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大学・研究所にある論文を検索できる 「マウスの拡張扁桃体における社会挫折ストレス特異的なc-Fos発現の増加:内側前頭前皮質におけるドパミンD1受容体の関与」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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マウスの拡張扁桃体における社会挫折ストレス特異的なc-Fos発現の増加:内側前頭前皮質におけるドパミンD1受容体の関与

沼, 知里 神戸大学

2022.09.25

概要

目的
嫌悪刺激や過酷な状況などの環境から受けるストレスは、その程度によって様々な生体反応を引き起こす。ストレスが短期間で適度であれば、「闘争・逃走反応」などの適応的な反応を引き起こし、ストレスに対する抵抗力を促進すると考えられている。一方、ストレスは過度になると、認知・情動機能の障害を惹起し、精神疾患の素因となると考えられている。齧歯類のストレスはうつ様行動変化を生じることからうつ病の病態解明に用いられてきており、これまでの研究からストレスが神経細胞の構造や機能を変化させることが明らかになっている。報酬系を司る腹側被蓋野のドパミン作動性神経細胞において、短期の社会挫折ストレスは発火率の増幅をもたらすが、長期では発火率を減少させること、ドパミン系の機能不全は反復社会挫折ストレスによる社会忌避行動の誘導に重要であることが示されている。

当研究室では、認知・情動機能の異常を生じない単回の社会挫折ストレスにおいては内側前頭前皮質の興奮性神経細胞におけるドパミンD1受容体がうつ様行動を負に制御することを報告した。また内側前頭前皮質のドパミンD1受容体への作用が薬剤の抗うつ作用に重要であることが、ケタミンの作用機序やD1受容体作動薬の作用の研究から報告されている。また内側前頭前皮質から側坐核、扁桃体外側基底核や背側縫線核への神経細胞投射がうつ様行動や不安様行動を抑制性に制御していることが明らかにされている。

上述の知見を統合すると内側前頭前皮質におけるドパミンD1受容体シグナルが特定の脳領域への神経投射を介して抗うつ作用をもたらす可能性が考えられる。しかしこれまでの研究では、内側前頭前皮質から出力するどの神経投射がドパミンD1受容体シグナルによって制御されるかを系統的に検討した研究はない。

本研究はドパミンD1受容体シグナルによって制御される内側前頭前皮質からの遠心性神経投射、さらにはストレスによる内側前頭前皮質ドパミンD1受容体の抗うつ作用を担う神経投射を明らかにすることを目的としている。

方法
7-8週齢の雄C57BL/6Nマウスと交配リタイヤ雄ICRマウスを日本SLCから購入し使用した。C57BL/6を遺伝子的バックグラウンドとし、CreリコンビナーゼをドパミンD1受容体のプロモーター下で発現させたDrd1a-Creマウスは、MMRRCから購入した。

社会挫折ストレスにおいては、攻撃を担うICRマウスは、毎日3分間、3日間の攻撃性スクリーニングを行った。最初の攻撃までにかかる時間と3分間の攻撃回数をもとに攻撃性を評価した。雄C57BL/6Nマウス1匹を、単独飼育のICRマウスのホームケージに移し10分間の攻撃に供した。コントロールとして、ICRマウスがいない新規ケージを10分間探索させる新規環境探索群と変化を与えずホームケージに残すナイーブ群を用意した。

脳内神経細胞活動のマーカーであるc-Fos発現解析においては、神経活動による発現が誘導されるストレス曝露の90分後にC57BL/6Nマウスを還流固定した。厚さ30μmの脳切片を作成しc-Fosの免疫染色を行った後、蛍光顕微鏡にて広域観察を行った。解析する脳部位はAllen Mouse Brain Atlasに基づいて定義した。MetamorphのTransfuorアプリケーションモジュールを適用し、直径9-30μmの範囲にある神経細胞核の検出とカウントを行った。

ドパミンD1受容体のノックダウンにおいては、標的とする人工miRNA(D1miRNA)または核酸配列を入れ替えたコントロールmiRNAとEmGFPをCreリコンビナーゼ依存的に発現するアデノ随伴ウイルスベクターを用い、定位固定手術により内側前頭前皮質への局所投与を行った。投与座標はマウス脳アトラスを基に決定し両半球の内側前頭前皮質(脳幹から前方1.8mm、外側0.4mm、腹側2.8mm)に投与した。術後4週間の回復期間をおき、社会挫折ストレスに曝露した。

ドパミンD1受容体作動薬(SKF81297)の脳内局所投与においては定位固定手術によりカニューレを留置した。ガイドカニューレを両半球の内側前頭前皮質(脳幹から前方1.8mm、外側0.4mm、腹側2.8mm)に留置し、セメントで固定した。術後1週間の回復期間の後、生理食塩水に溶かした薬剤を両側に投与し、2時間後に還流固定を行った。その後、厚さ30μmの脳切片を作成しc-Fosの免疫染色を行った。

逆行性神経細胞トレーシングには、EYFPをCreリコンビナーゼ依存的に発現する逆行性感染性の組み換え型アデノ随伴ウイルスベクターを用い、定位固定手術により前交連後部間質への局所投与を行った。マウス脳アトラスに基づき片半球の前交連後部間質(脳幹から前方0.0mm、外側2.2mm、腹側4.9mm)に投与した。術後2週間または4週間の回復期間後に還流固定を行い、50μmの脳切片を作成した。EYFPの免疫染色に供し、共焦点顕微鏡により観察した。

結果
軽度な社会挫折ストレスによる内側前頭前皮質のドパミン応答とD1受容体シグナルの抗うつ作用を担う神経投射を調べるため、まず軽度なストレスを模倣した単回の社会挫折ストレス曝露により神経細胞活動が亢進する脳領域のスクリーニングを、c-Fos発現解析により実施した。嫌悪感を伴うストレス刺激による神経活動変化と情動を伴わない刺激による変化を区別するため、単回の社会挫折ストレス曝露と新規環境探索によるc-Fos発現変化を比較した。その結果、情動制御に関わる次の脳領域で単回の社会挫折ストレス曝露により神経細胞活動が亢進することを明らかにした(側坐核、外側中隔核腹側、分界条床核、前交連後部間質(IPAC)、扁桃体中心核、扁桃体皮質核、扁桃体後核)。

次にこれらの神経細胞活動が内側前頭前皮質のドパミンD1受容体に依存するかを調べるため、受容体のノックダウンが上述の脳領域の神経活動に及ぼす影響を調べた。その結果、前交連後部間質においてのみストレス曝露による神経活動亢進が抑制された。前交連後部間質は線条体淡蒼球系と外側分界条床核-扁桃体中心核-連続体の間に位置し、拡張扁桃体を構成する。上述の結果から単回の社会挫折ストレス曝露において前交連後部間質が選択的に内側前頭前皮質ドパミンD1受容体による正の制御を受けることが明らかになった。ただし、内側前頭前皮質へのD1受容体作動薬投与は前交連後部間質の神経活動亢進を引き起こすのに十分ではなかった。

最後に前交連後部間質が内側前頭前皮質のD1受容体発現細胞から直接投射を受けるかを調べるため、Drd1a-Creマウスを用いて、前交連後部間質に逆行性に感染するアデノ随伴ウイルスを投与し、逆行性神経細胞トレーシングを行った。その結果、内側前頭前皮質においてEYFPを発現する錐体細胞が観察され、主に深層に多く観察された。したがって内側前頭前皮質深層から前交連後部間質へD1受容体発現錐体細胞による直接投射があることが示された。

考察
情動制御に関わる拡張扁桃体のいくつかの脳領域が、軽度な社会挫折ストレス曝露特異的に活性化された。中でも前交連後部間質は内側前頭前皮質のドパミンD1受容体によって制御されていることが明らかになった。内側前頭前皮質から前交連後部間質へD1受容体発現錐体細胞による直接投射があることを明らかにし、D1受容体による前交連後部間質の制御は直接投射を介していることが示唆された。

拡張扁桃体は痛みなどの嫌悪刺激により活性化され、恐怖記憶、不安様行動に関与することが示されており、ストレス曝露により特異的に生じるこれら脳領域の神経活動亢進はストレス刺激の嫌悪性の高さを反映していると考えられる。また既存の抗うつ薬であるセロトニン/ノルアドレナリン選択的取り込み阻害薬が内側前頭前皮質における細胞外ドパミン濃度を上昇させることや、抗うつ薬の投与が前交連後部間質のFos発現を誘導することが示されており、この発現誘導に内側前頭前皮質ドパミンD1受容体が関与している可能性がある。しかしD1受容体作動薬の内側前頭前皮質への局所投与では前交連後部間質によるcFos発現誘導は見られなかった。この実験では内側前頭前皮質のc-Fos発現誘導もみられず、原因としてD1受容体作動薬が内側前頭前皮質の神経活動亢進に十分でなかった可能性を考えている。またドパミンによる線条体のc-Fos発現にNMDA型グルタミン酸受容体が関与しているという報告があり、ドパミン受容体とNMDA型グルタミン酸受容体の同時刺激が必要である可能性も考えている。

内側前頭前皮質から前交連後部間質へのD1受容体発現神経細胞による直接投射は、主に錐体細胞が担っていることを示した。錐体細胞は一般に興奮性神経細胞であることから、社会挫折ストレスによる前交連後部間質の興奮性神経活動に直接関与している可能性が高いと考えているが、他の間接投射が関与している可能性を否定するものではない。またドパミン系が前交連後部間質のドパミン受容体に直接作用する可能性も否定できない。

結論
本研究では社会挫折ストレスによりドパミンD1受容体による制御を介してc-Fos発現亢進を示す脳領域を探索し、前交連後部間質を同定した。この脳領域が内側前頭前皮質ドパミンD1受容体の抗うつ作用にどのような役割を果たしているかを調べることにより、適応的ストレス応答を担う神経回路同定の手掛かりを得られるかもしれない。

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