導活性を示したことから、2章において、発根剤としての開発を視野に本化合物をリード化合物とした合成展開を行った。その結果、PLA-Trpエチルエステルについて、リード化合物に対して3400倍の活性を示すことが示された。本化合物はリード化合物に対して疎水性が高まっており、細胞膜透過性の向上により活性が高まったと考えられた。
3章においては、PLAの生理学的メカニズムについて、発根を司る植物ホルモンであるオーキシンとの関係性を検証した。シロイヌナズナの野生型およびオーキシン応答変異体に対してPLAを施用したところ、オーキシンへの応答と類似の反応を示した。また、PLAはオーキシン誘導性プロモーターの発現を誘導した。これらの結果は、PLAがオーキシン応答を介して発根を促進していることを示すものであった。一方で、yeast heterologous reconstitution systemを用いた検証では、PLAはAux/IAAの分解を促進せず、オーキシン受容体のリガンドとなり得ないことが示唆された。そこで、安定同位体標識PLAを合成し、アズキおよびシロイヌナズナに施用して挙動を検証した。標識PLA施用植物体からは、標識されたフェニル酢酸(PAA)が検出された。この結果から、PLAは植物体内において天然オーキシンであるPAAに変換されることで、発根を促進していることが示された。
本研究により、ぼかし肥料の植物成長調節活性の一端を乳酸菌代謝物であるPLAが担っており、PLAがPAAに変換されることで発根活性を持つことが示された。