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大学・研究所にある論文を検索できる 「大脳皮質体性感覚野における疼痛で誘発される局所神経回路の活動制御は急性疼痛に対する新たな治療標的になりうる」の論文概要。リケラボ論文検索は、全国の大学リポジトリにある学位論文・教授論文を一括検索できる論文検索サービスです。

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大脳皮質体性感覚野における疼痛で誘発される局所神経回路の活動制御は急性疼痛に対する新たな治療標的になりうる

Okada, Takuya 神戸大学

2021.03.25

概要

(目的)
 疼痛は末梢組織の侵害による炎症や神経の損傷によって生じ、その発生や維持に中ί区神経系の異常が関与していることが報告されているが、詳細なメカニズムの解明には至っていない。これまで脊髄後角における神経細胞活動やグリア細胞に着目した重要な疼痛研究が進められてきたが、近年の画像技術の発達に伴い、脳領域の疼痛研究が増加傾向にある。大脳皮質第一次体性感覚野(S1)は疼痛の強度や部位の識別に関与する重要な脳領域であり、これまでの機能的核磁気共鳴法(fMRI)や2光子顕微鏡を用いた生体カルシウムイメージングの研究によって、急性疼痛時にS1の神経細胞集団の活動が亢進することが示されてきたが、同一の各神経細胞間の機能的結合や活動の相関性が経時的にどのように変化し、それらの変化が疼痛の病態へどのような影響をもたらすかは明らかではなかった。そこで本研究では、2光子顕微鏡による生体カルシウムイメージング法を用いてS1の同一の神経細胞を経時的に追跡し、炎症性疼痛モデルマウスにおけるS1の神経細胞の疼痛時および自発的活動、活動相関性を検証した。
 さらに局所神経回路の機能結合を評価するためにホログラフィック光刺激によって1つの神経細胞を刺激した際の周囲の神経細胞の応答を可視化し、数理的に解析した。また、化学遺伝学的手法を用いたS1神経細胞の人為的制御が疼痛閾値に与える影響を評価し、S1の神経細胞活動と疼痛閾値の因果関係を詳細に検討した。さらに、それらの分子メカニズムの探索としてフローサイトメトリー法を用いてモデマウスの疼痛急性期におけるS1神経細胞の各イオンチヤネルの発現変化に着目し、その拮抗薬が神経細胞活動変化および疼痛閾値に及ぼす影響を検討した。これらを検証することで、急性疼痛時のS1の神経回路活動の変化およびその背景にある分子メカニズムを抽出し、これまでにない神経回路を標的とした疼痛治療法の構築を目指した。

(方法と結果)
 疼痛モデルとして雄性C57BL/6マウスに対しComplete Freund’s adjuvant(CFA)の足底注入による炎症性疼痛モデルを作製し、行動解析はvon Frey試験・ホットプレート試験で評価した。神経細胞活動の可視化には、アデノ随伴ウイルスを注入することで、S1後肢領域の第2/3層の神経細胞に(シナプシンプロモーターを使用)カルシウム感受性緑色蛍光タンパク(GCaMP6f)を発現させ、2光子顕微鏡を用いた生体カルシウムイメージングにより神経細胞の活動を可視化した。画像解析にはMatlabを使用し、各神経細胞の蛍光輝度の経時デー夕から各神経細胞の活動性および神経細胞間の活動相関性を評価した。
 まず、疼痛のない野生型マウスと炎症性疼痛急性期(作製後3日目)のマウスに対し、S1後肢領域の第2/3層の神経細胞を可視化した。観察中に足底に熱刺激を行い、S1神経細胞の活動変化を評価したところ両群ともに刺激中に神経細胞が応答し活動が増加したが、両群で著明な差は認めなかった。そこで、続いてモデルマウスを作製する前後で神経細胞の自発活動を経時的に評価した。行動解析によって、モデルマウス作製後14日間は疼痛閾値が低下し、28日目には疼痛閾値が元の状態まで改善することを確認した。そして、14日目までの疼痛維持期間に着目し、生体イメージングによりモデルマウス作製後の疼痛急性期から維持期(作製後3,7,14日目)では、S1神経細胞の自発活動が上昇し、各細胞間の活動相関性が上昇していること、また疼痛の改善(作製後28日目)に伴ってそれらが元の状態まで低下することを明らかにした。次にどのような神経細胞群が疼痛行動に関与するのかを明らかとするため、モデルマウス作製前後で神経細胞それぞれの活動の変化を検証すると、モデル作製前に活動性の低い神経細胞ほど疼痛によって活動性が増加することがわかった。また、抑制性神経細胞であるパルブアルブミン(PV)陽性細胞を可視化(PV-Creマウス使用)して同様の実験を施行し、モデルマウス作製前後でS1のPV陽性細胞の自発活動に有意な変化はなく、活動相関性は疼痛急性期(3,7日目)に低下していることがわかった。以上から、炎症性疼痛モデルマウス作製後の疼痛急性期から維持期にS1神経細胞の自発活動が上昇し、各細胞間の活動相関性が上昇した結果には疼痛発生前に活動性の低い興奮性神経細胞が寄与していることが示唆された。
 これらの結果をさらに検証するために、2光子顕微鏡と空間光位相変調器を利用したホログラフィック技術を融合させることで任意の細胞を選択して光刺激が出来る2光子ホログラフィック顕微鏡を使用し、マウスのS1後肢領域の第2/3層の神経細胞にカルシウム感受性蛋白質(GCaMP6m)および光活性化タンパク質(ChRmine)を発現させ、モデルマウス作製前後でS1の1つの神経細胞を刺激した際の周囲の神経細胞の応答を経時的に観察することで各神経細胞間の機能的結合を評価した。その結果、モデルマウス作製後の疼痛急性期(作製後3日目)では作製前に比較してS1の1つの神経細胞を刺激した際の周囲の応答する神経細胞数が上昇し、疼痛の改善に伴って応答する神経細胞数が低下することがわかった。以上から、疼痛急性期においてはS1の各神経細胞の機能的結合が強化された結果、各神経細胞の活動相関性が増加し、疼痛の改善に伴ってそれらが弱くなったことが示唆された。
 次にS1局所の神経細胞活動と疼痛閾値の関連を検証するために、化学遺伝学的手法を用いてヒトムスカリン受容体を改変した変異型ヒトムスカリン受容体(hM3Gq)をS1後肢領域の第2/3層の神経細胞に発現させ、クロザピン-N-オキシド(CNO)で人為的に神経細胞活動を制御し、CNOの単回および慢性投与(1日1回7日間、連日投与)による神経活動変化や疼痛閾値の変化を評価した。その結果、S1の神経活動を人為的に活性化させたマウスでは、単回および慢性投与で共にS1の神経細胞活動の自発活動が上昇および各神経細胞間の活動相関性が増加し、さらに疼痛閾値が低下することがわかった。
 続いて、上記の結果に関与する分子メカニズムを探索するために、フローサイトメトリー法を用いてモデマウスの疼痛急性期(作製後3日目)のS1神経細胞の各イオンチャネルの発現量を定量後、疼痛のない野生型マウスと比較した。その結果、Ν型カルシウムイオンチャネルの発現量がモデルマウスでは有意に増加していたが、その他のカルシウムチャネルの発現量に有意な差を認めなかった。そのためΝ型カルシウムイオンチャネル拮抗薬(PD173212)を脳室内単回投与および徐放製剤を用いてS1へ局所慢性投与を行い、神経細胞活動や疼痛閾値に与える効果を検証した。その結果、急性疼痛期のモデルマウス(作製後3日目)に対してPD173212を脳室内に投与することで、S1神経細胞の自発活動や活動相関性が低下し、疼痛閾値が上昇することがわかった。またPD173212の徐放製剤を用いたS1への局所慢性投与により、モデルマウスの疼痛閾値が有意に改善することがわかった。

(考察)
 疼痛は末梢組織の侵害や神経の損傷によって生じ、脊髄から上行性の感覚経路を介して脳で認識される。近年、ヒトや動物によるfMRIの研究により様々な脳の領域が疼痛に関与していることが示唆され、“pain matrix”と呼ばれている。中でもS1は疼痛の強度や部位の識別に関与する重要な脳領域であり、これまでのfMRIや2光子顕微鏡を用いた生体イメージングの研究によって、急性疼痛時にS1の神経細胞集団の活動が亢進することが示されてきた。しかし、同一の各神経細胞間の機能的結合や活動の相関性が経時的にどのように変化し、疼痛の病態へどのような影響をもたらすかは明らかではなかった。生体カルシウムイメージングやホログラフィック顕微鏡を用いた本研究によって、疼痛急性期には、S1において神経細胞活動が亢進するだけではなく、各神経細胞間の機能的結合が強化され、その結果S1神経細胞の活動相関性が増加することがわかった。また、神経細胞には興奮性および抑制性に代表されるサブタイプが存在し、これまでの疼痛研究で抑制性神経細胞の活動に関して言及した報告が散見されるが、現在のところ一定の見解は得られていない。本研究では、抑制性神経細胞であるPV陽性細胞を可視化しモデルマウス作製前後で活動を評価したが、その活動に有意な変化がなかったため、上記の結果には興奮性神経細胞が寄与していることが示唆された。
 次に、本研究の結果として疼痛急性期のS1神経細胞ではN型カルシウムイオンチャネルの発現が増加しており、その拮抗薬(PD173212)の脳室内単回投与および徐放製剤を用いたS1局所慢性投与が疼痛改善に有効であった。すでにN型カルシウムイオンチャネル拮抗薬(Ziconitide)、の髄腔内投与がヒトの難治性疼痛に有効であることがこれまでに示されているが、しかしながら、Ziconitideには中枢性の副作用が多く現在のところ使用が限定的である。
 以上から、急性疼痛に大きく関与するS1の神経細胞の同定およびN型カルシウムイオンチャネルの発現増加のメカニズムの特定により、神経細胞間の機能的結合の増加を防ぐことが、急性疼痛に対する新たな治療法開発に繋がる可能性がある。

(結論)
 疼痛急性期には、S1において神経細胞活動が亢進するだけではなく、各神経細胞間の機能的結合が強化され、その結果、活動相関性が増加することがわかった。また、疼痛急性期のS1神経細胞ではN型カルシウムイオンチャネルの発現が増加しており、拮抗薬の脳室内単回投与および徐放製剤を用いたS1局所慢性投与が疼痛改善に有効であった。本研究の結果は、急性疼痛に対する新たな治療法開発に繋がる可能性がある。

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